ASDの耳塞ぎを簡単に「聴覚過敏」で片付けないように
感覚入力失調
「見え」についての偏位(へんい=かたより)があるように、「聞こえ」についても偏位や失調があります。
感覚入力において、視覚は見ない、まぶたを閉じるなど能動的シャットアウトが比較的容易ですが、聴覚は耳塞ぎしかシャットアウト手段がありません。ついでに言えば嗅覚に至っては能動的シャットはほぼ不可能です。鼻をつまんでも口腔から鼻腔への通路閉鎖はできないからです。
感覚入力受容の調整困難度で、
体性覚(加速感や平行感覚)>嗅覚>聴覚>視覚、といわれる所以はそこにあります。
発達障碍と感覚入力失調
さて、聞こえは骨伝導によって自分の発声音も拾いますから偏位があると発語(構音)の生成や発達の阻害にもつながります。
「聞こえ」の調整については他の感覚高次化アプローチ同様にさまさまなセラピーがあり、早期に介入・治療することでASDが軽度になることが知られています。
「耳塞ぎ」してうずくまっているオーティス児を見て、「聴覚過敏なんだね~」と分かったようなことを言う支援者をよくみかけますが、過敏なのか、偏位なのか、調整不足なのかはきちんとアセスメントを行わないと分かりません。そしてそれに基づくことで初めて適切な支援や療育ができるのです。
入力がフィルタリングできない
例を上げます。
ざっくり言えば、聴覚は音波(波動)振動が内耳にある蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変換され、それが視床でフィルタリング(選別)され、脳の聴覚野が「自分にとって意味ある音あるいは声」なのか「背景音」「自然界の音」、なのかなど弁別認知(聞き分け)し認識します。
音響やオーディオ、PAの仕事をしている人は知っていますが、突然過大な入力が入ってスピーカーから大音響が出たり、スピーカーのコーンが破れるのを防止するためゲインリミッターをアンプやスピーカーに内蔵したり、調整卓のスライダーにガムテープ(アナログ!!)を貼ったりします。デジタルサウンドの場合はノーマライザーやコンプレッサーを効かせます。
同じような役割が脳内の聴覚システムに組み込まれてますが、この調整が上手く働かない人がいます。つまり、入力音量の調整ができないので、大きな音が発生するといきなり爆発的大音量としてそのまま脳に伝わるのです。調整が上手く機能していれば「超過大音」と聴覚野が認識する前にゲインが自動的に絞られます。突然大きな音がすると誰でもびっくりしますが、ここで例に上げる調整できないタイプの人はびっくりの度合いが全く違うほど「生音」(なまおと)がストレートに聴覚野に入ってくるので、比較にならないストレスとなります。こうなると聞き分け機能(意味理解)が働く以前の問題です。
ここで上げたのはゲイン(音量)フィルタリングの例ですが、ゲインではなく特定周波数域だけゲインが下がる(聞こえない)ことや、「聞こえの左右差」なども加わると立体音による音源との距離感や音源定位も不明瞭になり、それは不安感情や恐怖といった情動の不安定につながります。こういった気分の状態に常に晒されている児を「聴覚過敏なんだね~」という認識だけで接するのは建設的支援には至りません。静暗室(静安室)に移動させて「場面を替える」ことぐらいのことしかできないのです。一時しのぎでしかない対応といえます。彼らが社会に出れば都合よく安らげる部屋が常に用意されるはずもなく、常に不安に晒され続け偏桃体の興奮した状態(交感神経優位のピリピリした状態)になります。
他害や自傷行為などの「社会的問題行動」とされる外向き情動反応、あるいはフリーズなどの「コミュニケーション困難」とされる内向き情動反応、それらの素因に繋がることは少なくありません。
現在では脳内の微弱電流や精密に脳波測定することで、どんな音に反応するか(しないか)、ゲイン自動調整がスムーズかなどを測定することは難しくありません。その結果を治療やセラピーに繋げ、それらとリンクした療育や支援を行うことによって生き辛さの軽減につながるのです。
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