眼鏡業界で営業利益率27%。金子眼鏡や999.9を運営し、業界トップの高利益体質を誇るJEHを調査
今回は、昨年11月にIPOを果たしたJapan Eyewear Holdings(JEH)について調べてみました。
持株会社であるJapan Eyewear Holdings株式会社の下に、事業を担う金子眼鏡グループと999.9(フォーナインズ)グループの2つのブランドで構成されている企業です。ラグジュアリー眼鏡ブランドで成長しているということもあって、営業利益率が競合企業よりも高い体質です。
ざっくりと事業内容を説明すると、金子眼鏡と999.9(フォーナインズ)の2つのラグジュアリー眼鏡ブランドを販売している企業です。
もともとは金子鍾圭氏が1958年に「金子眼鏡商会」を創業し、1986年4月に法人化した金子眼鏡株式会社が会社の始まりとなりました。創業当時は100%他社製品の卸売で、顧客は北海道の道南を中心に展開していました。1990年に入ってから、修正する職人の名前を冠した「職人シリーズ」を中心に、注目を集めることがきっかけとなり、海外の展示会出展を経て、2000年にニューヨークに海外初出店を果たしました。これからさらに成長していくというタイミングで、卸ビジネスが急激に下降線をたどったため、2006年から自社生産に着手しました。
創業時から眼鏡の世界三大産地である「鯖江」にて、高い品質と職人の手によって、優れたデザイン性とクオリティの高い眼鏡の生産を実現し続けています。
金子眼鏡によるグループ会社の設立と999.9のグループイン
日系PEの日本企業成長投資が、2019年に金子眼鏡へ投資したことで、金子眼鏡はPEとともに事業を展開。2021年には、999.9が金子眼鏡と合併。2021年7月に両社の株式の100%を保有する形で、持ち株会社Japan Eyewear Holdingsを設立しました。
ちなみに、999.9はJapan Eyewear Holdingsのグループになる以前は、ジャフコや中国系PEのCITIC capitalからの投資を受けていた過去があります。
簡単に、999.9について説明すると、999.9は1996年に設立されたラグジュアリー眼鏡ブランドで、日本人の頭の特徴に合わせた設計が人気を博し、20代、30代から支持を得ているブランドです。小売店への卸売値引きをせず、ファンからの失望を防ぎブランド力を維持していることに特徴があります。
金子眼鏡と999.9が一緒になることで、高価格路線のポジショニングを強固にすることで、他社との明確な差別化を図ることを意識した統合だったと言えます。
SPAによる原価率低減を実現することでの粗利の高さ
JEHは、金子眼鏡を軸に、デザイン、製造・加工、販売までを自社で請け負うSPAを推進しています。999.9の場合、金子眼鏡と合併する以前は、大半を外部の工場で製造していたのですが、グループ化したことで、JEHの統合シナジーとして、999.9販売商品を金子眼鏡が保有していた3つの工場で製造することで、粗利率の改善を実現しているそうです。
結果、SPA化を推進しているJINSHDが76.8%、JEHが77.5%と高粗利率となっています。
加えて、JEHは、効率的な生産を実現し、眼鏡職人の後継者不足問題などを解決するべく、匠の技は残しつつ、それをロボットなどで代替する3つ目の工場を建設しました。これが2019年に鯖江を拠点に建設されたBACKSTAGE(第1工場の名称)、GLASSWORKS(第2工場の名称)に次ぐ、第3のBASEMENT(第3工場の名称)です。BASEMENT工場は、各工程を一から見直し、AIやロボットなどのデジタル化を行うことで、職人技術のデジタル化を実現し、効率的な生産を目指しており、BASEMENT工場のデジタル化も原価率低減に貢献していると考えられます。
1店舗あたりの売り上げの高さ
