見出し画像

ちょっと詳しい火星の話 #4火星に生命はいるのか?


火星に知的生命体はいるのか?

 現在では昔の映画に出てくるような知的な火星人はいないであろうといわれています。この記事を読んでくださっている皆さんも火星に知的生命体がいると考えている人はほとんどいないでしょう。しかし、19世紀から20世紀においては知的生命体が火星にいるのではないかということが本気で議論されていました。前編では火星の知的生命体に関する人類の認識の変化を追っておこうと思います。後編では火星に生命はいるのかについての最新の知見を紹介しようと思います。

火星観測の開始

 火星の観察が本格的に始まったのは望遠鏡が作り始められた17世紀後半です。1659年にホイヘンスは火星の暗色模様をスケッチしました。このスケッチはおそらく大シルチスをスケッチした物であると考えられています。大シルチスについては前回の記事で軽く触れているのでよろしければご覧ください。フランスの天文学者カッシーニは自転周期を24時間40分という現在に近い数字で導き出した他、極冠や火星表面の模様が季節変化していることなどを発見しました。

  そして19世紀に入り大型の望遠鏡が作られるようになると火星の観測はより盛んに行われるようになり、表面の模様をまとめた火星地図が作られるようになりました。1839年にドイツの天文学者ヨハン・メデラーとヴィルヘルム・ビールは火星の最初の地図を作りました。彼らが定めた本初子午線は現在でも使われています。

火星に運河が存在する!?

 火星人の存在が本格的に議論されるようになったのは、イタリアの天文台の所長であったスキャパレリが火星の表面を網目のようにつなぐスジ状の模様があるのを発見してからです。彼は発見したスジ状の模様にCanali(イタリア語でスジまたは水路)と名づけ、論文にまとめました。これがフランス語・英語で運河(Canal)と誤訳されてしまったがために、スキャパレリが火星に運河を発見したと広まってしまったのです。なお、スキャパレリはこれまでの観察結果をまとめ火星地図を作成しました(図1)。彼は火星の模様にギリシア神話に登場する名前をつけましたが、これは現在でも使われています。前々回の表紙でも載せた現在の火星地図(図2: 上下ひっくり返しています)と比較してみるとElysium(左下)やHellas(中央左上)、Tharsis(中央右)など一致している地名が多いのがわかってもらえると思います。ちなみにスキャパレリの火星地図が上下逆向きなのはおそらく望遠鏡の像が倒立しているためだと思われます。

図1 スキャパレリの火星地図
引用: MEISTERDRUCKE


図2 現在の火星地図(上下反転しています)
Tanaka et al. (2014)

 火星に運河があり、それらは知的生命体が作ったに違いないと考えたアメリカの富豪ローエルはローエル天文台を設立し、火星地図を作り上げた。彼は1903年に「Mars as the Abode of Life」を、1906年に「Mars and its Canal」を発表し、運河は知的生命体によって作られ、極冠が溶けてできた水を火星全土へ送るために作ったと主張した。この発表は大衆を熱狂させ、1938年にはウェルズの「宇宙戦争」をもとにラジオドラマが作られた。このラジオドラマは火星人が襲来し人類を攻撃し始めたという内容の臨時ニュースが流れるかたちで始まったため、一部の人が間に受けて騒ぎに発展した。
 やがて、火星表面の情報が集まり始めると、火星表面は液体の水を維持するには寒すぎることや目の錯覚で模様が直線のように見えることなどが明らかにされ徐々に火星に知的生命体はいないであろうと考えられるようになった。しかし、当時の望遠鏡では完全にいないことを証明するには不十分であったために論争は続いた。日本においても1922年の「天界」という雑誌において、火星の運河がどのようにできたのかについて大真面目に様々な説をあげて議論しています。現在の火星像からは考えられませんが、つい100年前までは火星に知的生命体がいて惑星を覆うような運河を作っているか否かについて真面目に議論していたって面白いですよね。当時の人々がどのように火星について考えていたのかを知れる面白い論文なのでぜひ読んでみてください。リンクを載せておきます。

マリナー計画による決着

 この火星に運河があり、知的生命体がいるのかについてはマリナー4号(1965年)、マリナー6号・7号(1969年)、マリナー9号(1971年)によって明らかにされました。これらの探査機は火星に接近して表面の画像を撮影し、液体の水が流れる直線の運河が一切ないことや火山や大峡谷、クレーターなどがあることを発見した。こうして火星に運河はなく、知的生命体はいないであろうということで議論はようやく落ち着いたのでした。

図3 マリナー計画による火星起伏陰影図
Lunar and Planetary Institute

参考文献

[1]鳫 (2018)「火星ガイドブック」恒星社厚生閣
[2]ナショナルジオグラフィック 火星地図200年の歴史、こんなに進化した15点
[3]山本 (1922) 火星の表面, 天界, 2(19), p.115-122

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?