2020東京オリンピックにかかっているお金について。都民の目線から。
我々はどうしても税金や政治といった大きなトピックになると、細かい事実をすべて無視してゴシップや感情論に訴えるストーリーに踊らされてしまいます。一歩立ち止まって数字を眺めてみる。その数字がどういう意味を持つか考えてみることには多少の意味があると僕は思っています。それを踏まえて意見を持ちたい。みなさんはどうですか?
オリンピックのためにかかった&かかるお金(支出)
まずは情報のソースとしてこちらを。東京2020組織委員会が12月22日に発表した第五次予算です。まず、総額は1兆6440億円です。このトップラインの数字はよく報道されているので知っているよという人も多いでしょう。
報道では「東京五輪、予算を増額 史上最大規模に」とか、「オリンピック予算、大幅膨張必至 コロナや延期…なお全体像不明」とかいろいろ書かれているようですが、実は一番最初の予算案V1の時点(2016年12月)でもすでに、1兆6000億円~1兆8000億円かかるものと言われていたのです。この総支出額がバージョンアップのたびにどのように変わってきたかというと。
V1(2016年12月):16000億円~18000億円
V2(2017年12月):13500億円
V3(2018年12月):13500億円
V4(2019年12月):13500億円
V5(2020年12月):16440億円
こんな感じです。大会予算が最初に出てきてから、何とか削減して13500億円になりました!と言っていたけど、今度は想定外のコロナの問題が出てきて3000億円増えますとなって当初の予想レンジに戻ってきたというところじゃないでしょうか。もちろん、当初の予想にはコロナ関連の想定は一切入っていないので、構成が全然違うんだろうと思いますが、これだけ未曽有のパンデミックを目の前にして予算が増えないほうがおかしいというものです。
国家予算を見てみれば、2020年は追加追加でどんどん経済対策がなされました。みんな10万円もらいましたね?あれで+12兆円ですし、ほかにもGotoトラベルにGotoイート、個人事業種や中小企業への補助金、医療体制を整えたり、ワクチン買ったりの予算。年初のオリジナルの予算案から70兆円程度も増えたんですよね。+700000億円。国が借金をして作ってきたお金です(国債を家計の借金と並列に語るのは違う、けどここではあえて)。するとまあオリンピックの予算が3000億円増えたとして、そりゃそれくらいかかるだろうねという話。逆に言えばコロナほどの状況なら日本国は70兆円くらいすぐに調達できる。
その支出を誰がどれだけ負担しているのか(収入)
同じくこちらの公式サイトからわかることですが、16440億円のうち以下のような負担内訳になっています。
大会組織委員会:7210億円
東京都:7020億円
国:2210億円
計:16440億円
大会組織委員会の収入7210億円のうち、最も大きいのが国内スポンサーからの3500億円。IOCから850億円、チケット収入が900億円。
その支出は東京都の財政から見てどれほどの規模か
東京都の財政規模がすぐに思い浮かぶ方のほうが少ないと思います。あまり気にしませんからね。もちろん私も今知りました。2020年度の収入(一般会計)は7兆3540億円。東京は収入の74%を自前の税収で賄えているので、国からお金(地方交付税)をもらっていないんですね。(1.3兆円もある「その他」ってなんだ。だれか教えてください。予算概要に書いてあるっぽいけど。)
この歳入規模に対して、東京都の負担額は7020億円。しかし2020年度単年でこの費用が発生するわけではないので、単年度ごとの歳出を見ましょう。以下は東京都の一般会計の歳出のうちオリンピック・パラリンピック準備局が所管する「スポーツ振興費」です。(予算概要より、すべて当初予算)
2021年度:377億円
2020年度:3354億円
2019年度:3482億円
2018年度:1394億円
2017年度:647億円
2016年度:844億円
2015年度:643億円
2014年度:243億円
2013年度:308億円
本当だったら開催しているはずだった2020年の3354億円という予算は都財政の73540億円に対して4.6%を占めます。結構大きいなという印象です。ちなみに上記の金額を足したら余裕で1兆円を超えますが、ここにはオリンピック準備金以外にもスポーツ振興のための費用とか準備局の運営費管理費とかいろいろ入っているようですし、何をどこまで入れて7020億円としているのかはよくわかりませんね。
大会組織委員会が言う都の負担7020億円のうち、大会施設などのハード面に使われる部分は5470億円、大会運営などのソフト面が1050億円、ころな対策が500億円。建築物は圧倒的に都の予算が多く使われている感じなんですね。これだけお金がかかるんなら、東京以外の都市ではできないですよね。
都民の負担と得たもの…個人的には全然アリ
2013年から2021年まで、東京都のオリンピックパラリンピック準備局管轄の予算は計1兆円超えているわけです。一人当たり77000円ほど。4人世帯なら30万円。個人的には、別に大した額じゃないなぁと思いますけどね。オリンピックに東京が立候補したときには当然コロナでこんなになることなんて想定していなかったですが、それでもオリンピックがあるといって盛り上がれたここ6~7年の間に十分元は取れたと思うんです。
景気って心理戦だと思いませんか。オリンピックがあるから不動産が上がるから買っておこうといって地価が上がったり。株価も上がった。それで業績がよくなって給与が上がったりした。恩恵を受けた人がかなりいるはずです。ここ10年は景気はよかったはずです。もちろんオリンピックがすべての原動力ではないですが、かなりプラスの効果をもたらしたような気がしませんか。実際にオリンピックが開催されるかどうか、それは現時点では正直不当名ですが、もう充分にこれまでに間接的な効果で払った分くらいの効果はあったんじゃないかと、ひっそりと感じるわけです。
先ほどオリンピックのコストが都民一人当たり77000円みたいに書きましたけれども、オリンピックの支出を都民の頭数で割るのはフェアじゃないと思いませんか。(自分で言っておきながら)。なぜなら都税収入のうち個人の都民税は17%ほど。あとは固定資産税だとか、法人住民税と法人事業税などいろんな税収があります。都税を収めている主体は個人だけじゃないし、むしろ個人より法人の納税のほうが多いわけですから、すると一人当たりの負担額は7年で13000円程度という見方もできるわけですよね。単純に1兆円を都民1300万人で割って一人当たりいくら、というのはフェアじゃないですね。
その1兆円をもっと別の何かに使うべきだった? …その話7年前にできた?
