私の販促コンペ攻略ノウハウ(第13回ゴールド受賞)
※2023年11月に、更新版の記事を公開しました。本noteをアップデートしている内容ですので、こちらをお読みいただくことをオススメします
はじめまして。私は、PRAP JAPANというPR会社で働くプランナーの丸山といいます。この度、第13回販促コンペにて拙作がゴールドに選ばれ、念願だったシルバー以上の受賞に辿り着くことができました。
一方で、今回はグランプリ”該当なし”。贈賞式会場は騒然でした。ここまで選んでもらっておきながら、あと一歩のところで、納得してもらえる企画にできなかった。嬉しさの反面、悔しい、情けない。そんな気持ちを皆が共有していたと思います。
私は、中途半端な企画でグランプリになって卒業するくらいなら、誰もが納得できる企画でリベンジしたい。だから、来年もチャレンジできることを嬉しく思うし、燃えています。
気持ちを新たにして、このコンペの戦い方を見直し、来年は更に上を目指せるよう、熱がある今のうちに、3年間の挑戦で培ってきた戦略のようなものを一度吐き出してみようと思います。
始めたての頃の私が欲しかった情報を詰め込んだつもりです。本noteが、これから販促コンペにチャレンジしようとしている方や、もう一段ジャンプしたい方にとって、少しでもヒントになることがあれば幸いです。
・戦う前に知っておきたかったこと
はじめに、私が販促コンペに挑戦しようと思ったとき、審査を通過するコツや他の応募者のレベルを知るために、
ということが知りたかったのですが、調べても分からず悩んだ記憶があります。なので、3回に渡って挑戦してきた身として、他の参加者の本数の印象値や、私が出した企画の数を述べたいと思います。
【 通過者は何本くらい企画を応募している? 】
受賞チームに限って言うと、話を聞いた肌感では、大体4本~8本くらいが相場に思います。この本数で受賞するのは、かなり精度が高いなあ・・・と思いますが、中には過去に20本出したという方や、他のコンペを獲っている方も多く、弾数が少ない中でも、残るべくして残っている理由を感じました。
なお、私のチームのこれまでの応募数は、以下の通りです。
ちなみに販促コンペは応募期間が2か月なので、4案だと2週間で1本くらい、20案を越えると3日に1本くらいのペースで企画書を仕上げ続けることになります。去年27本にチャレンジしてみた身として、20案以上ははっきり言って地獄ですし、1本あたりのクオリティを上げるのにも苦労します。しかし、他の大多数の参加者を上回る物量を一回だけでも体験しておくと、その後コンペだけでなく、実務に取り組む基礎体力も一気に上がるので、やって損はないです。
【 通過者はどれくらいのクオリティの企画を出している? 】
【 1次審査通過~ファイナリストと、受賞企画では、どのくらいレベルの差がある? 】
これは私の見る目の問題もありますが・・・他の方の通過企画も見せてもらって思ったことは、一次通過~受賞作までのレベルの差はそこまでないということです。
何人かの方と、通過ステータスを隠して全企画を見せ合い、どれが通過したか考えて当てる、という取り組みを試しにやってみました。すると、通過企画は割と当てられるものの、それ以上の通過ステータスをハッキリと当てるのはかなり難しいのです。(この予想会は、目からウロコな企画のFBをもらえたり、良い切り口を見定める目を鍛える練習にもなるのでオススメです)
一次を通過できる企画はどれも、”人が動く”の納得感を高いレベルでカバーしている印象です。そこから先は、人が動くパワーがより強く感じられる企画か、思わず商品やブランドを好きになってしまうエモーショナルな魅力を与える企画が選別されていると思いますが、ともかく一次通過のハードルをクリアできた企画は全て、受賞が手の届くところにあるなと感じました。
もし参考にしたい方がいらっしゃればということで、私のチームの企画書データ、2020年27本・2021年15本分を、以下のnoteで公開しています(完全オープンにするのは不安なので、有料にしています)。全企画と、フォルダ毎に通過ステータスが分かる形とに分けて保管していますので、興味がある方がもしいらっしゃれば、見ていただければと思います。
通過ステータスは、以下の通りです。
・どの課題を選ぶべき? オススメ6選
実際に課題が発表されたら、まずどの課題に取り組むかを選ぶところから勝負は始まります。
実務を考えればもちろん、どんな課題でもベストな企画を提案できる力を備えたいところですが、せっかくの公募なので、まずは自分が向いていそうな課題を中心に攻めるのが良いと思います。
