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正月の憂鬱

 正月が嫌いだ。

 正月だけでなく、そもそも特別な祝日・祭日が好きではない。
 クリスマスやハロウィン、バレンタインはもちろん、お盆休みも、大きな括りで『夏休み』や『3月〜4月』なども苦手である。

 理由は、いずれも「〇〇しなければならない」という暗黙の強制があるからだ。

 クリスマスでいえば「恋人と過ごさなければならない」「ケーキやチキンを食べなければならない」「イルミネーションを見なければならない」。
 ハロウィンなら「仮装しなければならない」「ガキにお菓子を恵まなければならない」。
 社会人になると、バレンタインの日に職場の女性へのチョコレートの差し入れを忘れると男が下がったような印象を持たれる。
 お盆は帰省しないと放蕩息子呼ばわりされる。
 夏休みは何となく海に行ったり旅行したりしないと何となく損をした気にさせられる。これはゴールデンウィークも同様だ。
 3月4月の歓送迎会は死ぬほど面倒だし、特に卒業シーズンと呼ばれる3月になると世間の仰々しい御涙頂戴ムードに反吐が出る。

 以上に挙げた様々な暗黙の決まり事にそれぞれの場面で背くと、変わり者扱いされるか「逆のことをしていることがカッコいいと思っているイタい奴」と思われる。

 話は若干逸れるが、似たようなものでタチが悪いのはオリンピックやワールドカップだ。スポーツに興味がない人間にとってあれほど苦痛なシーズンはない。各々で日本を応援しないと非国民扱いされるが、真面目に働いて税金払って投票にも行っている俺がオリンピックを観ないだけで何ゆえ非国民扱いされなければならないのか。
 俺が興味がないのはスポーツであって日本に興味がないわけではない。「え!ワールドカップ見てないの!?」じゃあテメェん家の玄関に日章旗でも掲げて毎日君が代でも歌ってろブン殴るぞ馬鹿野郎。


 暗黙の決まり事と呼称したが、誰からも大っぴらに明示されない同調圧力をとても鬱陶しく感じる。

 その最たるものが年末年始、特に正月だ。

 正月の恐ろしいところは、本当にやることがないことだ。つまり、「何もするな」という強烈な圧力を感じる。
 実家に帰ってすることって何だ。ゆっくりすること。ゆっくりすること以外に本当にやることがない。酒飲んで食って寝るくらいしかない。
 紅白や格闘技、正月特番や駅伝などを観る、年越しそばを食べたりお節料理を食べたり雑煮を食べたり、なんてのは若干鬱陶しいが別にそこまで気にならない(無論どれも自分からは絶対にやらない)。
 初詣や親戚への挨拶というイベントもだいぶうざったいが、まぁクリスマス等よりは個人に選択権があるから別に良い。
 しかし、「ゆっくりする」を強制させられることほど苦痛なものはない。
 閉まっている店は閉まっているし、開いているショッピングモールはバカみたいに混んでいる。正月セールや福袋に行列が出来ていて、普通に服を買ったり飯食ったりするのも一苦労だ。
 外は何だかいつもより殺風景で活気がない。みんな家でゆっくりしているからだ。
 普段毎日を忙殺してうんざりしているくせに、いざ「休め」と言われるとどうしていいかわからない。目覚ましなしで起きるのは素晴らしいが、本当に何もしないとやっぱり損をした気になる。
 正月に旅行。なるほど。絶対どこも混んでる。ショッピングモールの二の舞だ。
 誰かと飲みに行く。「あけましておめでとう」から各々が昨年を振り返って新年の抱負を語るまでで30分かかる。これが久々に会う地元の友達だったら互いの近況報告と思い出話でプラス1時間だ。もうラストオーダーじゃねぇか。

 ゆっくりするなんて強制するもんじゃない。
 俺がこの世で最も苦手なこと。それはまさしく「ゆっくりすること」だからだ。

 (それ俺個人の問題なんじゃねぇか)

 とにかく、三ヶ日が終わって本当に清々している。やっと日常が戻ってくる。もうゆっくりするのはこりごりだ。
 4日は有給を取ったので、明日から仕事だ。

 あーあ。

 休みてーな。
 

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