地域とともに身近な自然を守り、いつくしみ、引き継いでいく ~FM戸塚 ゲスト 名瀬谷戸の会 会長 田中真次さん~
FM戸塚で戸塚井戸端会議という番組のラジオパーソナリティをつとめています。
戸塚井戸端会議(第3火曜)12:00-15:00
https://fm-totsuka.com/personality/2132-2024-09-02-04-58-01
植物療法の中のハーブ・アロマや発酵関連のプチ知識や癒し情報で、忙しい毎日をお過ごしの皆さんに、ちょっとした余白を作りほっこり笑顔になれるような時間を作りたいと思っています。
番組の中で、戸塚周辺で自然や植物などに関わる方々をゲストにお呼びし、皆さんに地域の魅力を知っていただいたり、つながりを作ることができればと思います。
2024年12月17日は、私が会員になっている「名瀬谷戸の会」の会長の田中真次さんにゲストに来ていただき、ご活動などについてお聞きしました。
自己紹介
――よろしくお願いします。それではまず自己紹介をお願いします。
名瀬谷戸の会(以下、谷戸の会)の会長の田中真次です。谷戸の会を設立したのが 2016 年で、そこからずっと会長職をやらせていただいてるんですけれども、名瀬の里山にぞっこん惚れまして、なかなか引退することができない状態でいるんです。
私自身はもう来年で後期高齢者になります。そろそろ引退しなきゃと思っているんですけど。戸塚には 40 年以上住んでおります。よろしくお願いいたします。
名瀬谷戸の会
――まず谷戸の会っていうのはどんな風な団体なのですか?
名瀬の里山は、東戸塚の駅と緑園都市の駅の中間地点で、両方ともバスで行くと 10 分ぐらいの距離にあります。
里山の保全活動と里山の環境教育活動の一体化事業というミッションのもとで保全活動と子どもたちの環境教育を定期的に実施しています。
会員は、森林インストラクターと戸塚区の地域住民の人たちが中心になって構成されています。
――活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは、2015年くらいに名瀬の里山の地主さんに声をかけてもらったことです。
そこには昔からの里山の伝統だとか、歴史だとかいろんなものがあるんですけども、実はそこの地主さんが高齢になられて、そこの土地の大半を横浜市に売却したんですね。でも売却後に、自分が生まれ育った里山が見事に荒れ放題になってしまいました。
私はその地主さんとその娘さんに呼ばれて、里山の整備の依頼をいただき、引き受けることにしました。
その際、お二人からは二つの要望をいただきました。
一つは自分たちが生まれ育った里山を昔の里山に復活させてくれということと、もう一つは子ども達ファミリーがいつでも遊びに来られる里山にしてほしいということでした。
――昔の里山に戻してほしいというのはすごく壮大なお願いですね。その時どういう風に思いましたか?
受け止めました。依頼をいただいた時に里山を案内してもらったのですが、真っ暗な森で棒で蜘蛛の巣を払いながら進まなきゃいけないぐらいのものでした。
整備をするのはとても大変だろうと思いましたが、歩いているうちにこんな素晴らしい歴史のある伝統の里山をもう一度復活させようという想いのようなものが強くなり、その日の内に「何とかします。」ということで引き受けました。
――なるほど、その当時の会のメンバーは何人ぐらいだったのですか?
5万ヘクタールぐらい、東京ドーム2個分ぐらいの広さなんですけど、一人じゃ無理なので、私の所属しているNPO法人全国森林インストラクター神奈川会で、森林保全・里山保全に強い人たちを引き抜いてきて、最初は15,16人ぐらいでやり始めました。
――すぐにそれだけの人数が集まるのは、すごいことですよね。
そうですね。ただ、森林インストラクターっていうのは、森の保全活動も重要なアクティビティの一つで、そういうことをやりたいという森林インストラクターの資格を持っている人が結構いましたので、すぐ集まりました。
――そうなのですね。人が集まったとはいえ、そこからがすごく大変ですよね。
そこからは、地域住民の人たちと一緒に保全活動をすることに力を入れました。保全活動で昔の里山に戻すっていうこと自体大事なのですが、同時に地域住民の人たちにとって地域の活性化は大きな目標の一つなので、地域の人たちにこの里山を運営してもらいたいという想いがすごくありました。
それで、いろんなチャンネルやコネクションを使って、地域住民の人たちに一緒にやりませんか?とお願いしまくりました。
実際にやるうえで、最初に一番必要なのが道具でした。これだけ大きな里山なのに、手入れをされていないので道具が一つもないんです。鍬もノコギリも何もないんです。
ここは横浜市の土地だから、横浜市にいろいろお話し相談に行き、里山の保全活動の道具を買うための補助をもらいました。
次に頭を悩ませたのが、里山保全活動に来る人たちの交通費などのコストをどうやって捻出するかということでした。ここはまた話すことができればと思います。
里山保全活動
――活動ではとても苦労されたことがいっぱいあったのかなと思います。ここからはより具体的にお話を聞かせていただきたいと思います。先ほど名瀬谷戸の会では、里山保全活動と里山環境教育活動の一体化事業をされているということでしたが、まずは里山保全活動について教えていただけますか?