ざっくりと店舗あたりの売上高を比較してみました。(正確には面積あたりの売上を出すべきですが)この表から分かることは、JEHが運営する999.9および金子眼鏡の1店舗あたりの売上は、他のブランドと比較した際に高水準であるということが明らかとなりました。鯖江で生産される高機能・高単価の眼鏡を同じ事業規模で展開する競合がいないため、価格決定権を有しているとともに、ブランド力やデザイン性の高さから継続的なプライシングを行うことによって高単価を実現しています。また、JEHは半年〜1年間隔で値上げを行っており、一式単価の価格は2019/1対比で、金子眼鏡が+15.8%、999.9が+9.1%の単価向上に成功しています。
営業利益率の高さは、SG&Aの低さと直営店での売り上げ比率の高さが背景
SG&Aの低さ
他社と比較した結果、JEHは他社に対して販管費率が非常に低いということが分かりました。老舗ブランドとしての信頼性と主要都市の一等地に出店することにより、高単価眼鏡市場での独自のポジショニングを築くことで、オーガニックな成長を遂げていると考えられます。さらに、金子眼鏡や999.9などは、既存の顧客によるリピート率が高いと言われており、それが結果的に他社と比べて広告費に対する投資が非常に低い事で、利益率の高さを実現できていると考えられます。
直営店での売り上げ比率の高さ
自社店舗と卸の2つのチャンネルで販売している2つのブランドですが、金子眼鏡は売上の90.8%が直営店、999.9は49%が直営店での売上となっております。売上比率が高い金子眼鏡は、ブランドそれぞれの営業利益が33.5%と非常に高い利益率を叩き出しています。999.9も26.6%と高い水準ではありますが、卸比率が半分を占めているために利益率に差が出ていることが分かります。一方で、999.9は金子眼鏡の店舗出店戦略のノウハウを活用し、さらなる店舗拡大を行い、直営店の売上比率を高める方向性を打ち出しております。結果的に、999.9自体の利益率も金子眼鏡の水準を目指す見込みです。
今後の成長は、中国での成功が鍵を握る?
現状、インバウンドの恩恵を受ける同社ですが、インバウンド売上の中でも半数を占めているのが中国人です。
中国は世界最大の眼鏡消費国の一つであり、中国の近視人口は6億人を超え、10代の若者の近視率は世界第1位となっております。同時に、ファッションアクセサリーの一種として、メガネ消費のグレードアップの需要も加速しております。これから、日本のラグジュアリー眼鏡ブランドとしてのユニークなポジショニングが可能である可能性が高く、金子プレシャスと999.9という日本ブランドのラグジュアリー眼鏡は、非常に魅力的な製品であり、中国国内でユニークなポジショニングを構築できると考えております。
こうした需要がある中で、JEHは2023年の4月に中国初となる金子眼鏡の直営店を上海市にオープンしております。SNSは微信公众号の公式アカウントにとどまり、積極的な宣伝活動は行っておりませんが、購入体験は高く評価され、来店客数と売り上げの最高値を更新し続けているそうです。また、購入される製品の特性や単価についても非常に興味深い状況です。来店客は女性が多く、日本国内の日本人客より10歳若く、感度の高いお客様が中心となっており、一度に複数本の眼鏡を購入したり、日本の2倍を超える単価の商品を購入したことがあるそうです。
個人的には、うまくいけば日本以上のポテンシャルがあると考えています。
こうした実績が出てきている中で、今後の成長戦略として中国への展開は自然な動きであると感じます。
一方で、複数都市・複数店舗の展開にあたっては、人材の育成と管理体制の構築が課題になってきそうです。
金子眼鏡&999.9の中国人以外の購入者として、東南アジア系の方が占めていますが、シンガポールなどの東南アジア地域への進出も一定チャンスが存在していると思われます。ちなみに、中国国内で勢いを加速させているラグジュアリー眼鏡ブランドの溥仪眼镜は、2023年6月にシンガポールへの店舗出店を発表しています。
最後に:
ブランドは、競合優位性の中でも特に築くのが難しい優位性ですが、JEH(金子、999,9)は、見事にブランドの優位性を活用して成長している事例と言えます。今後も引き続きJEHの動向を追っていきます。