東京都はかなりお金を負担しているわけですが、東京にいる1300万人の人口と、東京圏に集中している大中小規模の法人の納税余力から言えば出せないことはない金額です。そして個人的にはオリンピックに向けて高まった機運と景気を考えればもう充分元を取ったので不満はないのです。ただ、そういう人ばかりではない。東京都にもっと予算をつけてほしい事業を営んでいる人も、都の支援をもっと増やしてほしいという人たちもいます。そのバランスを取るのがまさに政治家の仕事なわけです。そして横から必ず、「その1兆円を○○に使っていたらもっと経済効果があった」みたいなことを言う人も出てくる。
でもその議論ってすべてオリンピック開催地として立候補する時点で議論しておくべき話ですよね。開催が決まってからは、後戻りできないし突っ込むしかないわけですから。後知恵バイアスは強烈なので控えめを意識しましょう。
ところで、五輪招致はいつ誰が決めたんでしたっけ?2011年7月16日、石原都知事が立候補を表明しました。その石原都知事は2011年4月の都知事選で2020年東京オリンピック招致を公約にしたうえで選挙で選ばれたわけです。2011年4月といえば、東日本大震災の直後です。おそらく復興の道しるべとなるオリンピックは少なからず有権者には刺さったのだと思います。実際に開催地として決定したのは2013年9月7日です。ですから、もし財政面で懸念があるのであれば、2年くらいは議論の余地はあったのですね。実際にイタリアのローマは立候補していましたが財政危機を理由に2012年2月に辞退しています。でも東京は大震災の傷跡はありつつも辞退しなかったのです。
これも結局後知恵バイアスであって、「財政に懸念があるのであれば2年くらいは検討する期間があったはず」なんて言ったって誰もそんなこと当選もする前からリアリティのある検証なんてできないわけです。できたとしてもそれを大衆に喧伝して大衆がそれを精査し認めたり否認したりするかといえば、そうではない。「東京でオリンピックを開く」という標語を支持できるかどうか、それだけです。都民が選んだ都知事の公約が素晴らしいことに現実のものになりました。
2021年オリンピックをどうするべきか?
人間はいつも過去を振り返って「ああしておくべきだった」「あれはやるべきではなかった」ということばかり言ってすぐに責任を取らせようとしますが、大事なのは未来をよく考えることです。どういう選択肢がとりうるのか、何を得たいのか、どういう結果になるか。はっきり言って、決断にかかわっている人以外に具体的にできることはありませんから、せいぜい自分の意見をブログに書いてみるくらいのことです。でもしっかり考えていれば意義のある雑談のネタにはなりますし、自分の意見に近い政治家を今後しっかり選んでいくための助けになることは間違いないでしょう。
私は個人的には中止派です。つまり2019年までで十分オリンピック効果を得たので、ここは早々に損切りをしてこれ以上の赤字を避けてほしいというのが私の本音です。もちろんやめれば全部終わるわけじゃないだろうけど、感染予防のための莫大なコストをかけて、あまり面白くない小規模な無観客試合を放映するだけというのは見合わない気がしますね。
ただあれだけ「中止は絶対にない」と偉い人たちがいっているので、だとすれば取り得る選択肢は、それぞれ競技・種目ごとに無観客かバーチャルでの実施が可能かを検討するくらいじゃないでしょうか。タイムや飛距離などでで順位付けができるものはバーチャルで、それが無理な競技は中止とか。ド素人が2020年12月末時点のコロナ感をもとに予想しただけの内容です。ちなみに世論は中止と再延期が拮抗し開催派が少し負けているようです。
スポンサー問題
中止できない理由にスポンサーへの損害賠償責任という観点もあるみたいですね。各ゴールドパートナーは6年間で150億円程度だしているそうで、さらに1年延長で追加しているようです。でもその宣伝効果はもう無いも同然です。スポンサー企業はほとんど上場会社ですから、経営者はこの無意味な広告宣伝費にたいして株主代表訴訟を起こされる可能性もあり、IOCやJOCが損害賠償を請求される可能性もあるわけです。だから本音では中止しかないと思っていても、責任を考えると誰も言い出せないとのこと。