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ひとりぼっちの家
ある日私の家の猫が何日間かいなくなった事があった。
必死で毎日近所を探し周り、最後に近所の空き家を見に行くと
その空き家の軒先でキョトンとこちらを見ているではないか。
『あーあ、秘密の場所が見つかっちゃったなぁ・・・・』
なんて声が聞こえてきた気がした。
その空き家はちょっと道から下がった場所に、ひっそりと奥ゆかしく、何年も何年もひとりで過ごしているように見えた。
それから何年もたって、この空き家が私の家になった。
取り壊す話が出た頃、知り合いの仲介を経て譲り受けたのだ。
その家は推定築150年越えの古民家だった。
必要超最低限の補修と設備をローンを組んで業者に依頼し、
あとは、お金が無いので内装も外装もほぼ自力。
家族はみんな日曜大工、DIY好きくらいのレベル。
とてもじゃないけど、癖のある古民家改装なんて無謀すぎる。
無謀すぎるけど始めてしまった。
知らないから出来る事もあるし、知らないから怖いものなしだった。
ついに見かねた近所のベテラン大工さんが
「遊びに」ほぼ毎日通ってくれた。
なにか始めた私たちを、気にかけてくれる人達も現れた。
地元のメディアにも少し取り上げられたりもした。
改装費用を募るためにクラウドファンディングにも挑戦し、
私たちの事を全く知らない見ず知らずの方々まで、興味をもってくれた。
片づけから始まり約4年かけて古民家は「再生」した。
初めて空き家を見た時独りぼっちで寂しそうだと思った。
でもそれは違っていたのかもしれないと今は思う。
今はいなくても、家はそこに暮らした家族の「記憶」と生きていたのかもしれない。だったら独りではなかったのだ。
あの時、空き家だったこの家を見つけた猫は今はもういない。
18歳まで生きて、私の部屋で眠るように命を終えた。
今、あの子が遊び場にしていた元空き家で、あの子の後輩猫たちが私たちと共に暮らしている。そこにはあの子を知らない猫たちもいる。
古民家の改装を終え、今度は旧自宅を改装している。
この家も私たちが暮らした日々の、目には見えない「記憶」と共にまだまだ生きていける。たとえそこに住む人が常に入れ替わっても。
あの子が見つけた古民家に、あの子を知らない子たちが今遊んでいるように。
まだまだ時間はかかりそうだけど、
私たちは私たちにできる範囲の小さな小さな種を未来に蒔いている。
たとえそれが花咲かなくても、蒔き続けているうちにきっと小さな芽が出てくれる事を願って。
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