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経営者とDXと会計知識
昔から思っていたことがある。
財務に強く、会計知識が豊富な経営者の会社は、IT化(DX)が進んでいることが多い。
しかし、最近は「逆」なのかもしれないと思い始めた。
今回はこの辺りのことについて書き綴っていく。
DX、会計知識、どちらが先か?
一昔前は、会計知識が豊富な経営者が進んでDXへ取り組んでいるように思えた。
しかし、最近は「逆」の傾向がある。
社内のDX化が進んでいる会社の経営者の中に、会計知識が豊富な人が多い。
どちらも結果は同じ事なのだが「どちらが先か?」という点が逆になってきている。
――― 会計知識が先か?DXが先か?
ちなみに、私はDXが先だった。
全力で攻めるためのDX
私がよく一緒に呑みに行く自動車整備・販売会社の少し年下の経営者がいる。
彼(以下、T)は、2代目で親子揃って根っからの「攻めの経営スタイル」を貫いていた。
――― 仕事はいくらでもある
これがTの口癖で、いつも新しい従業員を欲しがっていた。
父親の代で12名ほどだった従業員数は、Tの代になって20名を超えた。
しかし、この辺りから彼の様子が変わる。
・従業員数が増えても、利益が伸びない
・社内で不平不満が増える
・従業員が増えた分、退職者も増える
T曰く、この状況が2年以上続いていて、辛いと言う。
――― 5年分の決算書を見比べてみたか?
と私が言ったところ、決算書はあまり意味が分からないと言う。
私は驚いた。
Tは、過激な勉強会で有名な某塾に入っていた。
その中で決算書を仲間同士で見せ合い、お互いの会社の悪い所を指摘するという謎の勉強会をやっていたと聞いた。
その勢いで、私にも決算書を見せてきたことがある。
ちなみに、私はその決算書をみて「役員報酬を獲り過ぎだ」と一蹴した。
口には出さなかったが、接待交際費も多かった。
役員二人の役員報酬と接待交際費が売上全体の15%程度を奪う。
Tの業種を考えると、これだと従業員へ還元(給与)が同業他社と比べて少ない可能性が高い。
私は、最低限の会計知識を勉強し、決算書を読める程度になった方が良いとアドバイスをした。
しかし、Tはその後も会計知識を身につけた気配がなかった。
その上で、また同じ悩みと相談をして来た。
――― 案件毎の原価と労務費を管理しているか?
私の問いに対して、Tは「ノー」と言う。
これにも驚いた。
この状態で20名以上の従業員を管理しているのは「逆に凄い」ことだ。
その研ぎ澄まされた「どんぶり勘定」は、尊敬に値する。
決算書の件はひとまず保留して、案件毎の原価と労務費を管理することをお勧めした。
ちなみに、それができるソフトウェアは既にTの会社には存在していた。
そのソフトウェアは、見積書と請求書を作成するためだけに使われていたようだ。
その後しばらくして、Tは変わった。
会話に「数値」の話が増えた。
各従業員が出した利益を把握できるようになり、正当な評価ができるようになったのだと思う。
少なくとも退職者は減ったようだ。
従業員の不平不満は相変わらずで、新しい従業員はなかなか見つからないようだが、少なくとも暗い話は減った。
そんなTから「利益」でも「粗利」でもなく「経常利益が」という単語を聞くようになった。
少なくとも、決算書を読み始めているのだろう。
守りを固めるためのDX
一回り上の先輩が経営する建設会社がある。
その会社へ、今年の4月に先輩の息子(S)が入社した。
私は、その親子を昔から知っている。
Sは、学生時代は野球少年で、その後は地元の信用金庫で働いていた。
先輩とSから相談があった。
従業員が30名を超えるSの会社では、現場の仕事を覚える工程をスキップして、当初から管理職としてSを育成する方針のようだった。
しかし、Sに必要な情報へSが上手くアクセスできず、管理職として上手く立ち回れないとのことだった。
Sの話を聞いていて、驚いたことがある。
信用金庫に勤めていたので、決算書の意味はおおよそ分かる。
しかし、自社の決算書を見ても、何の実感もなく、何の感想もなく、何の経営判断もできないという。
私は、Sはまずは「経理」から手を付けたらどうか?とアドバイスをした。
Sの会社の経理は、Sの叔母が担当している。
まずは、経理用のソフトウェアをネットワーク共有対応のものへアップグレードして、二人で経理作業を行うことをお勧めした。
もう一点、驚いたことがある。
Sの会社にはファイルサーバがない。
正確には、誰も使っていない古いものしかない。
データは、メールかUSBメモリを使って受渡しているという。
これは、間違いなく「各自のパソコン」に情報が封印されているパターンだ。
その後、私は、NAS(ファイルサーバ)とSlack(コミュニケーションツール)の導入を手伝った。
なぜかSの会社のSlackに、私も参加している。
そして、NASにデータが集まるようになり、Slackを通して普段は殆ど社内にいない従業員とのコミュニケーション体制が確立してきた。
これにより、Sは決算書の数値が現実味を帯びてきたと言っていた。
営業担当が見積段階ではじき出した原価と利益を把握できるようになった。
現場担当が日々記録を残す進捗と原価管理情報も把握できるようになった。
これらの情報は、やがて自分が行う経理作業と繋がるはずだ。
やがて、本当の意味で決算書を読み解き、財務を担当していくことになるだろう。
会計知識が身につくということ
私は、簿記を勉強したことがない。
ある日突然「簿記」を勉強し始める経営者は多いが、正直、私にはそれが重要な事とは思えない。
簿記を勉強しても、会計に強くなって決算書を読み解けるようになれる気がしない。
最低限知らないければいけないことは、5年も会社を経営すれば自然と覚えられると思う。
あえて言えば、決算時以外で最低半年に一回以上は、顧問税理士と話をすること。
そこでの話で最低限必要な簿記の知識は得られるはずだ。
会計に強くなるとか、決算書を読み解くようになるとか、そういうことには「リアリティ」が重要だと思う。
おそらく、自分自身にとって、それらのことが本当に必要にならない限り「リアリティ」は生まれない。
リアリティの入り口は、何かしらの数値だと思う。
その時、渇望する、数値。
そして、その数値を目視するための近道がDXだと思う。
今の時代、数値はデジタルの方が扱いやすい。
――― DXによって、会計知識と向き合う
DX、会計知識、どちらが先かは大した問題ではない。
ただ、今の時代だと「会計知識を得るためのDX」という考え方も馬鹿にならないと感じた。
DXによって可視化されたリアリティある数値は、間違いなく経営者の会計知識を高めると思う。
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