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風野灯織と斑鳩ルカ【シャニマス】

 斑鳩ルカ、おまえは今なにを見ている?

 代々木から発された悲鳴は確かに全国に響いていた。Day2の最後に斑鳩ルカがステージに現れる様は2年前のクリパのオマージュのようで、でもその意味合いは大きく異なっていたように思う。川口莉奈さんが川口莉奈さんとして挨拶した瞬間を除いて、斑鳩ルカはなにも見ずなにもせずただ歌だけを歌った。”283プロダクション所属”斑鳩ルカとして合同ライブへの出演をしたものの、それ以外のことは一切しないという断固とした覚悟をもって彼女はそこに立っていた。それは彼女が”283プロダクション”に完全に迎合したわけではないことを如実に示していたし、むしろここで笑顔で全体曲を歌われていたら代々木を中心にプロデューサーは絶滅していたと思うので正しいのだが、それならばなぜ、斑鳩ルカは283プロダクションに所属したのだろうか。そんな苦汁を啜ってでもアイドルを続けるという意思が彼女にはあったのだろうか。

天井と斑鳩

 アイドルを続けるとはいったいなんだろうか。私はしょせん自分を敏腕高身長プロデューサーだと思い込んでいる精神異常者なので、そんな高尚な問いに向き合ったことなどない。そして5thライブDay1はそんな私たちに冷や水を浴びせるための構成だった。Day1では本来描かれないはずのアイマス世界におけるアイドルの終焉を描いていて、そして283プロに限らず斑鳩ルカもまた、Day1の世界線ではアイドルを終わらせていたのだろうと思う。だけれど、プロデューサーがアイドルを終わらせなかったことで、斑鳩ルカは283プロに加入し、Day2は行われ、今私たちは生きている。だけれどそれが私には不思議でたまらない。なぜ斑鳩ルカはアイドルを終わらせなかったのか、プロデューサーはどうやって斑鳩ルカを終わらせなかったのか。斑鳩ルカはすべてを奪ったアイドルをどうして今も抱え続けているのか。

それでも

 まず前提として、斑鳩ルカがアイドルを続けたいと思っていたとして、283プロダクションだけは絶対に選ばないだろ。というのは万物、いや万プロデューサーの統一見解だと思う。七草にちか、緋田美琴を抜きにしても天井努とかいう社外秘黒塗り検閲文書おじさんが社長の、しかも母親の因縁の相手が社長のプロダクションになんてそりゃあ絶対入らないだろう。ただし斑鳩ルカの感情を抜きにすれば彼女がアイドルを続けられる可能性が283プロダクションしかなかったのは事実だ。身から出たサビではあるのだが、彼女のアイドルの可能性を彼女の事務所は、いやアイドル業界はもう信じていないように思えた。というか引きこもってスケジュールに穴を空けられるのは普通にしんどいよ、それは分かる。だから斑鳩ルカには進むか逃げるかしか選択肢が残っていなかった。そして斑鳩ルカは自分の意志で前に進んだ。なぜだ、斑鳩ルカ?お前はアイドルを続けたいのか?おまえの”アイドルへの原動力”ってなんなんだ?

 アイドルへの原動力。アイドルを続けるためにはきっとそれが必要だ。いやアイドルだけじゃない、プロデューサーもマネージャーも事務員も社長もアイドルに関わる人ならきっと誰でも。必要なんだ、”アイドルがいる人”には。ジ・エピソードにおいて斑鳩ルカにはそれがないように見えた。緋田美琴に、七草にちかにあって、斑鳩ルカにないもの”アイドル”。アイドルマスターシャイニーカラーズにおいて唯一、たった一人でステージに立つ彼女には、前にも横にもどこにもアイドルはいない。あるいは八雲なみもそうだったのだろうか?八雲なみが居なくなった天井努もそうだったのだろうか?彼ら彼女たちは今もまだ、”アイドル”を探しているのだろうか?

八雲と斑鳩

 ルカのマネージャーは斑鳩ルカは幼い頃から養成所に入っていたと言っていたが、そもそも八雲なみを一番近くで見ていた斑鳩ルカがアイドルを志すのか?という疑問はついて回る。例えば、八雲なみをダメにしたアイドル業界への復讐が原動力ならどうだろう?でもセヴン#スで見た緋田美琴との絡みを見ているとどうもそうも思えない。斑鳩ルカには斑鳩ルカだけの”アイドルへの原動力”があったはずだ。”アイドル”になにかを求め、アイドル業界に踏み込んだ。自分の母親のことを知っていてもなお。斑鳩ルカと天井努は同じなのだ。過去に囚われて、大事なものを両手に抱えて、手を伸ばせないでいる。羽ばたくにはそれはあまりにも重すぎる。本当に?

