超富裕層の孫
私は、この10年程で自分が「超富裕層の孫」だということを知った。
これを知っているのは、おそらく親族の中で私だけだろう。
今回はこの辺りのことについて書き綴っていく。
祖父が金持ちらしいことは知っていた
実家は、約400坪。
そこに2つの建物があり、一つは父親と母親の住まい。
残りの一つに私と兄が住んでいた。
全て祖父の所有物だ。
当の本人は、別の場所に自宅を建てて引っ越した。
だから、私は祖父と一緒に住んだことはない。
私が生まれてすぐ、祖父は仕事を引退した。
同時に、祖父が経営していた会社は解散。
だから、私は祖父が働いている姿を見たことがない。
私は、祖父から何かを貰った記憶がない。
今に至るまで、1円でも貰ったこともない。
それでも「金持ち」であることは知っていた。
祖母と母が亡くなった後
祖母は、私が生まれる前に亡くなっていたので、私は会ったことがない。
しかし、話を聞く限り、祖母はどうやら「裏の社長」だったようだ。
会社のバックヤードは祖母が一手に引き受けていたらしい。
そのため、祖父は驚くほどバックヤードに無知だ。
祖父が会社を解散した後、困ったことが起きた。
祖母なき今、祖父の所有する不動産物件の運営が行き詰まったらしい。
会社、会社外ともに、バックヤードは全て祖母が管理していたようだ。
そこで出てきたのが、私の母だった。
困ったことに、母は46歳で亡くなった。
祖母に代わって、祖父の資産の全てを管理していた母の席が空白になった。
そこで引っ張り出されたのが、私だった。
当時、26歳。
若い私にとって、自分の会社の経営だけでも大変なのだが、そこに祖父の面倒が乗っかる。
最初の3年は、目の前に現れる問題と事務処理で目一杯だった。
そこから過去の記録を少しずつ遡る冒険に出るまで、さらに数年は掛かったと思う。
――― 変色した紙に残された過去の記録
それを見て、やっと祖父の全体像が見えてきた。
そして、やがて祖父も90歳に近づき「相続」というミッションが発生した。
人生と資産の棚卸
どうやら、生前に相続のことを考えると言うのは、本人にとって「人生の棚卸」のようなものらしい。
私が管理しているモノ、既に知っているモノ、全く知らなかったモノ、数々のモノが出て来る。
中には、祖父すら把握していなかった、祖母が残したモノもあった。
もちろん、良いモノも悪いモノも出てきた。
三重県伊勢市の不動産業者から電話が掛かってきた時は驚いた。
祖父の土地の隣の住民が敷地内に木の枝が伸びてきて困っていると言う。
ところが、私と祖父はその土地の存在を知らない。
固定資産税の請求すら無い、忘れ去られた別荘地の土地だった。
私は、相続税をシミュレートするため、可能な限り「数値」を集めた。
その時、初めて知った。
――― 私は、超富裕層の孫だった
もちろん、実感はない。
そんなことより、問題が山積みだ。
まず、祖父の資産は「土地・建物」が多い。
資産の数値上、8割近くが不動産だった。
そして、その上で試算上は相続税率が55%だった。
絶望的だ。
――― 相続税を払う、現金が残っていない
現金がなければ、相続税対策もできない。
会社を経営している父と兄は別として、叔母連中に相続税を支払う力があるとは思えない。
そして、今
祖父は95歳になった。
そして、つい先日、私がやるべき最後の仕事が終わった。
日当たりの問題でなかなか売れなかった120坪の土地が売れた。
不要な土地を売り払い、その現金を使って相続税対策を行う。
「不動産運営」という叔母連中には重すぎる「面倒な仕事」を残さないように、運営が必要な不動産の着地点を考える必要もあった。
さらに、各相続人が相続税を支払えない事態に陥らないように、細かい分配を「祖父の同意」の元に考える。
「祖父の同意」には、軽く100回以上は苦戦した。
その上で、相続時に、親族から文句が出たら、私の負け。
私と兄だけはキャッシュを失うシナリオ以外になかったが、少なくとも叔母連中はニコニコと笑顔になれるだろう。
――― さて、本当の問題はここからだ。
母の「名指し」の遺言に従って、ここまで17年間ほど「無給」で祖父の仕事の面倒を見てきた。
私の感覚だと、年間240万程度の報酬を貰っても良いくらいの仕事だと思う。
17年だと、4080万の価値になる。
そもそも、私の相続するものは、少ない。
法律上、全体の1/8で、遺留分は1/16ということになる。
さらに言えば、私にとって相続自体が不要だ。
「他の親族にとって不要なモノ」を私の相続分として処理したという経緯もある。
その不要で面倒なモノに対して、相続税をキャッシュで払う必要がある。
祖父には申し訳ないが、私にとってはマイナスだ。
――― 財産は、全部使い切ってから、逝って欲しい
これが「賢者の孫」ではなく「超富裕層の孫」である私の本音だ。
26歳の頃から、祖父の彼女だか恋人だかに毎月「お手当」を銀行振込している私には、そう訴える権利があるはずだ。
ちなみに、祖父の彼女は、現在で累計6人目。