田舎モンバンザイ!
嬉しいことに毎年たくさんの新入生を迎えるが、その中には地方出身者も一定の割合で存在している。毎年入学式では初めての一人暮らしを始めたばかりのそんな生徒たちが、赤い顔をしながら精一杯虚勢を張り 見えない戦いをしている。
彼らはその式典に臨むほんの1ヶ月前に、友達や恋人と涙の別れをし、心配する家族に見送られて ここ大阪の美容学校生活のスタート地点に立っているのだ。
そんな様子を見ていると、私自身若い頃に田舎者ゆえの寂しい思いや辛い思いをしたことを思い出す。地方から来たそんな生徒たちを心から応援したいと思うし、潰れることなく成長してほしいと切に願っている。そんな思いもあって 10年ほど前から毎年地方出身者対象に とある応援企画を実施していたのだが、新型コロナ感染症によって丸4年開催できずにいた(誤解を恐れずいうなら 結局この騒ぎは、国をあげての大いなる茶番であったとも思える)。今年こそはと満を辞して再開させた本企画こそ、名付けて『愛の食堂 ー田舎モンバンザイー』である。手前味噌ながら以下紹介してみたい。
一人暮らしをしている生徒対象に炊き出し(笑)=朝食会をやる理由は、全体的に見ても平素朝ごはんを食べない生徒は少なくないものの、一人暮らしの生徒はなおさらその傾向が強いという現実にある。特に温かいものを朝 お腹に入れることなどほぼないから、そんな生徒たちのためにご飯を炊いて ウインナーや鶏肉を焼き、サツマイモなんかの味噌汁を作る。もちろん食器や調理器具も全て準備する。私は連日早朝から食堂のオヤジになるのだが、一度にたくさんは無理なので1日あたり6,7人ずつを数日に分けて行う計画だ。調理についても 参加する生徒たちに一部手伝わせた後で、私の『いただきま〜す!』の号令とともに毎回朝食が始まる。食後の片付けも もちろん全員でやる。
当日は会場である教室のホワイトボードにその日のメニューを書き(大したものではないが)、テーブルと椅子を並べる。開催中は 一人暮らしではない生徒も少数混ざっていることもあるが、細かいことは言わない。
思えば病気により妻が寝込んでしまったことで、家事一切をせざるを得ない期間が10年ほどあったおかげで、通常の晩ごはんのメニューなら 材料と調料機器さえあれば 大体は作ることができるようになったことは、しんどかった期間の想定外の副産物であった。
ところで学生生活最後のイベントである卒業式当日には、そんな地方出身の生徒のお父様やお母様も参列され、またご挨拶をいただくこともあるが、面白いことにこの朝食会のお礼を口にされる方が少なくない。その中でもなぜか男子生徒のお母様からのお礼が明らかに多い。
親とその子供の組み合わせは、父⇔息子 父⇔娘 母⇔息子 母⇔娘 の4パターンがあるが、その中でも息子を心配する母の思いは、一種独特のように思える(我が家でも全くそうである)。親にとっては子供というものは、何物にも代えられないものには違いないのだが、男の子を一人都会に送り出す時の母親の心境は、我々男にはわからないものなのかもしれない。
今年も朝食会の初日を終えることができた。まだこの後も実施日程はあるが、私の勝手なわがままを教員たちも理解してくれていると見えて、文句も言わずに即席の食堂運営を手伝ってくれる。久しぶりに開店できた今年の会場(教室)の入口にかかる暖簾は美容科課長の手作りだ。