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将軍とよばれた男

「海賊とよばれた男」ではない。
私には「将軍とよばれた経営者の先輩」がいる。
この20年、憧れてやまない先輩だ。
今回は彼(以下、Zさん)について書き綴っていく。


将軍の基本スペック

Zさんの年齢は、現在50代半ば。
塗装会社を経営している。
現在、従業員は10名ほど。
しかし、Zさんの会社から独立して開業した人は多い。
私が知っているだけでも6人いる。
おそらく、合計10人以上はいるのではないかと思う。

個人から直接受注する仕事はもちろん、複数の建築会社から仕事を受注している。
通常、この規模の塗装会社だと、複数の建築会社から仕事を受注するのは難しい。
小さな規模の建築会社は、同じ規模、同じエリアの同業他社と仲が悪いことが多い。
その中で、ライバル同士から同時に仕事を受注する難易度は高い。

20代の創業期は、仕事を猛烈に頑張ったらしい。
40歳を超えた辺りから、仕事はそこそこ。
逆に、プライベートでの活動は、元気になるばかり。

日常的な会話に登場する話については、かなりバンドが広い。
時事ネタから、私には理解できない芸能界のくだらないネタまで。
ドラマ、映画に加えて、最近はNetflixでアニメまで網羅している。

基本スペックだけ見ても、悪くない。
特別な非の打ちどころが見当たらない。

――― しかし、将軍と言われた理由はこれじゃない。

彼には、20年経っても私が真似できないユニークスキルで溢れている。

将軍とよばれた由縁

上手く言えないが、Zさんは「旗を振る能力」が異常に高い。
しかも、前線で旗を振る能力だけではない。
後方で旗を振るだけでも、前線が湧く。
これが将軍とよばれた由縁、所以だ。

高校時代ラグビー部だったZさんは、問題の壁をぶち壊すのが速い。
例えば、地域活動の中で役職を持つと、一直線に進んでいく。
これは、JCだろうが、YEGだろうが、PTAであろうが変わらない。
途中で何かしらの問題が発生しても、ひるまない。
彼と行動を共にする部下職の人は、痛快そのものだ。
自分に「前進する力」がついたと錯覚してしまう。

後方支援の仕方も独特だ。
まず、前線へ「喝」を飛ばす。
厳しい言葉ではなく、とにかく熱気を煽る。
そして、自分は「邪魔者の壁」となる。
前線の士気を落とすような「天の声」をせき止め、飲み込み、とにかく前線を上げることを考える。

――― これが将軍とよばれた由縁だ。

彼から多くのことを学んだ人は多い。
私もその一人だ。
しかし、20年経って、当時の将軍の歳を超えても、なかなかこの能力は身につかない。

将軍の特殊能力

Zさんは、学術的なことに興味はない。
しかし、頭の回転は異常に速い。

宴席では、自由に話の流れを掌握できる。
場の空気をつくるのが上手い。

まずは、全体、全員で一つの話が流れる空気をつくる。
そして、参加者全員にスポットがあたるように、キレイに白羽の矢を当てていく。
矢を当てたら、自分は引いて、相手に話の主導権を渡す。
新しい話の熱が落ちてきたら、再び自分が話の流れを掴む。
そして、温度が上がってきたら、再び白羽の矢を打つ。
これを繰り返す。

一緒にスナック等へ呑みに行くことがある。
そんな時も同じことが起きる。
小さな店だと、スタッフも客も合わせた全体で一つの話を進行していく形になる。
それが例え、はじめて合った名前も知らない人であってもだ。
もちろん、これが悪い評判になったという話は聞かない。
むしろ、どこに行っても「ノンちゃん」という愛称で呼ばれている。

ちなみに、なぜ「ノンちゃん」なのか随分と不明なままだった。
最近ある人から、これについて教えてもらった。
ヨン様に似てる → ノン様 → ノンちゃん ということらしい。
どうでもいいことだが。

他にも、数えればキリがないくらい、たくさんの特殊能力を持っている。
憧れてやまない。

将軍から学んだこと

まずは、やはり「旗の振り方」だ。
経営者として、この能力は鍛えただけ成果となって表れる。
大変、有難い教えだ。

次に「最初の一発で人の心を掴む」ということ。
彼は適当な会話をしない。
瞬時に会話の構成を頭の中で練り、勇気とユニークを持って話掛けて行く。
私は彼が何かを考えている時の顔を知っている。

最後に「弱点を隠さない」ということ。
彼には弱点もある。
しかし、それを有り余った「魅力」でカバーしてお釣りが来る。
お釣りが来なくとも、少なくともプラマイ0にできれば、弱点を隠す必要もないと知った。

彼は、どこの店に行っても私に支払いをさせてくれない。
「洒落臭い」と一蹴される。
しかし、最近は少し酒に弱くなって店で寝てしまうことがある。
そんな「弱点」を突いて、そんな時だけは支払いを済ませて、密かな反抗をするのを楽しんでいる。


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