戦略と価格、管理と営業。
手間がかかる仕事と、儲かる仕事は違う。それはみんな知っている。でもそれをマネジメントが何とかしようとすると、手間がかかる仕事を全部切り捨てればいいじゃないかという風になる。手間がかかって儲からない仕事を全部やめたら儲かる仕事だけ集中できるじゃないか。現場の本音としては、儲かる客との関係性は長い時間かけてできるもので、最初のうちは手間がかかって儲からないものだ。そのなかで、それでも将来的に儲かりそうなものだけをなるべくピックアップしたい。そしてそれは常々そういう観点でやっているもので、ある程度最適化されている。だから、変にいじると「手間が増える」か「収益が減る」のどちらかになる可能性があるけどわかる?
よくある話である。将来予測というのは基本的にあてにならない。予測は予測であって、予測が外れたから責任取れというマネジメントはクソだなと思うし、儲かるって言ったじゃないですかっていう外野(商品本部とか、リスクマネジメントとか)は文句をたれる前に予測というものの本質を理解すべきである。将来のことというのはどれだけもっともらしく書いても不確実なものなので、それに対して「誰が確認したか」とか「どこまで確認したか」とかそんなことを突き詰めたところであまり意味がないのだ。
例えば、アナリストが強気推奨だったのに損したじゃないかといって文句をたれる投資家がいても、アナリストも証券会社もあやまったりしない。そういうものだからだ。投資家が悪いわけでもない。投資家は損をしたという事実を受け入れるだけだし、アナリストだって自分の可能な限り確からしい根拠をもって推奨している。 証券会社は売買のプラットフォームを提供するとともに、ご親切にも「損をすることがありますしそれはあなたの責任ですよ」とリマインドしてくれている。誰も悪くない。投資は将来を予測してやるものだし、それでうまくいかないこともある。当たり前のことだ。
営業活動も基本的には顧客の将来性に投資するという側面がある。将来的に大きな取引になる新規の客を発掘するからだ。しかし、株式市場にかけるよりもはるかにリスクは少ないものだ。なぜなら最悪でも売り上げがなくなるだけで、元本を毀損するようなことにはならない。大きな売り上げが期待できる顧客には競合がひしめいていて、価格やサービス面で差をつけることが難しい。必然的に競合が少なく、価格やサービス面で魅了できる余地のある客にアプローチする必要がある。サービスに満足してもらって定価で取引するのが理想だが、価格面の妥協はたいていの場合必要になる。銀行のような巨大な組織では営業担当には一切裁量はないので、どのような優遇をするにもすべて承認が必要になる。この承認を出す人が現場から離れるほど話が通じなくなるのだ。もちろん大きな優遇を求めるほど承認者は現場から遠く離れていく。最終的には「今後3年で○○倍になります」みたいなコミットをさせられて承認するわけだが、忘れたころにあれの売り上げは本当に○○倍になったのかみたいに追跡調査されることがある。こういうプロセスが全部End to endで見えている人ならば「そういうこともあるよね、打率3割ならOK」となるが、たまに杓子定規な人というのは必ずいて、「営業がコミットしたのにどういうことだ」みたいな意味のない追求を永遠にやりたがるタイプが一定数いる。
大きな組織ならばこれはしょうがない面もある。営業個人の裁量にしてしまえばきわめて重要な価格戦略が全くバラバラになってしまうし、新しい顧客をつかむために価格競争をすると、際限なくなって既存顧客との不公平感がでてくる。ルールは必要だ。ルールをどのように決めるかというところに、戦略が出る。どんな業種を狙うのか、どんな規模の会社を狙うのか、そして狙わないのか。そのルールを誰が決めているのか、何のために決めているのか。営業現場の実態を知らない人がプロセスを管理するためだけにやっていて、新規顧客獲得の観点を無視している場合には俺が苦労するんだ。