Dear Grower #008 Pedro Rodriguez (Las Alasitas, Bolivia)
ソル・デ・ラ・マニャーナ。どことなく美しい響きのこの言葉は、スペイン語で“朝の太陽”という意味。アラシータスの農園主ペドロさんが取り組んでいる農園主育成プロジェクトの名前だ。果たしてどんなプロジェクトなのか、その真の意味と可能性を知るには段階を経て説明する必要がある。ボリビアでは、家族単位で営まれる極めて小規模なコーヒー農園がほとんどで、栽培方法の近代化もまだ進んでいない。原生林の中にほとんど野放しのような状態でコーヒーの樹が植わっていて、「実がなったから収穫しに行こう」というような感覚の生産者が多い状況だ。そうなると当然のことながら収穫量は落ち、生産性が悪くなっていくため生活が苦しくなり、生産性と経済性の高いコカ栽培へと切り替えてしまう。そんな生産者があとを絶たず、ここ10年で輸出量が1/3以下になってしまうほどコーヒーの生産量が激減してしまった。
ペドロさんはもともと輸出業者だったが、このコーヒーの危機をなんとかしようと自ら農園の経営を始めた。最初の農園の運営が始まったのは2012年のこと。生産性を高めるために近代的な農法を取り入れながら、品質を高める研究も進めることでみるみるうちに評価を受け、いまでは11の農園を経営するにまで成長した。アラシータス農園もそのうちのひとつ。訪問するとコーヒー畑の風景にとてもモダンな印象を受ける。山の地形にそって秩序的に植えられたコーヒーの木々がグリーンのラインを描き、美しいだけでなく、よく計画された畑であることが一目でわかるのだ。どの木も生き生きとしていて、チェリーは大粒で色が濃く、驚くほど甘い。周囲の生産者に「あそこのコーヒーは魔法の木なのではないか」と噂され、苗木が盗難被害にあったこともあるほど素晴らしい農園なのだ。でも、もちろん成功の理由は魔法でも奇跡でもない。ペドロさんが正しいやり方で、丁寧に栽培しているからだ。
ペドロさんは、その成功を独り占めにはしなかった。意欲ある若い生産者を募り、自身が成功したノウハウを共有するプロジェクトを始めたのだ。それが冒頭で紹介した“ソル・デ・ラ・マニャーナ”。近代的な農法を修得すれば生産性が高まり、生産者たちがまたコーヒー栽培を始めてくれるはず。そんな思いで、ペドロさんは危機に瀕したボリビアンコーヒーの未来を明るく照らす“朝の太陽”たちを育てているのだ。コーヒーの味わいとは、生産者の人柄。ペドロさんが育てたコーヒーを、ぜひ一度味わってみてほしい。きっと誠実でポジティブな彼の人柄に、触れることができると思う。
ラス・アラシータス農園(ボリビア)
更新日:2017.11月 Beans Menuより