横浜市のみどり環境局との5年間の第1次の保全管理計画を2017年に作って実施し、今は第2次の保全管理計画をやっています。
その保全管理計画の下で里山の竹林や落葉広葉樹の雑木林の保全管理をやったり、緑化整備を実施したり、生態系の保護活動をしています。
――どの程度の頻度で活動をしているのですか?
昨年、令和5年度は、里山の保全活動を44回やって、892人の人たちが作業に来ました。
一方、今年は35度以上の猛暑が続き、8月は全く活動ができなかったんです。それで活動が減り今年の令和6年はのべ40回、650人ぐらいになる予定です。過去のデータを調べると保全活動は着実に増えています。
――谷戸の会の保全活動の特徴とはどのようなものなのでしょうか?
横浜市環境創造局と有名なコンサルタントの方からは、我々の活動は、自治体である横浜市と、森や里山の保全活動の専門家である森林インストラクターがコアとなって運営される森づくり活動団体と、地域住民および地域社会との三者協働によるトライアングル体制が、他にはない特徴であり、それがうまく働いているという実績や実態を非常に高く評価していただきました。
別の年度には、最先端の竹林管理・里山管理を実施していることや、森林インストラクターという専門の方たちが大変謙虚な姿勢で取り組み、近隣の方との関係を大切にしている実態について評価いただき、名瀬の里山が日本の里山のモデルケースの一つだという嬉しいコメントを頂戴しました。
里山環境教育活動
――自治体・専門家・地域が連携して新しいモデルを作られているというのはとても素晴らしいですね。では、もう一つの里山環境教育活動について教えていただけますか?
里山環境教育については、東戸塚周辺の5つの小学校がここに環境教育に来るようになりました。
最初はある小学校の校長先生や教職員の先生方に里山に来ていただいて、里山の紹介を行い、子ども達の校外学習での活用を相談しました。試しに4年生に来てもらったところかなり好評で、次の年からその小学校のいろんな学年がくるようになりました。
また、里山環境教育が広まった理由でとても大きかったのは、コロナ禍の影響です。当時、子ども達が公共の交通機関を使って校外学習に行けなくなりました。ズーラシアも江ノ島水族館も行けなくなりました。
そこで先ほどとはまた別の小学校の校長先生から 1、2年生の遠足を里山で計画してくれないかという声掛けをいただきました。
1、2年生合計すると225人です。やれるのかと心配でしたが、先生たちと協力しながら綿密な計画を立てて実施しました。結果は、無事に子ども達がみんな楽しんでくれたということでとても良かったです。
そういうことがきっかけになって、いろんな小学校の子どもたちが来てくれるようになりました。
――ゼロから始めてそこまで大きくなるのはすごいですね。特に初めは大変だったのではないですか?
当時は子ども達がどういうことをやったら、里山について学んだり、里山への思いをいだいてもらえるかがわからなかったんです。
そこで、少しずつ計画して実施しながら、どんな風な環境学習をやったらいいのかということを模索してきました。
子ども達は里山のことを学ぶために来るんですけど、我々も子ども達からいっぱい学んできました。
だから我々は子ども達に自己紹介する時は必ずニックネームなんです。先生とは呼ばせない。
私は田中真次という名前なのですが、子ども達にはしんちゃんと呼んでもらっています。
――ネームプレートもニックネームで作っていますもんね。ちなみにどの程度の回数や人数への教育をされているのですか?
