読書備忘録第8回 回想のビュイック8 スティーヴン・キング 白石朗訳
スティーヴン・キングの長編を読むのは久しぶりだった。
この前、読んだ短編集「夏の雷鳴」で少し変わったかなと思ったが、長編になると相変わらずのキングである。
もう、微に入り細に入り人物とその周辺を面白可笑しく語り、読者を夢中にさせる。現在と過去が入れ替わり立ち代わり描写されるが、それはこれの構成の妙で。主人公ネッドの父親、警官のカートが交通規制中、酔っ払いの運転するビュイックにはねられて、死亡する場面から始まる。
葬式が終わってから、ネッドは奨学金を得てペンシルバニア州の大学の奨学金を得て大学を進学するこちになるが、ネッドは父親カートの上司や同僚とと親密になり過ぎて、カートが生前、上司や同僚と関係していた秘密、Bガレージと呼ばれる非公式の設備に格納されている「ビュイック」についての話が始まる。
語り手は複数の一人称で主に、同僚の登場人物が代わる代わる語る。三人称は冒頭のペンシルバニアの片田舎の警察署に不思議な人物が現れてビュイックを置き去りにする所だけ。
先ごろ、Twitterで誰の視点で語っているのか?神の視点なのか、一人称が相応しいのか?とweb小説の書き手の間で流れていたが、何を言っているのだ?と思って議論に加わらなかった。既に起こった事件「事件」の設定を語るなら三人称、それを感覚的に何を感じたかを語るなら一人称。ミステリ小説ではそれを交互に語る事があれば、一人称を貫き通す事もある。また、反対に客観的に語るなら、三人称である。
素人が付け焼き刃で語ろうとするからだ。とりあえず、図書館でもいい、書店でもいい、本を読んで知見を得れば良いのだ。
そんな意味で「なろう系」の多くの書き手はそこら辺で脱落していくな。
そんな事はさておき、この「回想のビュイック8」である。
最初は父を亡くしたネッド青年を慰める為に、父親の若い頃の話をし始めるのだが、どうやら「異世界の人間」が置いていいたビュイック(よく見ると、パチモンらしい)の話になり、それにまつわる怪異が次々と語り手が代わりながら、語られて行く。
このビュイックのトランクは異世界に通じているらしく、異世界の住人が時たまやって来て、人を驚かせたり、マスコット犬だったミスターディロンを殺したりする。
これは凄いなと思ったのが異世界の化け物がミスターディロンに対しての攻撃である。ミスターディロンは内部から崩壊して焼け死んでいくのである。一番近いのは、映画「遊星から来た物体X」のクリーチャーをデザイン、操作したロブ・ボッティンの仕事である。
あの変形の過程を文章化したら、こんな感じだろう。
やがて、ネッドはBガレージに収納されて行るビュイックと対決するのだが…
これは最愛の家族を亡くした青年の死と再生を描いた物語だったんだなと感じた。
今年読んだ杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」が青年の自立を描いたように、この作品も青年の自立と再出発を描いている。
読後感は一応、ホラー小説なのに、読後感は最高に良かった。
スティーヴン・キングの作品が愛されているのは、この読後感があるからなんだろうな。
と、さて、次は何を読もう。^^