プランナーの朝日広告賞アイデア論【第71回ファイナリスト3点・入選1点受賞】
当noteをご覧いただき、誠にありがとうございます。
私はPRAP JAPANというPR会社で働く、プランナーの丸山優河と申します。
この度、国内最大級の新聞広告賞 朝日広告賞 一般公募の部にて、デザイナーの竹内駿さんと作った作品3点がファイナリストにノミネートされ、うち1点が入選しました!嬉しい!!
今まで企画のコンペにはたくさん参加してきましたが、新聞広告賞は今年度初チャレンジ・・・何から何まで新しい世界でした。
そんな中、ワクコエ → 毎日広告デザイン賞 → 朝日広告賞と連戦。デザイナーさんのおかげでチャレンジでき、結果につなげることができました。
素敵な機会をくださった協賛企業の皆様、主催の朝日新聞社様、ありがとうございました。
今回、朝日広告賞にはコピーライターとして参加しました。
一方、どうしてもデザインの比重が大きくなる新聞広告コンペで、デザインを作らない(作れない)側として何ができるのか。
デザインのアイデアを考えるコツは?どんな風に立ち回るべき?悩みつつ動いた数か月間でもありました。
今回のnoteでは、やってきたこと・感じたことの整理を兼ねて、自分なりの思考を言語化しようと思います。
本noteが、朝日広告賞はじめデザイン系の賞にチャレンジするコピーライター・プランナーの方にとって、少しでも参考になる部分があれば幸いです。
※「販促コンペ」「宣伝会議賞」「Metro Ad Creative Award」の方でもnoteを公開しています。お読みいただけると嬉しいです!
「面白いデザイン」って何? プランナー視点で言語化してみる
朝日広告賞はじめ一般公募の新聞広告賞で受賞するには、とにかくファーストインプレッションで何かを残す「画のパワー」が大切だと感じます。
でも、受賞に必要な画のパワーの正体とは何なのか・・・コピーライターとしてアイデアを出す上で、これを自分なりに言語化する必要があると思いました。
一方で、企画を主戦場としてきた身からすると、企画と新聞広告のデザインは全くの別競技だ、という感覚がありました。
これは、接触時間の違いに起因していると思います。
見る人の手を止め、カタルシスを与え、メッセージを記憶に残す・・・この一連の流れを完成させるための時間は、ムービーであれば5秒~120秒くらい、企画であれば数時間~数か月単位のものもあります。
しかし新聞広告は、新聞紙をめくって一瞥し、「何だ広告か」と思って次のページに向かう・・・このわずか0.5秒ほどの勝負です。
このタイムリミットの違いが、志向されるテクニックやアウトプットの大きな差につながっていると感じました。
最初のうちはこのギャップに苦労しましたが、少しづつ慣れていくと、根っこにあるコミュニケーションの本質は変わらないと思いました。
それは、ヒトが太古の昔から生存競争の中で培ってきた ”本能で反応しちゃうスイッチ” を押すことではないかと考えています。
● デザインを”大脳辺縁系”に届ける
この「本能で反応しちゃうスイッチを押す」とはどういうことかをお話します。
少し専門的な話になりますが、人間の脳の「大脳新皮質」ではなく「大脳辺縁系」にアプローチする企画を作ることが近道だというのが私の持論です。
以下の考え方は、原野守弘さんの名著 ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門 で書かれていたことを自分なりに解釈したものですが、
という機能の差異があります。
そして、ヒトの脳は「大脳辺縁系 ➡ 大脳新皮質」の順で、生命維持との関係性が高い順に獲得されてきたとされるのが、進化論的な定説です。
だからこそ、自分が生きている実感からも、ヒトの意思や行動を決定する優先順位はこの脳の構造と対応しているのが自然であり、大脳辺縁系=本能に刺さる切り口こそが強力なパワーを持つと考えています。
実際に、大脳辺縁系・大脳新皮質のはたらきを比較した実験では、意思決定は大脳辺縁系の方で行われるというデータもあります(参考書籍:感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ)。
これをもとに過去の受賞作をデコンし、「ヒトの本能に刺さる表現」のエッセンスを抽出すると、以下のように分類できるのでは、と仮説しました。
それぞれ以下に説明します。
- カタルシスのデザイン:「問いと答え」
カタルシスは、新聞広告デザインの ”不可欠の要素” と考えています。
優れた作品の定義を、以下のように考えます。
この際の「印象に残る」という感覚は、広告を見た人が何らかのカタルシスを感じた結果として、脳内に生じるものだと思います。
そして、この「印象に残すもの」を、クライアントが伝えたいメッセージと一致させる・・・というのが、新聞広告デザインの本質なのではないか、と考えています。
優れた作品には、必ずこの読み手にカタルシスを与える構造が埋め込まれているなと感じました。
私は、その正体は『問いと答え』である、とデコンしました。
● 問いと答え