昨年度は5校で20回、1,500人ぐらいに来てもらいました。
今年度は、猛暑で中止になったケースがありますが、12月末ぐらいで約25回、1,600人以上、3月まであるとするとさらに増える予定です。
こちらも着実に増えていて、それは里山の魅力が子ども達に素晴らしい影響を与えるということを先生方が理解していただいているということだと思います。
――私の小学校3年生の娘は校外学習で谷戸の会にお世話になっていて、会の教育面の活動は素晴らしいと思っています。
今の子ども達って自然と戯れる機会で少ないんですよね。自然から学ぶことはすごくいっぱいあるので、そういう風な試みをしていただけるのは親目線でもありがたいと思っています。
今は、公園でも禁止事項が多いんです。看板に書いてあるのはやっちゃいけないことばかり。僕はそれが一番嫌いなんです。だから里山に来たら何でも好きなようにやれって言ってるんです。
木登りから柿や木苺を採るとか、昆虫だとかトンボも好きなだけ採りなさいと。昆虫類は全部キャッチ & リリースが条件なんですけども、それ以外は禁止事項がないようにして自分で判断してもらうようにしています。
そのような中で、とある近隣の小学校の先生から春に木登り体験をさせてほしいという要望をいただきました。そこで、木登り体験と、里山に生えているアジサイを好きなだけ持って帰ってもらうことをしました。
先日、その先生からまた子ども達を連れて行くので、今度は何をお土産に持って帰れますか?と聞かれましたので、里山の素晴らしさを持ち帰ってもらうように伝えました。
――里山にはいろいろありますが、自由に走り回り、植物などに触れられるところがあるというのは貴重なものですよね。やっぱり子ども達も喜びますよね。反応をどうでしたか。
すごくいろんな反応をもらっています。小学校の環境学習・環境教育が終わると必ず感想文を書いてくれます。その感想文には、また来たいとか、楽しかっただとか、いろんなことが書いてあり、もう本当に涙が出るぐらい嬉しいです。それが一番の自分の財産になっています。
――それは嬉しいですよね。小学校の校外教育はいつごろからされてるのですか?
発足してすぐからです。最初に、2016年の秋あたりにある小学校でやりました。その後、その実績や横浜市の森づくり活動団体として認定されたことで、少しずつ増えていきました。
学校もやっぱり我々がどういう任意団体かわからないんで、初めは実績を作ることが非常に重要なんです。
――子ども達たちが里山に行くことでどのような効果があるのでしょうか?
子ども達にとっては教室での知識と里山での知識の相乗効果が出てくるんですよ。実物を見ることは非常に重要だからです。
2年生でフキノトウやタンポポを習ったら、里山で本物を見てもらいます。教室で教科書で勉強したことに加えて、里山で実物を見ながら我々森林インストラクターがそれぞれの知識や経験を提供しながらともに学びます。
そういった名瀬の里山での経験によって、子ども達の中に鮮明に里山の記憶というのが残るんじゃないかと思っています。
――ありがとうございます。そういう実績が一つ一つ積み重なっていくとスムーズな活動にもつながりますよね。また、学校の先生へも環境教育をされたのでしたよね?
今年の8月の夏休みに戸塚区の教職員の先生方の研修会をしました。
先生が自分たちの住む場所の身近な雑草を含めた自然の生き物を使った教育をするために、ある小学校の校庭で、我々4人の森林インストラクターが校庭内にあるいろいろな草花やそれを使った遊びをお伝えするというものでした。
そこで驚いたことは、先生たちは校庭にどのような草花があるかさえご存じないということでした。結果としては好評で、また来年も夏休みの研修会を実施してほしいという要望をいただきました。
――身近な草花も貴重な自然ですよね。日々目に入っているはずなのに、なかなか意識できませんよね。
こういった活動で大事なのは、決して高山植物を見に信州だとかに行く必要はなく、身近な植物にいろんな不思議や発見があって、それが感動につながるということだと思います。
――里山に来た子どもたちから素敵な感想もいただいているということでしたが、感想をちょっとご紹介してもらってもいいですか?
今年もらったばっかりなんですけど、ある小学校の男の子がくれた感想文を読み上げさせていただきます。
――ありがとうございます。すごくやりがいを感じる手紙ですね。そういう風に感じてもらえたら嬉しいですし、そのように感じる子ども達がどんどん増えていけばいいなと思います。
今後の展望
――それでは、今後の展望を一言いただけますか?
我々がモットーとしている里山環境教育と里山保全活動の一体化事業を国内のモデルケースにしたいと思います。
我々の一体化事業というのは他にないものであるとして、林野庁や神奈川県、横浜市、戸塚区役所の方も評価してくださっています。
――ありがとうございます。今後も楽しみにしています。
ぜひ野田さんも名瀬の里山に来てください。ありがとうございました。
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