ベーシックインカムは人々を怠惰にするのか
新型肺炎で自粛が続き、経済活動が制限されている現在、今後数年は景気後退する可能性が高い。既に倒産やリストラが行われている業界もあり、生活が厳しくなることが予想される。
そんな中、ベーシックインカム(BI)を望む声が以前より高まった気がする。
そもそも、ベーシックインカムの思想自体は昔から存在し、一部の地域では実際に実験が行われた(カナダ、オンタリオ州など)。今回のウイルスとは関係なく、社会情勢の変化で今後は必要になるかもしれないという議論がなされている。だから、今すぐ導入しろとは思わない。しかし、遅かれ早かれ検討する日は来るのだから、このベーシックインカムの導入是非について考えたい。
グローバル化と技術革新で、割を食うのは中間層だ。中途半端に高い賃金は機械に代替され、マックジョブという、いわゆるブルーカラーの仕事に流れていくだろう(ロバートライシュ氏、経済学者)。ますます格差は広がり、特に資本家としての富裕層と、その他の労働者の差がより一層広がる。
当然、その状況のままでは今までの社会保障制度は成り立たないし、社会不安も起きる。
そういった状況の中で注目を浴びた考え方が、「ベーシックインカム」だ。
もちろん、議題に挙がってもほとんど導入されないのには理由がある。様々な障壁があるからだ。
財源の問題がある。「そのお金、どこから持ってきたの?」ということだ。
当然、今の仕組みのままでは、国民にこれっぽっちも渡せない。生活保護と医療保険を合算したとしても、国民全員に渡すのには少ないし、今大きなお金が必要な人に渡せなくなって、かえって不公平になる。かといって、増税するのでは本末転倒だ。
おそらく、お金に対する認識を考え直す必要があるだろう。この分野に関しては勉強中であり、もっと議論が必要だが、例えば現代貨幣理論(MMT)といった考え方も、市民権を与えるのも一つの手ではないか。
現在の国家財政のしくみは、基本は数百年変わったいない。しかし、昔と違って資本力も為替のしくみは変わっているのだ。概念的な「お金」は依然として存在しつつも、実際的な「お金」はかなり変わっていると思う。それも折り込むべきだ。
また代表的な問題として、生活保護の問題と同様、何もしなくてもお金が貰えるのならば、人々は働かなくなるのではないか、ということだ。
短期的には労働意欲はなくなるが、もらうことに慣れてしまうと、逆に何もしないことに耐えられなくなるはすだ。
意味の感じられない生活を続けることは、人間にとって耐えられないことだ。それは労働することにおいても当てはまるのだが、ただ何もしない生活をするのにも当てはまる。
おそらく、自分の好きなことを極めるようになるだろう。何かを作ったり、人とおしゃべりをしたり、ゲームをしたり……しかし、これらのことを仕事にすることもできるはずだ。ただお金のためだけにやる必要はないというのを除いて。
その他に、代替の労働手段と、もらったお金の使い道の問題(つまりは実効性)がある。
先に、もらったお金の使い道であるが、自分の好きなことが、世間で許容されている趣味ではなく、ギャンブルや風俗といったような趣味に費やされてしまう問題はある。
代替の労働手段についてだが、当然導入のタイミングを誤れば、極端に人手が足りなくなる分野も出てくるだろう。ただ、生きるのに必要な最低限のお金をもらったくらいでなくなる仕事というのは、将来的には無くなったほうが賢明なのではないだろうか。ブラック企業や、低い生産性のまま行われてある仕事などだ。
もちろん、賃金は労働者の需要の観点だけでなく、その労働で生み出せる富の量、すなわち供給の観点でも決まっているから、一概に賃金の低い仕事がなくなるべきだとは思わない。
また、AI技術が進んで、たくさんの仕事が代替されるとしても、意外にも賃金の高い職種から代替されていくはずだ。なぜならまだAIの導入コストは高く、それに見合った労働でないと置き換える意味がないからだ。だから多くの工場で、同じ動作の作業を時給1000円のバイトにやらせるのだ。
介護などの、生産性を上げるのが難しいが、人間が行うことが望ましい仕事については難しいところがある。利用者の料金負担を増やすか、一部だけAIに代替させて、介護士の負担を減らすことを中心とするか、そのあたりを考えていくしかないかもしれない。
少子高齢化、生産年齢人口の減少で生産性を向上させ、GDPを維持するためにAI技術の導入は進むだろう(GDPを維持する必要性についての是非は置いておく)。それには諸問題があるから、解決する手段としてベーシックインカムが存在する。
もちろん社会の仕組みや法制度が整ってない現在にいきなり導入するのは問題があるが、これらについて十分に議論をした上で、技術や社会情勢の変化に合わせて少しずつ導入するのは必要不可欠ではないかと思う。