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【人材開発研究大全⑪】第2章 採用面接 今城志保

 前回の「第1章 採用」が興味深かったため、引き続き、採用関連についての論考について読みたいと思い、「第2章 採用面接」を取り上げることにしたい。

本章は、こんな問いかけから始まる。

そもそも、なぜ面接評価は採用において重要なのだろう。採用において組織は何を評価すべきだろうか。そしてその評価方法として面接は妥当だろうか。
科学的な実証研究が目指すのは、上記のような問いへの答えを提供することである。

 採用面接を中心とした採用時の評価と入社後の評価に相関はあるのかは、以前、採用を担当していた時に何度も考えたことがあったので、本章はとても興味深くまた自分の頭の中を整理するのに役立った。



先行研究紹介

まず、採用面接に関する先行研究の紹介からはじまる。

1:採用選考手法としての面接評価の有効性

採用面接の評価は、その人物を評価する手法として正しいのであろうか?という観点からの先行研究を紹介している。

 Highhouse(2008)
 採用担当者は面接を評価方法として最も妥当であると思っている一方で、実証研究における面接評価の妥当性は他の採用評価の手法と比べてそれほど高くないという矛盾を指摘

Schmidt&Hunter(1998)
85年間にわたって実施された採用選考に用いられる様々な評価手法と入社後のパフォーマンス評価や職務遂行能力の関連性のメタ分析を行い、評価手法間の比較検討をして、以下の計数から評価ツールとして十分許容できる値といえるとした
・知的能力検査の妥当性係数  ρ=0.51(メタ分析による相関の平均推定値)
・構造化された採用面接    ρ=0.51
・構造化されていない採用面接 ρ=0.38  

2:採用面接の評価内容に関する研究

続いて、どのよう人物特徴が面接で評価できるのかに関する先行研究を紹介する。

Huffcutt et al.(2001)
面接に関する主要な研究で用いられた評価指標を「知的能力」「知識・スキル」「性格特性」「社会的スキル」「興味・志向」「組織適合」「身体特徴」の7つに分類

上記で設定したような指標が、面接で適正に評価されるかについては、支持する研究も支持しない研究もあるという。
 以下の前者は支持する先行研究、後者は支持しない先行研究である。

Kehle&Latham(2006)
ビジネススクールの学生を対象にチームワークの程度を面接で評価した後、授業の中でチームで課題に取り組ませ、チームメイトからのチームワークの評価を取ったところ、この評価結果と面接評価が優位な相関をしめしたことを報告

Van Iddekinge et al.(2004)
顧客サービス担当マネジャーの採用において実施した面接の評価結果と、面接で評価した性格特性や顧客サービス志向などについて応募者が回答した質問紙の得点の間にほとんど相関がなかったことを報告

面接評価と職務遂行度の関連性については、評価する内容が特定されないと、関連性を解釈するにも問題になる(Arthur&Villado 2008)と結論づける。

「概念的枠組み」の提案

そのような状況を鑑みて、今城(2016)は、採用面接の評価内容をまとめるための概念的枠組みを以下の図の通り提案する


人材開発研究大全 第二章 図1

概念的枠組みでは、面接評価において、以下の3つの内容を評価を行うのが適切ではないかとする。

職務との適合評価
入社後の職務遂行における成功を予測するための人物特徴の評価

組織との適合評価
入社後の組織文化や組織の価値観との適合を予測するための人物特徴の評価

一般的な対人評価
面接場面で自然に評価されるもの

特にこの最後の「一般的な対人評価」が実は面接の時に一番行われているのかなとも思う。

採用面接は、面接者と応募者の対人相互作用の場面でもある。対人認知の研究では、私たちがほぼ自動的に相手の人物特徴の推論を行っている(Uleman et al 2008)

では、この自然に行われる人物評価が入社後の活躍の予測に役立つのか?

先行研究では、自然に生ずる評価について表立って取り上げられることはほどんどなかったとするが、面接研究ではないが、かなり限られた情報からの印象評価にも妥当性があることが示されている(Ambady&Rosenthal 1992)こともあるとして、著者は以下の通り結論ずける。

この概念的枠組みでは、面接場面で自然に行われる評価は、組織で働く際の一般的な社会性を予測するものとして、応募者の入社後の活躍予測に役立つと考える。

「概念的枠組み」を用いた実証研究

あるサービス会社X社で2007年に行われた採用面接時に実施した面接の評価結果(N=325、男性216名、女性109名)を用いた研究である。

調査の概要

・内定まで3回の面接を行うが、選抜効果の影響が少なく、サンプル数の多い最初の個人面接での評定を用いた。
・面接者が例年評定で用いれている以下の項目の評価
 (a)会社が最終の意思決定として用いる最終評価を4段階でおこなったもの
  (b)最終評価の根拠として求められる人物特徴である、自律性、思考力、創造性、誠実さ、協調性の5段階評価
・今回の研究用に協力依頼して収集した、第一印象評価、組織への適合評価