課題の適性は、本当に人それぞれだと思います。なので、もしできるなら全ての課題で1案以上作り、取り組みやすさや通過数を材料に自己分析できたら理想です。
一方で、これまで割と手当たり次第に着手してきた経験から、良いアイデアが浮かびやすい課題の法則がある程度分かってきたので、優先度順に、理由も含めてお伝えします。
【 良いアイデアが浮かびやすいオススメ課題6選 】
第13回のロート製薬「男性がスキンケアをしたくなるアイデア」、タキイ種苗「家庭菜園をはじめたくなるアイデア」、第12回グランプリ課題のアイセイ「カラーコンタクトレンズを正しく使うことが楽しく思えるアイデア」、第9回グランプリ課題の大日本除虫菊「虫コナーズを毎年忘れずに定期購入してもらえる企画」など。
「商品の使用・購入を習慣にしてほしい」「長い間、商品を使ってもらいたい」という、ロングスパンで作用するアイデアを求められる課題は、一見ハードルが高そうですがかなりオススメです。毎年2~3課題しかないテーマですが、実際に数々のグランプリや受賞企画を生んでいます。
そもそもターゲットに長期間作用する企画は、生活者の日常に商品を深く浸透させることができるので非常に強力です。それはすなわち、クライテリアである“人を動かすパワー”の総量が大きいという評価につながるのだと思います。この手の課題では、与件がダイレクトに長期的な効果を求めているため、企画者は自然に、アイデアが強くなる方向だけを向いて企画を考えることができます。
第12回アイセイの課題や、ZOZO「若者がゾゾタウンをおしゃれ・カッコいいと思い、より好きになってくれるアイデア」、東亞合成「学生がアロンアルフアを楽しく使いたくなる企画」、西日本旅客鉄道「新幹線でお客さまが笑顔になるアイデア」など。
販促コンペ(多くの場合実務でも)では、人を動かす、というクライテリアの中の重要な要素として、思わず商品やブランドを好きになってしまうエモーショナルな魅力も重視されます。
「楽しい」「好き」といったポジティブな気持ちが強く湧いてしまうようなアイデアは、見ていて楽しいし、評価も高いですが、これは本来、商品を知ってもらう・買ってもらうという基本的な与件をクリアした先で、どこまで上乗せできるかの要素です。でも、この手の課題は親切なことに、気持ちを引き出すことをゴールに設定してくれているので、提出企画の魅力を自然と上げてくれます。
第13回のアレフ「親子が一緒にびっくりドンキーを利用したくなるようなアイデア」、セゾン自動車火災保険「家族みんなが安心して自転車に乗るためにママが自転車保険に入りたくなるアイデア」、第10回ゴールド課題のカルビー「子どもたちが小さいサイズのスナック菓子やじゃがりこを買いたくなるアイデア」、第7回グランプリ課題の養命酒「40代のお母さん層が薬用養命酒を試してみたくなる企画」など。
第4回グランプリ企画の「365チェキ」、第3回グランプリ企画の「最後の紙贈り」などに代表される歴代の良企画も、親子をターゲットにしているものが多いです。
“親が子を思う心”は誰しも強固で、これを軸とするインサイトは非常に説得力があります。子育て、誕生日、クリスマス、受験、就活など、タッチポイントも様々でアイデアの幅も広がりやすいです。このため、親子に紐付けられそうな課題だと思ったら、積極的に着手するようにしています。
第12回東亞合成の課題や、第11回グランプリ課題の牛乳石鹸「女子高生が友達にスキンライフをお勧めしたくなるアイデア」、第1回グランプリ課題の日本コカ・コーラ「ティーンのコカ・コーラ飲用者・飲料頻度の拡大につながるプロモーション提案」など。
こちらも親子フックに近いですが、学生時代のライフイベントや学校生活を軸にしたインサイトは強固で、入り口も入学、卒業、部活、受験、友情、恋愛など多様です。学生に紐づく企画も、“思わず人が動いてしまう”感を作り出しやすいと言えます。
こちらはミニストップ、ワンカップ大関、ブラックサンダー、ロッテのガム、カップヌードル、ピノ、小枝、コカ・コーラ…などなど、低価格でアクセスしやすい、広く一般に親しみのある商材がテーマの課題です。
商材が既に認知されており、親しみをもって受け入れられている場合、施策の自由度が上がりアイデアが浮かびやすくなります。また、サンプリングなど安価ゆえ取れる手法も豊富なので、手に取ってもらうハードルを低くでき、“人が動く”イメージが付きやすいです。
当然のことですが、課題となっている商材やサービスが好きだったり、よく知っている場合は、それが強みになります。特に、高頻度で買っている、何度も使ったことがあるなど、他の参加者より自分の方が“体験”していると思える課題は、スタートから既に優位なので、ぜひ取り組みたいです。
