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A Talent for Murder by Peter Swanson よむよむ

2024年6月発売の新作。出版社はハーパー・コリンズ、装丁デザインはカイル・オブライエン。この、本の中にヒントを隠すというモチーフはアガサ・クリスティのお話にあった気がするのだが、どのお話か思い出せなかった。『そしてミランダを殺す(The Kind of worth Killing)』と The Kind of Worth Savingで活躍したリリー・キントナーとヘンリー・キンボールが出てくるシリーズ。献辞はスタインベック家の皆さん。誰だろう、ジョン・スタインベックのこと?もちろん彼らの才能に捧げられていて、殺人の才能というわけではありません、と書いてある。

エピグラフは、アメリカの詩人のアン・セクストンの"lament"という詩。この詩人の作品は日本ではほとんど訳されていないみたいだ。この詩人は、作中でもヘンリーがリリーに勧めて、リリーが読んでみようと思って注文した本として登場。このお話の大きなテーマは私が思うに二つで、一つはリリーとヘンリーの愛。詩を勧める、その詩集を注文、それをリリーは作家のパパとも話あったりしちゃってね、完全に愛が育まれていた。普通のお付き合い、とかではないのだけど。詩はこのお話ではとても重要で、アマチュアの詩人でもあるヘンリーの詩も、もちろん出てくる、でもえ?そこで?って言う時に出てくるので、ちょっと笑った。まったく詩の内容が頭に入らぬ展開。この二人相当変。(もっと知りたくなる)

お話はリリーの友人マーサがどうも、夫が殺人犯なのではないか、と疑問を持って、リリーに相談しようとする、という風に始まる。リリーの最後のバトルは勇気づけられる展開だった。
リリーという人が出てくるおかげで、サイコパスが比較的普通(の人の中にたまにこんな人いるよね)に感じられる所がスワンソン味だと思う。今回は、かなりキーとなる映画『フェリスはある日突然に』がでてくるのだが未見だったので、見たことがあったらまた違うのかもしれない。

<ネタバレあり>
そしてこの本のもう一つのテーマは私なりに、女が殺されることについて、いかに殺されているかということについてだと思った。今回めっちゃ殺人が多いのだが、男に女が殺されている(例外もある)。それも一つの動機じゃない。で、ストリッパーや、軽犯罪に身を染めている人などが殺されてしまうのだけど(この点、スティーグ・ラーソンみがあると思う)、それだけではなくて、夫婦で合意して婚外セックスOKにしている女性教師も殺されてしまう。ちなみに男性は同じことをしても無事。警察の捜査もあるけれどこれらの犯罪の犯人を捕まえることさえもできない。リリーしかいないのだ。女が男に殺されて、それがいかに簡単か、それがいかに頻繁かってことがこれでもかこれでもかと描かれている。そういう意味で、前の作品とも違うし、夫婦の闇から始まっている共通性があっても『ゴーン・ガール』とかとも全然違うなと思った。

で、ダフネ・ドゥ・モーリアの『レベッカ』もまた出てくるし(まだ読めていない、読んだら何か違うことに気づくのかも。レベッカという登場人物がいるので)それから、また、ハイスミスの『太陽がいっぱい The Talented Mr. Ripley』も出てくるので既読者はより楽しめると思う。タイトルのTalentはこのTalentedから来てるのだと思う。スワンソンがよく書いている、英紙ガーディアンの読書リストのコラムなんかも出てくる(これは読者サービスかも)。


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