これを表現の中に埋め込んだデザインです。
新聞紙をめくって一瞥し、「何だ広告か」と思って次のページに向かう0.5秒の間に理解できる問いと答えを与える。
この取り組みに成功すると、問いが頭の中に入ってきた異物感と、それを解消したカタルシスで、瞬間的に強い印象を残すことができる。
そして、この『答え』とクライアントが伝えたいことを一致させることができれば、メッセージを読み手の記憶に留めさせることができます。
ヒトの脳は、違和感や異常など ”問い” を感知すると、その理由や原因となる ”答え” が分かるまでモヤモヤや不安を感じ、解決すれば快感を得るもの。
これには、昔は ”問い” を放置すれば生死に関わる環境で生きてきたことが関係しているのではと思います。
背後の草むらで音がしても気に留めない個体は、肉食動物に襲われて淘汰され、問いと答えに鋭敏なヒトが現代まで生き残ると考えられるためです。
だから今でも、クイズが娯楽としてこれだけ市民権を得ていて、TVでもYoutubeでも一大コンテンツ化しているのでは?と思っています。
受賞作には軒並み、このカタルシスが埋め込まれています。
問いと答えの質の高さはもちろん、0.5秒で問い~答えまで理解しきれる体感的なバランスにも優れていると感じます。
逆に発展途上の表現や、実を結ばないアイデアにありがちな
という言語化しにくい違和感は、「問いと答え」を意識すれば原因を説明できることも多いと思いました。
この「問いと答え」の秀逸さを企画の良し悪しの判断軸として、
と自分の中では整理し、アイデア出しをしていました。
以上が、プランナー視点で考えた、優れた新聞広告デザインの必須要件と考えています。
WOWがある過去の受賞作はいずれも、高いレベルの「問いと答え」を内包していると感じています。
- アテンションのデザイン:「ヒト」「自然科学」「脅威」
【 アテンションのデザイン 】は、これを満たすとより「思わず見てしまう」「印象に残る」のパワーが強まる要素です。
人が反応してしまうスイッチの中でも強烈で、表現に組み入れるとパワーを持たせやすくなるものと考えています。
➊ ヒト
社会性動物であるヒトにとって、生存の大きなファクターは同じコミュニティの構成員、すなわちヒト。
だからこそ、ヒトに対する本能的なアンテナは特に鋭敏です。
∵ のように点が3つ並ぶだけで人の顔と捉える脳の働き「シミュラクラ現象」や、人を引きつけるテクニックとして、レトリックでは擬人法、キャラクターコンテンツでは擬人化が成立するのも、ヒトへのアンテナの大きさによるものではないでしょうか。
このポイントはコミュニケーションにも大いに応用できる部分があると感じます。
目、口・・・感情表現が出やすい体のパーツ
涙、汗、紅潮・・・感情の昂りを表す生理現象
美形、肌の露出・・・性的魅力を表すビジュアル
擬人化・・・ヒトでないものを、ヒトとして捉えさせる表現
上記のようなモチーフや表現を使った作品は、思わず目を向けてしまうパワーがあります。
➋ 自然科学
人の生存環境とは切っても切り離せない自然科学的なビジュアルも、本能のスイッチが反応する強い要素。
特に新聞広告のような二次元的・視覚的・瞬間的なコミュニケーションでは、パッと見で分かりやすい 光・空・水・動植物 といった要素を上手く取り入れている作品が多く受賞しています。
ちなみに前述の「擬人化」は、動物や植物をモチーフにすると、ヒト・自然科学どちらの要素も満たすので、面白い画になりやすい傾向を感じました。
➌ 脅威
「ヒト」「自然科学」の要素にかかる部分もありますが、言うまでもなく生存を脅かす危険因子は本能が優先的に感知します。
だからこそ、傷病や死を連想するモチーフ(傷・死体・墓・武器など)、社会秩序を脅かす行為(虐待・犯罪・戦争・不良行為など)を描くデザインには敏感に反応してしまいます。
「脅威」の表現はカンタンに強烈な印象を残すことができる一方、出口を工夫しないとネガティブな読後感になってしまうので、取り扱いには注意が必要です。
インパクトのある画で意識を向けさせた後、コピーやロゴが目に入ることで、ポジティブ・マイルドな読後感になるよう調整する必要があります。
こうした特性から、表現をポジティブ・マイルドにしても「脅威」の要素を持てる、もともと死や危険行為を内包している課題が向いていると考えています。
過去の例でいうと、真光寺(樹木葬)、コールマンジャパン(キャンプ)、国境なき医師団(人道援助)、大日本除虫菊(キンチョール・蚊取り線香)などですね。
以上、過去の受賞作を「カタルシスの表現」「アテンションの表現」の2要素にデコンしたうえで、これを踏まえた画にできるか?を念頭に、デザインの案出しを行い、制作に臨みました。
制作におけるコピーライターの立ち回り
● 画を考えることから逃げない
かくして、新聞広告デザインのアイデアの方向性を自分なりに整理しました。
ここからは、より良いアウトプットに向けて、コピーライターとしてどう制作に取り組むかの話です。
いきなりですが、デザイナーさんと組んで制作をする際、コピーライターが手を出すべき範囲はどこまででしょう?
