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コインランドリー向けのVertical SaaSを展開するCents。エンベデッド・ファイナンスやM&Aを活用した今後の展開
コインランドリー&クリーニング店向けのVertical SaaSを提供するCentsについて調べました。
Centsは、2019年に設立し、2021年からコインランドリー&クリーニング店に特化したPOSシステムの提供を開始している企業です。
Centsは、ソフトウェアのみならず、IoTを活用したハードウェアとの統合を行っている点が特徴です。これは、コインランドリーの機器をデジタルで接続し、リアルタイムでモニタリングや管理を行うことで、従来の手動での管理を大きく変革している事例です。まさに、ニッチな領域での事業領域ではありつつも、Vertical SaaSならではのアプローチでスケールを行っている点が参考になると感じました。
現在、Centsは2,700以上のコインランドリー(米国内のコインランドリーの約14軒に1軒)で利用されており、3,500以上の共有ランドリールームでも利用されています。
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ファイナンス:
2021年11月に、同社として初めてのエクイティ調達を実施し、Bessemer Venture Partnersをリードとして、$4.3Mの調達を行っています。
その後も順調にエクイティラウンドを進めており、2022年にはTiger Global Managementをリードに$25Mを調達し、2024年8月にはCamber Creekをリードに、Bessemer Venture Partners、Tiger Global Management、その他戦略投資家やToastのCo-Founderなどから$40Mを調達しています。累計では、$77M以上を調達しています。
サービス概要:
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現在は、POCシステム、マーケティングツール、ピックアップ&デリバリー、金融など、コインランドリー事業者が求めている機能やサービスをオールインワンで提供しています。
POCは、決済機能やコインランドリー業者向けに特化したPOCを提供しており、同社が提供するマーケティングツールやピックアップ&デリバリーとの連携機能、最先端のランドリー決済&IoTシステムであるCents Connectも提供しています。
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マーケティングツールは、顧客グループごとに異なるサービス価格を設定できたり、過去のプロモーションやキャンペーンの効果を分析し、顧客グループを作成するためのフィルタリングなど、幅広いマーケティング機能を提供しています。
ピックアップ&デリバリーは、事業者向けにDoorDashやUberなどの配送サービス業者を活用した集配プラットフォームを提供しています。顧客とは専用アプリで、テキストメッセージや電子メールで直接コミュニケーションが可能となっています。プロセスとしては、ウーバーイーツと同じようなサービスだと思われます。ドライバーの進捗状況を追跡etc…
金融サービスは、Cents Capitalを通して、低利融資の貸出サービス&ファクタリングを提供しています。
月額費用は、3つのプランが存在しており、1店舗あたりの月額費用は4.5〜7万円程度となっています。
月額費用に加えて、Cents Connectの販売によるハードウェア売上や金融サービスによる手数料売上も存在します。
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今後の成長戦略:
同社が成長の鍵として考えているのが、①周辺事業者のM&A、②エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)です。
①周辺事業者のM&A
2022年8月に集配プラットフォームを提供するStarchupを買収しました。日本のサービスで例えると、ホワイトプラス社が提供するネット宅配クリーニングサービス「Lenet」のようなサービスだと思われます。Starchupの買収により、ランドリー事業者は、顧客体験の向上、集配における車両管理、新たな顧客開拓を可能にすることで、ランドリー事業者の収益源拡大を支援できるようになります。近年のVertical SaaSはコストカットのみならず、売上向上に関わるようなサービスもセットで提供している印象ですが、今回の買収はまさにランドリー事業者にとって、新たなチャネルの増加による収益向上サービスだと思われます。車両管理は、DoorDashやUberなどの配送サービス業者との提携を行い、配送業務を実現しています。
2024年8月には、ハードウェアの決済システムを提供するLaundroworksを買収しました。Laundroworksの買収により、集合住宅から大学、ホテルまで幅広いバーティカル市場へのSaaS & 金融を展開していくことが可能になりました。今後は、ランドリーやクリーニング店への開拓を継続しつつ、より大きな市場を開拓すべく、不動産関連のつながりでの展開を狙っています。
②2023年1月にCents Capitalの提供開始
Vertical SaaSで大きな成長を遂げているToast、Procore、AppFolioを中心に、エンベデッド・ファイナンスを成長の柱として成長してきました。Centsも上記企業と同様に、2023年1月にCents Capitalを開始し、低利融資の貸出サービスとファクタリングを提供しています。Toastもそうですが、財務などの経営状況のデータをリアルタイムに把握していることから、最小限のリスクでフィンテックサービスを提供可能です。また、Centsの場合は、コインランドリー1店舗あたりの売上自体が低い業態でもあり、市場の大半は中小企業ですので、SaaSでの高ARPUを狙うのではなく、エンベデッド・ファイナンスでの成長は必然と言えます。
最後に:
コインランドリーでのカテゴリーリーダーとして注目されているCentsですが、コインランドリー市場でのM&Aや提携を通しての垂直統合はもちろん、ホテルなどの不動産が絡む他業態へのPOS&金融サービスの拡大が今後の成長戦略だと思われます。
Vertical SaaSの成長戦略のオプションとしてM&Aが注目されていますが、ALL STAR SAAS FUNDの神前さんのnoteで詳しく書かれています。
i-nest capitalでは、直近のVertical SaaSへの投資実績として、自由診療クリニック向けに提供するB4Aや飲食店向けの口コミ管理システムを提供するmovへの出資を行っています。(2社ともA,B追加投資済み)
ぜひ、いつでも事業戦略の壁打ちや資金調達の相談などは大歓迎ですので、TwitterなどでDMなどいただけると嬉しいです。