調査結果
以下の図の通りである。


人材開発研究大全 第二章 図2

上記の3つの評価に分けると以下のようなことがわかる。

第一印象評価と組織との適合評価は、ともに最終評価に直接的な影響があった。職務との適合評価についてはそれ自体を評価する評価項目はなかったが、求める人物特徴のうち、自律性、創造性、思考力は組織との適合を経由せず、最終評価に直接的な影響があった。

職務との適合評価と考えられる、自律性評価、創造性評価、思考力評価から最終評価への直接効果をすべて足すと、0.21+0.12+0.23=0.56であった。組織との適合評価からの直接効果0.32と比べると比較的大きな値であった。

第一印象評価の影響について、最終評価への直接効果は0.12とさほど大きなものではなかったが、求めるすべての人物評価(0.37~0.44)と、組織との適合評価(0.21)に影響があり、影響は広範にわたっていた。直接効果と間接効果を統合してみると、第一印象評価は0.50と最終評価に対してかなり大きな影響力を持つことがわかった。

面接の評価は結構、第一印象に左右されるなあという感覚は持っていたが、本研究もそれを裏付ける形になっておりなるほどと思った。

仕事経験の乏しい新卒採用に対する構造化面接の効果

 著者は、今後の面接評価の精度向上に向けた今後の研究課題について述べているが、その中での構造化面接についての論考が興味深かった。

前述の通り、欧米の先行研究では、職務との適合評価において構造化面接という評価手法が効果的であることがほぼ確立された知見となっている。

構造化面接とは、採用対象となる職務の特徴を職務分析で明らかにした上で面接の質問と評定用の基準の設計を行うといった一連の手続きを経て実施される面接である。

構造化面接には、以下の2種類があるという。

(a)Behavioral description interview(従業員の考え方や行動特性を知るためのインタビュー)(Janz 1982)
 将来の行動予測のために被評価者が過去の類似場面でとった行動の様子を尋ねるもの
(b)Situational interview(仮想の状況を設定して行うインタビュー)(Latham et al.1980)
 仮想場面での行動意図を尋ねるもの

 構造化面接研究が行われる欧米は、ジョブ型を中心とした採用をしており、実際の仕事の場面に紐づけた質問は有効だが、日本の新卒採用のように被評価者が仕事経験に乏しい場合、構造化面接が効果的か?

 本章の著者でもある今城(2016)によると、入社後3年以上の経過後の仕事での業績や上司評価との相関を分析した結果、欧米の水準と比べると若干劣るもののr=0.25有意な相関関係が確認されたという。

採用面接のリクルーティング機能

 面接採用は、会社が応募者の中から社員となる方を評価し選ぶという機能のほかに、応募者が会社を評価し選ぶという機能もある。後者の機能をリクルーティング機能と呼び、社員と応募者が直接会う面接においては、このリクルーティング機能の面の研究が今後注目されるだろうとし、いくつかの先行研究を紹介する。

・Uggerslev et al.(2012)によるメタ分析
面接者の行動は、応募者が組織や仕事に対して感じる魅力と0.31の一般に有意な相関があった。
・Kutcher et al.(2013)
 温かさやフレンドリーさ、職務知識やコンピテンシーなどの応募者が感じる面接者の特徴は、応募者が組織に対して感じる魅力やその仕事を選択しようとする意図に有意な影響を及ぼしていた。
 面接中の質問ではなく、面接者の行動の方が、応募者が感じる組織との適合に強い影響を及ぼしていた。

 これも、感覚的によくわかる研究結果である。やはり人と人とが会うということがもたらすものの大きさを感じさせる。

 最後に本章をこう締める。

採用面接は組織にとってだけではなく、応募者にとっても納得感の高い採用選考手法であることから、今後も活用されることは間違いないだろう。

人と人とが、会うことによってしかわからないものがあるため、面接の機会は重要だろう。
 そしてそれは会社側だけではなく応募者にとっても同様である。

感想

 採用に関しては、自分自身で被評価者・評価者双方の経験があることからとても納得感をもって読めた。今まで漠然と考えていたことが、このように論理的にまた実証研究の結果も踏まえて示されることに痛快さを感じる。

 また第一印象の大切さについても考えさせられた。自分が面接官をするときのことを考えると、確かに第一印象で結構評価は決まってしまう面もあるなあという感覚をもっている。

 またリクルーティング機能としての採用面接もその通りだと思う。採用面接って、応募者側にも就職する会社を選択するための機会になっている。採用面接って、本当相性だと思うし、相思相愛になれるパートナー探しのような気もする。

 本章のベースになっている以下の本も読んでみようかなと思う。とても面白いテーマである。


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