広島日記

私はプライベートで旅行というものを経験したことがなかった。だから今回は、人生で初めての旅行だった。着いてきてくれたのは恋人で、恋人は日本から海外まで旅行をたくさん経験しているので安心した。しかし、楽しみというより、不安の方が勝っていた。

まず第一関門は新幹線での移動だ。ただでさえ電車やバスでパニック発作が起きやすいのに、長時間も新幹線にいられるだろうか。と、不安になっていたが、前日の睡眠不足からかすっかり彼の肩で眠ってしまった(頓服や吐き気止めは事前に飲んでいた)。
あっという間に広島につき、さて宮島に行こうとなった。宮島はフェリーでしか行けない。私は車酔いが酷いのだが、この世で1番苦手な乗り物は船なのだ。しかし、宮島行きのフェリーは割と大きく揺れも少なかった。そしてなんと5分くらいの乗車であっという間についてしまうのだ。もう、こんな近いならいっそのこと本土と島くっつけろよ。

そして第二の心配事、暑さだ。私は暑さにめっぽう弱い。どれくらい弱いかというと30℃の日向で5分ほど歩いたらもう目眩がする、という具合だ(私のメンタルがものすごく弱いという説の方が濃厚)。
しかし、朝方の宮島は涼しく快適で、鹿たちものびのび過ごしていた。みんながベタベタ鹿に触れたり追いかけ回したりする中、恋人はじーっと鹿を見守ったり、本当にたまにだけ優しく撫でたりしていた。私は彼のそういう動物主義なところがとても好きだ。

そして厳島神社を堪能した。海の上にあるからなのか、アスファルトの上よりも涼しく感じる。おみくじやろうかなーどうしようかなーと思って彼に「したい?」と聞くと、「○○ちゃんは?」と言われたので「ん、フツー」と答えると「普通なら、やったほうがいいよ、やろう」と言われた。何気ない言葉だけど、あとから使えそうなので、私の頭のファイルの中にその名言を保存しておくことにした。
そして厳島神社といえばあの大きな鳥居。満潮だったので、ろかい舟に乗った。みんなで北風小僧みたいな笠を被るのだ。いざ出陣!と思ったその時、私に目眩と吐き気が襲った。さっきの大型フェリーでなめていた。こいつは小さな小さな舟だ。揺れるに決まってるだろ!!ゲロをこらえつつ、彼に背中をさすってもらう。なんて情けない彼女だろう。メイクも頑張ったのに、変な汗でべちょべちょだ。
降りて木陰で休んだ。鹿がいると落ち着く。酔いはある程度収まったので、牡蠣を食べることにした。広島の焼き牡蠣、緊張の瞬間。じゅるり。

「んまーーーーーい!」

あまりの美味さに暑さも吹っ飛んだ。この調子で牡蠣定食食べちゃう!?となって、お洒落な人気店に足を運ぶ。本当に調子に乗りすぎた。全ての料理が牡蠣。味は違えど牡蠣牡蠣牡蠣。ボリュームもたっぷりで、もう牡蠣の味は嫌だと思っていたら「こちら追加の焼き牡蠣でーす」と。マジか、ここで素の牡蠣いくんか。さっきまで味噌汁とか、炊き込みご飯とかで誤魔化してきたけど、生できたか。しかも2500円か。食うしかなかった。

人混みの疲れもあったのか、2人ともバテてしまい宮島のスタバで休むことにした。キラキラする海と、私たちが乗った地獄のろかい舟が見える。今のところこの時間が1番心地がいい。この都会生まれのクソ女を殺して欲しい。
そそくさと宮島を出た。お土産も見ずに。

さて、次は市内を回るかーと、私の行きたい古着屋さんに彼が着いてきてくれた。彼には「服を買う」という機能が備わっていないため(普段着は清潔感ありますよ!不快になりません!)、ショッピングは楽しんでいない様子だった。
少し可愛いスカートと、最近流行りのジャージパンツを見つけた。そしていよいよ試着。ワクワクした。新しい自分が見られるんじゃないかと。
しかし履いてみるとあらびっくり。スカートはパツパツ。ジャージパンツは体育教師のようだった。ハァー!ため息をついて他の店に向かう。
ていうかさ、秋冬物ばっか置いてるねん。いや、気持ちはわかるねんけど、こんなに暑い中服見ててさ、「このニットかわいー!」とか思えるかな?私には思えないな。
そんなことを考えていたら彼がそろそろ疲弊していたので、ホテルに行くことにした。

ホテルでは、彼の家族のポイントで泊まらせていただいたので、超高級ホテルの超高級ランクのコースだった。こんなカスみたいな女子大生が来ていい場所じゃない、いや、もう一生来れないかも!と思いながら、彼は慣れた手つきで部屋まで私を連れていく。
部屋からは、広島が一望できて、お風呂もガラス張りだった。トイレも入った瞬間ウィーンと勝手に開いてくれる。そして大きなテレビと大きなベッド。今夜は彼と寝るのが楽しみだな〜と思っていた。

