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身バレしたメイドさん
大阪はミナミの中心部から見て南東方向の一角に、オタロードという名称の通りがある。電気屋街である堺筋から 内側に少し入ったところだ(このあたりのロケーションは秋葉原に似てる)。『オタ』なんて名前、ちょっと前なら差別的といえなくもなかったのだろうが、今やその名称は市民権を獲得したかに見える。それにしても そこに集い 歩く民は皆、まさに『オタ』の名を冠するに相応しいイデタチであり、この地に短時間滞在するだけで 、誰もがこの通りの名前に納得してしまうと思う。
そのオタロードのメインストリートに交差する横道に、知る人ぞ知るシューマイの名店がある。書き入れ時と思われる日曜日を休みにするなど、強気の姿勢を崩さないその老舗は 開店前に行列ができるのが常だ。ただ メシを食うために並ぶだなんて、極力遠慮したい私だが、数日前からどうしても 件の店の名物である 卵でできた薄皮のシューマイが食いたくなり、開店が11時半であるその店に、30分以上前から並んだのだった。
案内されるまでは外で待つしかないのだが、奇しくもその店舗の向かいには メイドカフェがあり、そこにも我々と同じように間もなく店が開くのを待つ何人かの客がいた。私は(メイドカフェにも行列ができるんだなぁ)などと思っていたのだが、私たちと違うのはメイドカフェのオープンは 私たちより30分早かったことだ。
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《コラム》 ー メイド服 ー by 孤専校
服飾の歴史については専門なので 少々うるさいのですwww
いわゆるメイド服とは そもそも英国ヴィクトリア朝の時代、貴族や上流階級のお屋敷に奉公した女性たちが身につけた衣装が起源だ。時の経過や他国に渡ったりしてその形状は徐々に変化したが、我が国においても外国人の屋敷や、一部の名家の邸宅では 女性奉公人の仕事着として存在していた(エプロンの下は通常和服であった。『放浪記』なんかがわかりやすい)。
メイドを雇えるということは、すなわち社会的地位が高かったり富豪であることを意味するのだが、大正期以降に都心部で流行した『カフェー』に勤める接客業の女性たち(『女給』と呼ばれた)が、制服として件の奉公人=メイドの衣装を身につけたことで、来店した客が『召使いを抱えることのできるお大尽』の気分を味わえたのであろう。
現代において『メイド服』と称されるものは、発祥の地であるイギリスで 主に午後に着用したスタイル(黒のワンピース+白エプロン)をサブカル寄りにデフォルメしだものだ(俗にフレンチメイドと呼ばれる)。頭にブリム(ヒラヒラがついた白のカチューシャ)をつけるのは本来の目的に沿っているといえなくもないが、足首まであったスカート丈が短くなったことで むき出しになった膝下を ハイソックスでカバーするところが 大変日本風である(それ以上短い丈で接客するのは別の業種だww)。
メイドの成り立ちを考えるならば『お帰りなさいませご主人様』はあっても、オムライスにケチャップでハートを描きながら『美味しくなぁれ』はあり得ない。なぜなら雇い主に対し、それは失礼この上ない暴言ともいえるだろうからwww
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閑話休題、オープンの時刻になると同時に 向かいの店では入口から いわゆるメイド服を着た女の子が数名現れた。『お帰りなさいませ』とか『ご主人様』とかといったフレーズをお客に言ったのかどうかはわからないが、待ち客は次々とフレンチメイドの女の子にいざなわれ、店内に吸い込まれていく。
と、その中にどこかで見た気がする女の子がいる。・・・あれ? どこで見たんだろう? 生徒か? 卒業生か? はたまたネットの中か? しかしその女性はタレントとして活躍するほどの美貌でもない(失礼! ゴメンなさい!)。
その後もシューマイ店の開店を待っていた私の視界に、その子が何度か現れて 新しい客を店内に案内したのだが(着席までの案内役だったのか?)、2回目の時は明らかにこちらを見ていたし、3回目などは会釈までするのだ。
私は謎に包まれたのだが、そうこうしているうちに名店のシューマイを食べられる幸せな時間が訪れ、私はその日以後そのメイドさんのことは忘れてしまっていた。
ある朝。毎週の習いでゴミ袋を持って下りると、マンションのエントランスで自宅宛ての郵便物を確認している女性に出くわした。(若い娘さんが朝帰りか・・・)と思いながら、髪はボサボサで古ぼけたリュックを背負った彼女と目が合ったその時、その女性はハッと驚いた様子を見せ、次の瞬間ニッコリ微笑んできたのだった。虚を突かれた私は改めて女性を見た。そして3秒後に一気に謎は解けたのだ。あのメイドさんだったのである。そうそう! そういえば 少し前、この女性が粗大ゴミであるソファーを運ぶのに困っていたところに(絵に描いたように天を仰いでいたww)、たまたま居合わせた私と息子が集積場まで運んであげたことがあった! ご両親も知ってるぞ! あの日私を見ていたのはそういうことがあったからか!
考えてみると、決してお客には素性を知られていないであろうメイドさんが、ヒョンなところで身バレしてしまった朝だった。