私の考えは、全部です。
つまり、コピーライターでもデザインまで手を出すべきと思っています。
その真意は、「このコピーは良いと思うから、あとはイケてるデザインを用意して!」の思考はやめた方がいいということです。
デザイン系のコンペをやってみると痛感しますが、言葉・企画単体では面白そうでも、画で伝えようとするとパッとしないアイデアが山ほどあります。
コピーライター側の責任として、デザインの領域まで踏み込んで「面白い画になるか?」を自分でも判断すること、デザイナーさんに丸投げしない意識を持つことが重要だと思います。
そして、自分の頭の中に「この画は面白いかも!」のイメージがあるなら、できる限り自分で形にしてみます。そうすることで、双方のコミュニケーションコストがグッと下がります。
これはデザイナーさんの負担を減らすというよりも、
を避ける意味合いの方が強いです。
また、自分で少しでも画作りをやってみると「頭の中では面白そうだけど、画にすると思ったよりハネない」感が少しずつ分かるようになります。
コピーライター側がこの感覚を持てるかどうかは、チャレンジの成否を分けるかなり大きな要素と感じています。
芽が出ないアイデアをコピーライターの頭の中でボツにできるのと、デザイナーさんにカンプを作ってもらって「やっぱ違うね」となるのとでは、数時間~数日もチームのリソースが変わってきますよね。
でもフォトショとかいじれないよ・・・という人は、とにかくネット上に転がっている素材を重ねてみるだけでもよいと思います。
それだけで、言いたいことが言葉にするより一目で&より正確に伝わるし、俎上に上げる前に自分で判断することもできます。
ぶっちゃけ、頭の中のイメージを最低限の形にするだけなら、
をいじるだけでも何とかなるものです。
背景透過は、今やAIが一瞬でキレイに透過してくれるWEBサービスが出ています。
変形、回転、切り貼りも、カンタンなものならパワポやKeynoteなど誰もが使っているプレゼンツールで事足ります。
もう少し高度な変形や色の調整が必要だと、私はPhotoshopを使いますが、頭の中のイメージをラフに形にする程度であれば、検索しながら数時間触ればゼロからでもできるようになります。
また、自分で少しでも作ってみることで、「あ意外とこれって簡単にできるんだな」とか、「思ったよりこのチョットをいじるのが大変なんだな」とか、工数のイメージも少しつくようになります。
コピーライター側はデザインを任せる引け目から、優しい人ほど意見を遠慮してしまうことも多いと思いますが、この感覚があれば必要以上に申し訳なさを感じることもなくなります。
そこまでやって、「画になれば面白い」を自分のなかで検証してから、デザイナーさんにも伝わる形で見せる。この意識が大切だと思います。
● デザイナーさんの個性を知る
これは私が参加していた養成講座で、他の方が重視して結果を出しておりなるほどと思ったのですが、コピーライター側は組むデザイナーさんの得意領域を知ることも大事です。
コピーライターやプランナーにもアイデアの得意不得意があるように、デザインの個性だって一つではありません。
特に朝日広告賞は、瞬発力が求められるコンペ=パッと見の視覚的なパワーが大事なので、デザインとしての面白さにアイデアの比重をかけるべき。
だからこそ、組んだデザイナーさんの強みが生きる方向で言葉・企画を考えると結果につながりやすいと感じました。
私の相方の竹内さんの場合は、ダジャレやモノの組み合わせをすごくシンプルで洗練された画にして見せる、切れ味のあるデザインを作っています。
なので、直感的に伝わりそうな「要素の掛け合わせ」をアイデアでは出しまくりました。
結果ファイナリストに残れた3点も、その傾向に沿ったものでした。
以上のような点を踏まえて、今回の朝日広告賞は以下のタイムラインで進めました。
ただ、相方のデザイナーさんの制作スピードとタフネスが凄まじく・・・1月にどのアイデアを作るか決める際、10案いけたらスゴイな~どれに絞ろうかな~とか思っていたら、
「もう全部出しちゃいましょう」
の一声により、なんと40案提出しました。
※パネルの印刷・配送経費が20万円になり、入選したけど赤字でした
散々アイデア論とか書いておいてなんですが、ファイナリスト3点+入選1点は完全にデザイナーさんのパワーに支えられていました。
ここまでの数作ろうとデザイナーさんに思ってもらえたことに、色々と考えたことが少しでも貢献していたら嬉しい。
そもそも「画を作れない人」がデザイナーと組むには
