アールト授業; INTRO; 未来のデザイン組織を描く-1-
8/29から、アールトでのおよそ1週間のINTROコースが終わり、無事に初単位を獲得することができました。INTROの概要に関しては前回ざっくりご紹介いたしましたが、未来のデザイナーとしてどのように社会的な変化や課題を取り扱えばいいのか、どのように未来のデザインに求められる能力や役割、実践、組織のカタチを構想していけばいいのか、などの問いに対して、未来のデザイン組織をプロトタイプするという内容になっています。
また、実際にこのプロトタイプの最終形を表紙・ミッション・各職種と役割・ムードボード・プレスリリースから構成されるレポートへと落とし込み、エレベーターピッチをして終了という流れです。
実際のINTROコースの大まかなプロセスはこんな感じ👇
この記事では0-3までのステップをまとめます。
0.基調講演や各スクールの教授からの未来の兆し/パースペクティブを得る
1.デザイナーの未来に関するリーディングを読みA4でまとめる
2.未来に旅行するなら持っていく私物/デザインツールを5つずつ選ぶ
3.大きく3つの未来シナリオから関心のあるものを選ぶ
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4.関心が近い人とチームを組み、チームのグランドルールを対話で決める
5.グループで未来のデザイン組織をプロトタイプする
6.エレベーターピッチを行う
0.基調講演によるインプット
デザインスクールの中の5つのコースから、あらゆる視点でデザインについて語られました。あらゆる示唆があったのですが、北欧のデザインに強く根付いている視点として「人間脱中心」と「倫理的観点」があり、そうした思考を深めるために必要な「批評」および「多領域による協奏」の重要性が語られました。特に批評的になるための多角的な視点。これら各テーマは改めて別途、自分の中で深めていきたい所存。
ミシェル・フーコーの批評に関する言葉が引用されたり、Critical Design Practiceという授業を担当するFashion schoolの先生が「批評的視野が最も大事である」という主張を放ったり、
現在の地球のあり方は人類のエゴにより形成された「Ego System」であり本来の生態系である「Eco System」とは程遠い図が紹介されたり。この図を見た時、サピエンス全史の人類のアフリカ大陸から世界各地への移動と関連して、多くの種を絶滅に追いやってきた、という記述が脳裏をよぎりました...
他に具体的な話はというと例えば、基調講演においては、アルゼンチンのm7redという、都市の複雑な課題に"トランスレーター"として自らの役割を定義するリサーチ&アクティビスト組織のMauricio Corbalanという人が「Animal rights as human」というテーマにて、人間と同じような権利を本来動物も要するべきではないか?といった趣旨の対話をあらゆるステークホルダーと共に探る事例が紹介されました(参考)。
1.デザイナー未来の役割
基調講演を経て、現代の問題から未来の兆しを得つつ、10の論文の中から興味に沿ったものを1つ選びA4に「NewsPaperのように」という指示の下、まとめていきます。
Posthumanism and design や有名なLiz SandersのFrom Designing to Co-Desigining~などの記事がある中、ぼくは「Fashion & Sustainability」の具体的なデザインの役割について論じた記事を選択。読むだけで精一杯だったので急いでビジュアルを作ったのに、わりかしみんなA4に箇条書きでした...
この論文で述べられていた大きな潮流としては、こんな感じ👇
・今まで営利企業にいるデザイナーがあらゆるセクターに活動を広げていくこと
・今まで専門家としてのデザイナー⇔利用者/市民だったのが、誰しもがある意味でのデザイナーになる(Lizの論文とかぶりますね)
・前提として、脱成長や持続可能性を目指していくという著者の志向性と社会の複雑性から上記の潮流にたどり着いている
そうした社会で必要となるデザイナーの4つの役割👇
・ファシリテーター:一般市民をCo-Designerへと変容するためのツールメイキングやファシリテーションをし、スキルや責任感を高めるようなエンパワメントを行う
・コミュニケーター/教育家:善い未来に必要な行動を促す適切なコミュニケーションデザインを行いつつ、リテラシーを引き上げていく
・アクティビスト:資本主義をうまく利用しながら、従来のデモではなく実践に根付いたデザインを通した公共善を実現する
・起業家:限られた地球資源の元で、善い生活のためのシステム的なイノベーションを発露させる
といったもの。まとめた後にどんな内容だったかを軽くシェアしあいます。全体的な話を通じて、個人的に特に感じたのはファシリテーターや教育家としてのデザイナーという立場を取ることは、より一層の倫理観と批評的まなざしがデザイナーに求められていくが、ではそれをどう養っていくのか?という部分でした。つまりデザイン教育のあり方への問い直しも起こる。だからこそAaltoは2年間の修士の初日から先に紹介したようなパースペクティブを提供しているのか、とも感じました。
2.未来に旅行するなら何持ってく?
次なるタスクは、「未来にタイムトリップするなら、何を持っていきますか?私物を5個、デザインツールを5個えらんでね。」というもの。正直、どう考えようかなーって感じだったのですが、最終アウトプットは未来のデザイン組織をプロトタイプすることなので、簡単な未来シナリオを作りました。
ディストピアから、状況を変革するためにどういったデザイン活動が必要なのか?からツールに落とし込もうとしたのですが、結果としてはツールにまで落とし込めず、チョイスとしては凡庸👇。ただ方向性としては"つなげる"とか"リアル"とか"場を感じる"みたいなのがキーワード。
シナリオ作っても作らんでもこのツール選択に影響なかった気はしますが、あらかじめ描いた未来が後のディスカッションで役に立ってきます。
3. Future Mapで幾通りのシナリオを描く
1と2のタスクは平行で行い、その翌日に1のリーディングについて話し合って得た示唆をグループごとに発表します。その後、それらの示唆が3つの未来の方向性のうち、どこに属しているのかを考えました。
3つの未来の方向性とはこんなん👇
・ FORETRESS FUTURE; 各国が砦に囲まれ、分断に分断を重ねてしまった未来
・CONVENTIONAL FUTURE; 資本主義と経済成長がより支配的になった既存の延長線にある未来
・RADICAL FUTURE; コミュニティや生態系を重視する価値観が新自由主義を打ち破った未来
ぼくたちのリーディングはコミュニティビルディングやサステナビリティが重視される世界観だったのでRadical futureにマッピング。そして最後に個々人がどの未来を元に組織をプロトタイプしていきたいかを選択して、それをベースにチームが作られました。(とはいえ、チーム分けの意図が強いのでチームのディスカッションによって方向転換は自由。)
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前半のINTROは上記のように、示唆を踏まえて未来をもやもや考えるための材料集めという部分が大きいです。簡単に行ったらリサーチ工程ということ。とはいえ、工程を通じて自由度は高いためにもともと個々人がもっている現代社会への課題観やユートピアが色濃く反映させやすいようになっている授業設計に感じました。つづく。