 アイドルマスターの世界において、終わってしまっているアイドル八雲なみ。過去のアイドル。まあ正直この辺のお話への感想はまんま「朝焼けは黄金色」なのだが、

それはそれとして見たいよ「劇場版アイドルマスターシャイニーカラーズ0エピソード八雲なみ」は。見たいよ若い頃の天井。
 とまあ八雲なみに関しては当時の関係者が皆幸せを願っているだけマシと思いつつ、今絶賛そのお嬢さんが不幸のどん底だが???という思いもありつつ。天井はこっそり裏で手をまわしてたみたいだけどね。いや知りたいな、八雲なみの娘が他事務所でデビューしたときの天井。まあそれは置いといてつまり八雲なみってのはDay1で披露された、アイドルを完遂出来なかったアイドルな訳で。

 高山いわく、Day1でそれぞれのユニットが披露した最後の曲はそのアイドルたちが最後のライブの最後の曲に何を選ぶかという基準で決められたらしいけど、つまり八雲なみにとってその最後の曲が”そうなの?”な訳だ。でもそれすら大人たちの理屈で捻じ曲げられてしまって、彼女はアイドルを辞めた。燃えるようにアイドルのスターダムを駆け上った八雲なみだけれど、実力不足だったとは思わない。そもそもアイドルの実力ってなんだよ、そうじゃねぇって話をしてるのがシーズだろうが。で、そんな八雲なみが何故、斑鳩ルカを許したんだろうか。いや知りたいよ、斑鳩ルカがアイドルになった時の八雲なみ。で、こっからは私の願望だけど、八雲なみがアイドルを辞めた時、彼女の”アイドル”はきっと終わったはず、でもさあ今の八雲なみの”アイドル”がさあ、斑鳩ルカであって欲しいわけ。許してくれよこんくらいの我が儘。そんでもう一回言うよ、じゃあ斑鳩ルカの”アイドル”ってなんなのさ。

283プロと斑鳩

 シャニマスにおいて唯一ソロでステージに立つアイドル、斑鳩ルカ。でもそもそもアイマスにおいてイレギュラーだったのは完全ユニット制のシャニマスだったはずだ。ライバルというよりは仲間として、ともに支えあえる友として。シャニマスのシナリオの評価の中には完全ユニット制だからこそできる表現やストーリーによる加点もあるはずだ。そして完全ユニット制だからこそ、彼女達はアイドルでいられたのではないだろうか。シャニマスでは半分くらいがプロデューサーにスカウトされてアイドルになる。正直、ひょいとスカウトされたくらいでしっかりとした”アイドルへの原動力”を持てる子なんてそうはいないよ。だからこそ、アイドルたちが”アイドル”を探すことはシャニマス全体を通してのテーマでもあったはずだ。そしてユニットの中には多分、最初から”アイドル”をなんとなく持っている子がいてその子が最初の原動力になったんじゃなかろうか。ストレイライトまで全員スカウト組のユニットがいなかったのは、スカウト組なのにアイドルがいる黛冬優子がいなかったから。ノクチルがいきなり番組をぶっ壊したのは、幼馴染である彼女達にはアイドルがいる子がいなかったから。そしてイルミネーションスターズの最初の原動力ってさ。

風野と斑鳩

 それで私は風野灯織が斑鳩ルカの”アイドル”になって欲しいと思ってたんだよ、いやホントにこの文章を書き始めた時は。だからタイトルも風野灯織と斑鳩ルカな訳。でもそれじゃあきっとダメなんだわ。風野灯織に斑鳩ルカを重ねてたんだろう?研修生の時を思い出してたんだろう?でも風野灯織にはイルミネーションスターズがいるんだ。”アイドルがいる”んだ。だから風野灯織は斑鳩ルカのアイドルにはなれないよ。”アイドル”を外部に頼っちゃダメなんだ。緋田美琴が隣にいるときの幸せそうな斑鳩ルカを見てるとさ。隣に”アイドル”がいるときの斑鳩ルカを見てるとさ。その後があまりにも苦しくてダメなんだ。いつまでも隣にいれるわけじゃないんだ。一緒に居るだけじゃダメなんだ。時にはソロでだって頑張んなきゃダメなんだ。だからさ、斑鳩ルカが飛ぶためには斑鳩ルカが飛ばなきゃダメなんだよ。誰がおまえを救うかって?おまえが救うんだよ斑鳩ルカ。

 きっと283プロに入ることになった時もまだ”アイドルへの原動力”は見つかっていないんだ。でも確かに、どこかに、あのステージに、それはあるんだ。でもそんなの見つかりっこないよ。自分なんて見えないよ。背中に生えた翼なんて見えっこないよ。でもその翼でもしも飛べたなら、自分の背中に翼が生えてるってきっと分かるんだ。だからさ、全部無視しちゃえよ、抱えてたもんほっぽりだして、自分の重さちょうどのぶんだけ翼で支えて飛んでっちゃえよ。誰かがあなたを応援するよ、隠れたって探そうとするよ、自分の”思い”を押し付けて理解できていると勘違いしているよ、”カミサマ”だって崇め奉るよ。でもそこに意味や価値なんてないよ。人の思いなんて重さを計れるはずもないのに、過去だってしがらみだってなんもかんも、みんな等しくノーカラットなのに。抱えてるもんに重さなんてないんだよ。

 だから、知らないよ斑鳩ルカ。私はあなたのことなんて知らないよ。あなたの過去とか親とか、誰が嫌いで誰が好きで、落としたものも探してるものも、何を見てるかすら知らないよ。抱えてるもんに誰かが付けた”思い”なんて知らないよ。だから、私はあなたを応援してるよ。ステージの上のあなたを見てるよ。私はプロデューサーだからさ、”アイドル”の斑鳩ルカの手伝いをさせてよ。


だから、そんな思いなんて知らなくていいよ斑鳩ルカ。


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