最後に、戦う前の話です。
「広告代理店や制作会社に勤めていないので、デザイナーさんとつながる機会がない」
「そして自分では画が作れない。でも新聞広告賞にチャレンジする熱意はある」
このnoteを読んでくださっている方の中には、そんな人も多いのではないのでしょうか。かくいう私もそうでした。
何も実績がない。でもデザイン系の賞に参加したい気持ちはあり、全く知見がない状態で、がんばってフリー素材を切り貼りして Japan Six Sheet Award に応募したりもしました。
が、箸にも棒にもかからず。当然ですが、自分のイメージを超えるものどころか、イメージを形にすることも難しい。デザインスキルって偉大だな・・・と痛感しました。
そこで、やはりデザイナーさんと組みたい!という気持ちが高まりました。
でも、結果が出ていない自分と組んでくれるデザイナーさんなんていないよな・・・と感じ、「組んでもらえる人になるためのアクション」を取りました。
● 自分の分野のコンペにフルコミットする
「実績がないなら、作ればいいじゃない」
そんなパワー系の発想から始まったアクションです。
デザインコンペは分が悪いので、比較的自分のフィールドに近い企画・コピーのコンペ(販促コンペ、Metro Ad Creative Award、ヤングカンヌ、宣伝会議賞 etc)に注力しました。
もちろん、ここで賞を獲ることも大きな目標ではありましたが、その先に「賞を獲ったらデザイナーさんと組んで、朝日も出す!」という未来地図があることが、目の前のコンペのモチベーションにもなりました。なんとなく人生が楽しくなりました。
また、追い追いデザイン系のコンペにも挑戦するということで、自分もデザインの知見をつけようと企画コンペをPhotoshopの練習台にするモチベが生まれました。これは、結果的にとても生きていると思います。
そしてもし受賞できれば、多くの場合贈賞式に招待されます。そこで人に話かける勇気を持てば、たくさんの出会いがあります。
SNSでは受賞報告が行われるので、そこで話のきっかけが生まれ、組むことを打診するチャンスもできます。
しかし、企画・コピーのコンペで賞を獲ることもカンタンではありません。ただ受賞までしなくても、参加さえすれば取れるアクションは多いです。
一度参加すれば、最低限 ”去年経験済み” の強みを持つ人間にはなれます。かつ、SNSでコンペ名をサーチすれば、参加しているデザイナーさんも見つかります。
同じ土俵で戦う者同士、まずは「このコンペ、一緒に組んでみませんか?」とSNSで打診して、一度組む相手を作ってしまう・・・という道筋を探ってみるのもありです。
● つながれる場に飛び込む
そんな風に、当初は実績作ってから・・・と回りくどい道筋を立てていたのですが、世の中には意外とデザイナーとのつながりを作ってくれるありがたい場が結構あります。
コピーライター志望ならば誰もが参加・検討する、宣伝会議社のコピーライター養成講座は、意外とデザイナーさんで受けている方もいます。
実際今回の朝日広告賞でも、叩き上げコースの同期生だったことがきっかけでコンビを組み、受賞したチームがいらっしゃいました。素敵。。
またそもそも、「コピーライターとデザイナーの出会いを作る」という願ってもないコンセプトのアートとコピーという講座もあります。
かくいう私もこの講座の2期生で、ここでめちゃくちゃつながりが広がり、コンペ別に4~5名のデザイナーさんと組んでいます(今回組ませてもらった竹内さんも、アートとコピーの課題でコンビを組んだことがきっかけです)。
「強制的にチームを組んで課題に挑む」系のクラスは、つながりを作るという意味では最適です。
先述の養成講座や、The Breakthrough Company GOが運営する The Creative Academy など。この講座で組んだ人たちで、実際に企画コンペでも組み、見事グランプリを獲った例も知っています。すごい。。
以上、「デザイナーさんと組む」ことがハードルになっている方が、どうやって乗り越えるか?の経験談でした。
以上、朝日広告賞に臨む上で、コピーライター側として感じたこと、考えていたことをお話ししました。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。このnoteが、少しでもあなたのお役に立つことがあれば幸いです。
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