見出し画像

【論文メモ1】「何が正しいか」よりも「誰が正しいか」が組織的違反の容認を招く

 読んだ論文についても、たまには触れてみようと思って、メモ的に書いてみる。
 約20年前の論文だが、最近読んで面白かった、「属人思考」についての論文を取り上げてみる。


取り上げる論文

組織風土による違反防止―『属人思考』の概念の有効性と活用-
Organizational Climates for Violation Prevention:
Validity and Practical Use of "Person-Oriented Thinking Styles"
鎌田  晶子 ・上瀬  由美子 ・宮本  聡介・今野  裕之・岡本  浩一
社会技術研究論文集 Vol.1, 239-247, Oct. 2003

概要

組織風土が組織の違反に与える影響について、組織風土の「属人思考」に着目し、質問紙調査の 手法を用いて検討した。

属人思考とは?

組織風土の属人志向(以下、属人風土)とは、事柄の評価の際に、誰がそれを行っているのかという「人」情報 を重要視する組織風土である。

社内の 会議で新しい企画の採否を決めるような場合に、その企画の立案者は誰か、他に 関わる人が誰か、その人は社内では誰の派に属するのかなど、企画内容以外の「人」に関する事項が意志決定に大きな影響を及ぼしがちな組織風土(岡本  2001)のこと

 このような「人」に対する志向性の高い風土であると以下のようになるという。

・職場への忠誠心や所属意識が重んじられ、上下関係のけじめが甘くなると考えられる。
・属人風土では、個人のキャリアへの悪影響や人間関係 の不調和を回避するため違反が容認されやすいのではな いかと考えられる

この属人思考、いろいろな場面で見かけることが多いなあと思っている。

本研究の構成

本研究は、以下の3つの研究から成り立っている。

【研究1】 組織風土が組織における違反容認に与える影 響について検討を行う
【研究 2】 研究1 で得られた結果の信頼性の確認を行う
【研究 3】 属人風土を形成する 1 要因として、組織メンバーの属人思考の測定に向けた、 属人的判断傾向の特徴について検討する

各々の研究を概観していきたい。

研究1

【目的】
組織風土から、組織内の違反容認(個人的違反の容認・組織的違反の容認)の予測可能性を検討することを 目的としている。

なお、「個人的違反の容認」「組織的違反の容認」は、各々以下のように定義づける。

「個人的違反の容認」とは、遅刻や備品の私物化に代 表される、従業員が意図的に組織における生産や所有を 逸脱する、職場逸脱行動(Robinson & Bennett, 1995) の容認を指している。

「組織的違反の容認」とは、いわゆる組織ぐ るみの違反を示している。これらは、従業員の個人利益 追求型の違反行為ではなく、組織や職場の利益を上げる 目的での違反が容認される雰囲気を指している。このような違反は、作業の効率化やコストの削減を目的として、組 織全体のために良かれという思いに由来した違反行為であ る可能性や、また、職場内で自己の立場を保持のための不本意ながらもやらざるを得ない違反行為である可能性が推測される。

【方法】
<調査・分析対象者>
関東地域の国立・私立大学に在学中の大学生の家族 1146  名に調査票を配布し 382 名から回答を得た(回収率 33.3%)。そのうち、調査票に記入漏れのない、企業・官 公庁に正社員・正職員として勤務している者 310 名(男 性  253 名・女性  57 名)を分析対象者とする。

<調査・分析内容>
以下の項目につき、「あてはまらない(1 点)」から「あてはまる(5 点)」までの 5 段階で評定。

【結果】

「命令系統の整備 」は、個人的違反容認の雰囲気に関連が強く(-.49)、命令系統の整備が行き届いているほど、個人的違反が起こりにくい可能性が示 された。
「属人的組織風土」では、個人的・組織的違反容 認の雰囲気の両者に有意な関連が認められたが、組織的 違反容認の雰囲気と特に強い関連を持つこと(それぞ れ、.18, .68)が明らかになった

研究2

【目的】

・研究 1で得 られた共分散構造モデルの信頼性を、異なったサンプル を用いて検討
・組織風土の属人度が高いと、実際に違反の件数が多いのかどうかについて検討

【方法】
<調査・分析対象者>
首都圏40km圏内在住の25 歳から59 歳の男性勤め人 を調査対象とした。調査標本数は750、回収数は492 (回収率65.6%)。

<調査・分析内容>
研究1 と同様の内容に加え、現在の職場での組織 的違反の経験を尋ねる項目を作成し、「はい(違反経験が ある)」、「いいえ(違反経験がない)」の2 件法で回答を 求めた。

【結果】
研究1で作 成された共分散構造モデルと、ほぼ 同様の結果が得られ、再現性を確認できた(Table1)。

また属人風土は、組織的違反に関連していることが分かった(Table2)。

研究 3

【目的】
個人の属人度を測定する尺度(「属人的判断傾向尺度 」)を開発し、「属人的判断傾向尺度 」の特徴を既存の心理尺度との関連から、属人的判断傾向の特徴を明らかにする。

【方法】
<調査・分析対象者>
関東の私立大学に在学する大学生369名を対象にアンケートを実施

<調査・分析内容>
属人的判断傾向尺度として17項目(上記Table2と以下のTable3を参照)を作成、一般的心理尺度と合わせて測定した。

【結果】

因子分析の結果、親しい人には反論できない内容を示す項目から成り立っている第1 因子を「賛否と好意の混同傾向」、他 者の意見を参考にする際に、内容よりも誰がそれを言っ ているのかを重視する内容を示す項目からなる第 2 因子 を「発言者の重視傾向」と名づけた。

一般的心理傾向との関係で言うと、以下のTable4の通り、属人的判断傾向の強い者は、 周囲の目を 意識しがちで、周囲から認められたいという欲求が強く、 あいまいな情報について、よく考えてから解決しようと する動機づけや、処理能力が低い傾向が考えられた。2 因子の相違については、「賛否と好意の混同傾向」を持つ 者は、あまり主体的行動を好まない傾向があり、「発言者 重視傾向」を持つ者は、強い者に従う権威主義的傾向が 強い特徴が示唆された。

わかったこと

本研究から、わかったことは、以下の点などである。

・組織における個人的な違反を防止するためには、命令系統の整備が有効である可能性。マニュアルを整える、権限関係を明示化するなど、目に見える形での具体的な介入によって違反防止効果が上がる。

組織的な違反を防止するためには、属人風土を低減させる方策が有効である可能性

・属人的判断傾向の強い者は、周囲の目を意識しがちで、周囲から賞賛されたい、拒否され たくないという欲求が強い傾向。

・組織の中で他者 との人間関係を重視するあまり、特定の他者の発言に正 当に意見を述べられないという属人思考に陥るのであれ ば、組織的違反の黙認につながる危険性を秘めている

感想

 本論文は、2003年のものであるが、今に至っても、この「属人思考」「属人風土」というのが、本当、アルアルだなあと思う。
 また現在に至るまで組織の不正はなくなっておらず、最近もよく報道で耳にするところである。

 著者らの以下の指摘は、昨今の事態を予言しているようにも見える。

今後、日本の社会において、さらに人材の流動化が進むことが予想される。そのような社会全体の変化の中で、組織や職場内での安定した人間関係に安心し、閉じられた人間関係の 中で属人的に思考し続けることは、変化の波に乗り遅れ、 より多くの組織ぐるみでの不正、不祥事を引き起こす結 果を生みかねない。

「誰が正しいか」ではなく「何が正しいか」、フラットに議論できる環境作りが大切なんだろうなあ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?