仏談 - 薬師如来1-
各地方で『◯◯薬師』という名で有難がられている仏様がいる。『お薬師さま』と親しみ深い呼称がつけられて、長年病に苦しむ人々の祈りを引き受けている古刹も多い。なんせこのお方はこの世で病に苦しむ衆生を癒す絶大な力を持っているのである。左手には壺(薬壺=やっこ)を携えていて、その中にはありとあらゆる病を快癒させる霊薬が入っているらしい。
さてこの薬師如来を目に見える姿としてあらわしたのが薬師如来像である。統計的な事実は知らないが、多くは坐像(座ってる像=ざぞう)だと思う。たまに立っている像(立像=りゅうぞう)があるなという印象である。脇侍(主役の横にある像。眷属とも呼び、主役との組合せは大体決まっている)は日光菩薩&月光(がっこう)菩薩なのだが、昭和の漫才師のコンビ名のようなこの菩薩、あまり売れてない。有名ではないのだ(笑) しかし存在感に乏しくとも、薬師如来というスーパーな主役の引き立て役としてはそれでいいのかもしれない。ただ薬師如来にはさらに配下として『十二神将』という存在感たっぷりの戦闘部隊がいるのだが、この武将たちのことは別の項にまとめることにして、ここでは割愛する。
このお薬師様は、菩薩時代に衆生のために12項目にもわたる約束事(12の大願)を自分自身に課すという、気色ワルい程のストイックさを持ったボランティア活動家でもある。せっかくだから彼が唱えた12の約束を以下に並べてみる。
◍全ての人を仏にする。
◍全ての人を明るく照らし、善行できるようにする。
◍全ての人が悟りを得るために必要なものを手に入れられるようにする。
◍全ての人を大乗仏教の教えに導く。
◍全ての人に戒律を守れるように援ける。
◍全ての人の生まれつきの身体上の障害や苦痛、病気を無くす。
◍全ての人の病を除き窮乏から救う。
◍女であることによって起こる修行上の不利な点を取り除く。
◍全ての精神的な苦痛や煩悩から解かれるように援ける。
◍国法による災いなどの災難や苦痛から解放する。
◍全ての人が飢えや渇きに苦しむことがないようにする。
◍全ての人に衣服を与え、寒さや困窮から救済する。
・・・なんせ他人のために全てをかけて尽くそうという訳なのである。私のようなスーダラな人間から見ると、よくもまぁこんな1円にもならんことを考えるものだと感心するが、各項目を見ると大きく3つのカテゴリー(1.衆生を悟りの境地に導く 2.病気や苦痛を取り除く 3.貧しさや生きにくさを助ける)に分かれているように見える。そしてこの内 2の『病気や苦痛を取り除く』という部分を取り出し、クローズアップされてご利益として昇華したのが各地の『お薬師さま』ということなのである。
12の大願を見事成し遂げ、晴れて如来となられたお薬師さまは『東方浄瑠璃光浄土』の教主である。東の果てにある光り輝く夢のような『あの世』のボスだ。ちなみに快適の極みに使う「あぁぁぁゴクラクだぁ!」の『極楽浄土』は反対の西の彼方に在り、教主として君臨するのがかの有名な阿弥陀如来である。