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おばあさんとヨガ

平和な日々と新たな挑戦
手術の日取りが決まって以来、おばあさんはなぜか妙に晴れやかになった。『痛くなくなってきたなあ』なんて嫌味を言うこともあるが、キッチンで張り切って料理をしたり、遠出したり。腫れがぶり返すのもお構いなしだ。どうだ! やっぱり病院いってよかったじゃん! と私も胸をなでおろした。
そんなおばあさんから、ある日こんなリクエストが飛び出した。
「ヨガをやってみたいのさ」
え、ヨガ? 年寄りなんだから太極拳っしょ。それに年寄りサークルに参加したらいいじゃん。などと偏見にみちみちたことを答えたんだけど、おばあさんは「なんも、ヨガだおん。かっこいいもん」と譲らない。前々からあのシュッとした感じに憧れていたらしい。今までは後回しにしてきたけれど、「死ぬ前に一度、ヨガなるものをせんとす」という心境のようだ。

二人で始めた「キママヨガ」 
ヨガに必要なのは何?ヨガマット?ヨガブロック? まずグッズを、となった私におばあさんは、「なんもなんも、ふらふらってせればいいんだよ」と、どうやら上半身さえそれっぽければ満足らしい。幸いYouTubeにヨガの動画がたくさんあるので、それを流しながら二人で見よう見まねで始めることにした。やっても見てるだけでもどっちでもオッケー。題してキママヨガだ。
おばあさんは身体がぐらつきながらも、画面を見て「ピーン」と腕を空に伸ばす。
「どんだ?どんだ?」と目をキラキラさせて聞いてくるので、「すごいよ、そんな年なのに、姿勢もしっかりしてて!」と答える。自分もやってみるが、これが意外と難しい。太り気味の私より、痩せたおばあさんの方がポーズがきれいに決まっているのがムカつく。私のふらふらをみて、おばあさんはドヤ顔だ。
太陽のポーズから戦士のポーズらしいものまで、おばあさんは次々と挑戦し、「ヨガだヨガだ!」と喜ぶ。その姿を見ていると、おかしいんだか、泣けてくるんだか。

朝の光の中で
それ以来、私たちは毎朝ヨガのYouTubeを流して、見よう見まねでポーズをとるようになった。正直、ヨガに興味はあっても一人では全然続けられなかったのに、今では毎日欠かさずやっている。だって映像を見て真似するだけなんだもの。
おばあさんは嬉しそうに腕を伸ばし、ポーズを決める。それを見ると、なんだか負けたくなくて、私も腕を伸ばす。
「ほら、あんたの腕曲がってるよ!」
「いやいや、おばあさんこそ!」
そんなやりとりをしながら、笑い合う。朝日の中で同じように腕を伸ばしながら。

動く身体。それを誰かといっしょに喜ぶこと。
いつかこの朝を、なつかしく思い出す日がくるだろう。そう思える、平和な朝だった。

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