夕食前にラウンジに行ってお酒を飲んだり軽食でも食べようか、ということになって、最上階のラウンジへと向かった。
そこにはたくさんのお酒とたくさんの料理がビュッフェのように並んでいた。オシャレな料理には手が出せなかったので、とりあえずハムをたくさん取っておいた。そこでも彼は慣れた手つきで料理を手に取り、着々とお皿に盛り付けている。彼のようにお金持ちの実家はやはりそうなのか、私のような旅行にも行ったことのない貧乏な家庭とは違うよなと思いつつ、ハムなどを堪能した(あとキムチとかきゅうりのぬか漬け美味しかったです)。その後、事件が起きる。

ラウンジから帰ってきて、夕食まで15分ほど寝るねと彼が言ったので、今日は付き合わせちゃったし休んでね〜と思い、寝かせたら、うっかり私も寝てしまい、なんだかんだ1時間以上眠ってしまった。私の寝起きの悪さにイライラしたのか、彼はちょっと不機嫌そうだった。ちょっと喧嘩もしてしまった。「ハー、またやっちゃったな」と、しょぼんとしながら夕食のための居酒屋に行く道中で、私は「ねえ、お互いグーパンして喧嘩終わらそ?」と提案した。すると、

「俺は殴られても、殴り返さないよ。殴ったら負けだから。」

それが、フンっという拗ねたような言動だったとしても、私はその言葉を言える恋人がいて幸せだと思った。いいな、私もそんなこと言える大人になりたい。私だったらグーパンしてたもん。間違いなく。
そしてちょっと仲直りして、居酒屋で1杯だけ飲んだ。 帰り道にお酒とおつまみを買ってホテルに戻った。

そして2人ともシャワーを浴びて、いざ!酒!と思っていたら、急に吐き気と下痢に襲われた。すると伝染するように彼も下痢に襲われた。しかし、生牡蠣は食べていないはず。一体なんなんだ。悔しい。寝る前にくっついたりキスとかしたかったのに。このままいくとゲロチューになってしまう。それはダメだと思いお互い1人1つのベッドで大人しく寝た。素敵なナイトはお互い腹痛でうずくまりながら終了した。

そして次の日、何とか起きてラウンジで朝食、荷物をまとめてチェックアウトした。あまりにも眠くて眠くて、「眠い〜暑い〜眠い〜」と、駄々をこねてしまった。後から「赤ちゃんみたいでそういう士気が下がるようなこと言わないで」と言われた。辛かった。だって今までこうして生きてきて、気を許せた恋人なんだもの。脊髄反射で物事全部言っちゃうよ。「ごめんね。」って直接素直に言えばいいのに、なかなか言えずに反論ばかりしてしまった。バカだなー私。

そしていよいよ原爆ドームへ。緊張が走る、ピリリ。景色を見て驚いた。緑が溢れ、鳥が飛び交い、噴水まである。悲惨な事故が起こった場所とは思えないほど、平和な空間だった。そこにぽつんとある原爆ドームが、その悲惨さを一層際立たせていた。
資料館では悲惨な絵や写真、実物や言葉が並べられていた。見るに堪えないものもあったが、それが現実なのだ。私たちはそれを見ないように生きていくんじゃなくて、ちゃんと向き合うべきことだと思う。
私の隣で猫が寝ている。私の目の前では母が料理を作り、外では鳥が鳴いている。そんな日常が一瞬で奪われたとき、私たちは初めて痛感するのだろう。その一瞬の一欠片だけでも見られたことは、すごく良かった。忘れたくない。

そして、帰ろうか〜となって、駅でお土産を買いに行く。またしても下痢が私を襲う。もはやおぞましいぞお前。死に物狂いでお土産を買っていたら、私のLINEが鳴った。

大学の友達「私!コンペ入選したよ!」

それは私が何日もかけて悩みに悩んでやっぱり応募を断念したコンペじゃないか。悔しい。今すぐもみじ饅頭をぐちゃぐちゃにしそうな勢いだった。そう愚痴っていると、また彼は言った。

「僕はその良さ(入選作品の)はよく分からないけど、そんなもう過ぎたことでウジウジいっててもしょうがなくない?○○ちゃんもやればいいだけなんだから。」

いや、ほんとそう。そうです。すみません。でもさ、言いたくなっちゃうんだよ。言わないと報われない気がしてさ。
そう言ってちょっと気持ちが萎えたまま帰りの新幹線へ。案の定爆睡をキメる。彼は英語版の原爆の話が書いてある分厚い本を読んでいた。ほんと、賢いな〜生きる世界違うな〜とか思ったけど、その恋人も私の胸を揉みたがるガキなのだから、まあ同じか!となった。

帰り道に、カップルサミットが始まった。あれが嫌だった〜とかいう回。ボロくそ言ったけど、彼は半沢直樹みたいなものなのでその分倍返ししてくる。賢い人とは言い合いしたくない。でも賢い人は好き。さて、どうしようか。私がいい女になるしかないんですね。頑張ります。以上!

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