なぜ好きなのか、なぜずっと使っているのかを掘り下げることが、深みのあるターゲット分析になり、自然と芯の通ったアイデアが浮かびやすいです。親しみのある課題、好きな課題を考えることはモチベーションの維持にもつながるので、その点でもオススメです。
・企画の発想法
課題を選んだら、実際にアイデアを考えるフェーズです。でも最初の内は、切り口をいくつか産み出して形にしようとしても、なかなか企画まで育たない。そんな苦悩が常に付いて回ります。具体的には、以下の2パターンの悩みに大別されるのではないでしょうか。
例えば、第13回のミニストップの課題「多数の競合店を通り過ぎ、わざわざミニストップへ行きたくなるようなアイデア」で、「切手の裏面を、バニラやチョコなどアイスの味にして販売する」というアイデアを思い付いたとします。
手紙に貼ろうとして切手を舐めたら、ミニストップのアイスの味がして「ナニコレ!?」となる。確かに、店頭に行って試してみたり、SNSに投稿したくなる人もいるかもしれない。アイデアとしては悪くない気がしますが、「今このご時世に、切手を舐めること前提なんて…」「切手買う機会自体、全然なくない?」「そもそも、何でミニストップが切手売るの?」など、ツッコミどころ満載です。
アイデアが先行して、その商材(企業)でやる意味が薄いと、「うちに来てくれ」「うちの商品を買ってくれ」という自己主張感だけが鼻に付いてしまいますし、どれだけ施策が話題になっても企業と結びつきません。なので、ダメな企画です。
同じくミニストップの課題で、「暑い日にアイスが食べたくなる」という切り口が浮かんだので、「気温が高い日だけアイスを売り出す」というコンセプトまで決めた。でも、そこからアイデアジャンプが生まれず、結局「猛暑日限定の割引クーポンを発行する」みたいな、捻りのないキャンペーン施策に落ち着いてしまう、など。切手案よりはまだ形になっていますが、際立つものがなく、インパクトやチャーミングさに欠けています。
このような、「アイデアが課題から離れてしまう」あるいは「いまいちジャンプが生まれない」という両極端な壁に悩まされることは、企画をしているとよくあるのではないでしょうか。
私もこの苦悩に常に突き当たり、試行錯誤を繰り返しています。そんな中で、この問題から少しでも抜け出せるよう、一つの“型”を決めて考えているので、以下に紹介します。参考になる部分があれば嬉しいです。
【 企画の”型”紹介 】
ほぼ全ての企画は、この型を使って考えています。例として、実際にミニストップの課題を考えてみます。
まず、①には課題を入れます。
次に、①のミニストップに「行きたくなる」という動詞を、「思わず●●してしまう」の形に変換して②に入れます。ここで大事なのは、課題の商材・企業を一度忘れることです。「思わず行ってしまう」のみ入れます。
③には、既に②を満たしている、人々が「思わず行ってしまう」場所や体験を考えて入れます。例えば、東京ディズニーランドは、ファンもたくさんいて、多くの人が行ってしまう場所だなあ…と思ったので、試しに入れてみます。
最後に、①と③を掛け合わせて、切り口を出していきます。ミニストップが思わず入りたくなる場所になるような、TDLのワクワクするモノや体験にはどんなものがあるか。魅力的なキャストやキャラクター、アトラクション、パレード、待ち時間の行列、年間パスポート・・・
あ、ミニストップの年間パスポート、「アイスの年パス」なんて、ちょっとキャッチーで良いんじゃない?そんな形で、可能性のありそうな掛け合わせが見つかったら、ブラッシュアップして企画書にします。
このような具合です。
他の例で、ロート製薬「男性がスキンケアをしたくなるアイデア」で考えてみます。①に課題を、②に「男性が思わずしてしまう」を入れました。
③は、男性が思わずやってしまうモノや体験。色々ありそうですが、私は一つの切り口として、「フタが固くて誰も開けられないビンや、パンチングマシーンなんかの、力試しできるものがあるとウズウズしちゃうな」と思いました。
これを③に入れたら、”力試し”にまつわるアイテムや体験を探っていきます。フタが固いビン、パンチングマシーン、ベンチプレス、ダンベル、ハンドグリッパー・・・
あ、ハンドグリッパーの機構で、スキンケアできるボトルがあったら、それを見つけた人が面白がって使ってくれるんじゃないか。
・・・
このように、課題との繋がりを保ちつつアイデアの幅を探ることができます。以上、型の紹介でした。
