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ちょっと詳しい火星の話 #2火星の年代史
地球の年代史
比較のためにまずは地球の地質年代について見ていきましょう。地球の年代はまず大きく先カンブリア時代と顕生代に分けられます。先カンブリア時代は生物の化石などがほとんど残っていない時代で、地球の歴史のほとんどを占めます。一方、顕生代は生物の化石が多く残っている時代で、恐竜が生息していた中生代はこの中に含まれます。植物の誕生や魚類・爬虫類といった脊椎動物の出現もこの時代に起こりました。図1を見てもらえれば地球の歴史のなかで生物が大きく進化し、多様化していったのは極めて最近に起こったということがわかると思います。
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クレーター年代学
ここまでは簡単に地球の年代史について簡単に見てきました。地球の年代区分は特徴的な岩石や化石によって分けられています。具体的な年代はこれらに含まれる放射性同位体を使って求められています(放射性年代測定)。一方、火星では今のところ化石は見つかっておらず、サンプルを持って帰ってくることもできていないため放射性年代も用いることはできません。そこで、火星の年代区分にはクレーター年代学が用いられています。クレーター年代学は地表のクレーター数密度から年代を求める手法です。クレーターは隕石が衝突することで形成されますが、もし風化などによって古いクレーターが消えることがないとしたら古い地表ほどクレーターの数が多いはずです。そのためクレーターの数を数えることでその地表が形成された年代を求めることができるのです。
しかし、クレーター数密度から出すことのできる年代は相対年代のみで絶対年代を出すことはできません。なぜならクレーターの数から各地表を比較してどちらの方が古いかを求めることはできても、それがいつできたのかはわからないからです。ですが、実際は火星の年代は具体的な数値で区分されています。ではどのように数値を出しているのでしょうか。
月は形成後ほとんど地表が風化しておらず、形成されたクレーターは消えずに残っていると考えられています。また、アポロ計画により月の石が地球に持って帰られているため、その石があった場所の数値年代を出すことが可能です。したがって、月においてはクレーターの数密度と数値年代を結びつけることが可能です。そしてこの関係を火星に適用することで火星の数値年代は求められています。なお、当然月と火星では衝突する隕石の数に差があるため誤差が大きいことに注意が必要です。
火星の年代区分
ノアキアン
火星の年代はクレーター年代学に基づいて古い時代からノアキアン、へスペリアン、アマゾニアンに区分されています。ノアキアンは約45億年前から37億年前までの時代です(45億年前から42億年前まで辺りはプレノアキアンとされることもあります。)。マグマオーシャンや隕石中爆撃を経た後のノアキアン後期は火星において一番火山活動が活発だった時代で、全球的に火山活動が起こっていました。また、バレーネットワークも多く形成されました。バレーネットワークとは図2に示しているように峡谷が枝分かれをしているような構造で、よく地球のナイル川と比較されます(図3)。これは長期間にわたり雨が降り続くことで形成されると考えられており、この時代においては水の循環が維持されていたと考えられています。地表の岩石が盛んに風化されて大量に粘土鉱物が堆積したほか、水に溶け込んだカルシウムイオンと大気中の二酸化炭素が反応して石灰岩も形成されました。
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NASA/JPL-Caltech/Arizona State University
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へスペリアン
へスペリアンは約37億年前から33-29億年前まで続いた時代で、ノアキアンから引き続き火山活動は活発であったものの、タルシス地域やエリシウム地域、ハドリアクス山以外での火山活動は減少していきました。火星の地質については今後他の記事で詳しく紹介したいと思います。ヘスペリアンではノアキアンに多く形成されていたバレーネットワークが徐々に形成されなくなり、代わりにアウトフローチャネルが多く形成されるようになりました。アウトフローチャネルは図4に示したように幅の広い渓谷で、一度に大量の水が流れる際に形成されると考えられています。この時代は大気が希薄になっていく中で徐々に寒冷化が進み、各地に氷河が形成されていったと考えられています。この氷河が火山活動や地軸の傾きの変化などにより解けることでアウトフローチャネルは形成されたと思われます。そして、この時代には北部低地に海が形成されたと考えられています。ただ、この海が長期間維持されたのか断続的だったのかは未だわかっていません。また、へスペリアンは風化があまりされなくなって粘土鉱物の堆積量が減った一方、ジプサムのような硫酸塩が多く形成されるようになりました。
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NASA/JPL-Caltech/Arizona State University
アマゾニアン
アマゾニアンは約33-29億年前から現在まで続く時代で、これまで活発だった火山活動や風化は減少し、代わりに風成活動や氷河形成が活発になりました。そして、形成される鉱物は硫酸塩から酸化物へと変化していきました。なおこの時代においてもタルシス地域やエリシウム地域では断続的に火山活動が起こっていたと考えられています。
参考文献
[1]Tanaka et al. (2014) Geologic map of Mars, U.S. Geological Survey Scientific Investigations Map 3292, pamphlet 43 p
[2]Carr et al. (2010) Geologic history of Mars. Earth Planet. Sci. Lett., 294, p.185–203
[3]Goto and Komatsu (2012) The comparative planetary geology of oceans, lakes and outflow channels on Mars, Jour. Geol. Soc. Japan, 118, p. 618–63