ちなみに、世の中には色んな発想法があると思いますが、どんな型を使うにしても、やはりアイデアを考える基礎的な力は必要で。それを養うには、アウトプットとインプットを積むことが欠かせないと感じます。(私も日々勉強中です)
販促コンペで好成績を残している方々は、同じようなクライテリアを持つ他のクリエイティブコンペにも参加していて、そこで名前を見かけることも多いです。主要どころは、ヤングカンヌ、Metro Ad Creative Award、TOKYO MIDTOWN AWARD、Young Gloryあたり。最近できたのだと、ACCヤングコンペ、クリエイティブ・アドなども。
コンペに参加した経験は多ければ多いほど、他のコンペでそのまま役に立ちます。アイデアを考え、企画書を作り続ける基礎体力と、アウトプットの質が上がります。コンペに1回参加することで得られる経験値の差は大きいので、いけそうなコンペには積極的に参加しています。
あと、販促コンペの研究では、公表されている受賞作たち以上に、ファイナリストの企画名が載っている号を見ることの学びはかなり大きいと思います。厳選された切り口だらけの企画タイトルが載っているので、それをもとに企画内容を考察してみると、まだ世の中に出ていない、筋の良いアイデアのストックが蓄積されます。
・企画の絞り方
取捨選択できるくらいアイデアが浮かんできたら、そこから先、どれを選び取るかの工程も出てきます。
経験上、有効な絞り方としては、まず他の人に見てもらうこと。特に、企画について知見がある人に見てもらうのが一番良いと思います。見る人の好みもあるので、何人かに見せるのも効果的です。せっかく考えた愛着のある案で、微妙な反応が返ってくるかも・・・と思うと、人に見せるのは怖いです。が、それでも誰にも引っかからなかった案は”その程度”なので、見込みのない企画に時間を割かずに済んでよかったと建設的に考えましょう。私自身、これを積極的にやったことで、本当にゴミな企画しか出せなかったところから、まだ及第点と言える企画を出せるレベルまで、早く進めた実感があります。
なお、今年のシルバー以上の受賞者は全て2人チームでしたが、これも アイデア出す→他者がチェックする のPDCAがずっと回る体制なのも大きな理由に思います。
あとは自分の感覚で判断するとなった場合、以下のような印象が異なる企画は比較が難しく、どちらを取るべきか迷うことが多いように感じます。
計50本弱出してきた私の経験では、どちらも常に②の企画が通過しています。販促コンペにおいては、”誰か”よりも”私”、”見かけの派手さ”よりも”堅実さ”を取ることをオススメします。(クリエイティブ系の様々な書籍でも、n=1の”好き”を大切にすべき、ということは口酸っぱく言われていますね。。。)
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・おわりに
以上、販促コンペを戦う上で、これまで培ってきた経験則やノウハウを紹介しました。
少しニッチで小難しい話かもしれませんが、私が属するPR業界では今、メディアパブリシティを中心とした社会との関係づくりの枠を飛び越えて、人の行動変容に直接働きかけるようなコミュニケーションが必要だ!という流れがグイグイ来ています。
3年前、そんな業界の前向きな流れと、目の前の仕事に追われる自分のギャップに焦りを感じていました。何か実務以外にもできることはないか。そんな気持ちの中で、“本当に人が動くかどうか”という、ピッタリのクライテリアを持つ販促コンペの存在を知りました。歴代の受賞作もめちゃ面白い。こんな企画が考えられる人間になりたい!という思いが募り、受賞を目標に参加し始めました。
初めはダメダメな企画ばかりで上手くいきませんでしたが、回を重ねるごとにコツのようなものが掴め、徐々にマシなアイデアが出せるようになっていったと思います。そして、ここ最近ありがたいことに、販促コンペの戦い方や、企画の発想法を教えてほしい、と会社や知り合いから頼んでいただける機会が増えました。実務でも、販促コンペを通して培った、作業や思考を続ける基礎体力やアイデアの発想力、企画書の構成力などが大変役に立っています。
無論、まだまだ努力も経験も必要なペーペーですが、販促コンペという場が、成長を後押ししてくれていることは確かだと思います。だから今、取り組んでいる皆さんにも、何か良い影響がもたらされることを願っています。
ここまで読んでくれてありがとうございます。少しでも、役に立ちそうだと感じてもらえた部分があれば何よりです。
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