英語は何歳から?日本語教師の外国語教育
小学校での英語の授業が始まり、グローバル社会の中で生きるこれからの子供のことを考えると、英語はますます欠かせないものになるんだと思います。
日本語教師をしていると保護者の方から「英語学習は早ければ早いほどいい」とか「幼稚園からインターに入れるべきか」とかいうような、いわゆるバイリンガル教育について耳にすることがあります。
正直、僕はあまりに早い英語教育には消極的です。今回はその理由も含め、日本語教師から見たバイリンガル教育についてです!
1)英語教育は早ければ早いほどいい!?
バイリンガルを育てる時期は早ければ早いほどいいように巷では言われていますが、果たしてそうなのでしょうか。僕はそう思いません。というよりそう思えません。悲しい例をたくさん見てきたからです。
僕がブラジルの小中学校で勤務していたとき、日系の方で日本とブラジルを行き来する方が少なくありませんでした。いわゆる「デカセギ」です。このデカセギの方の中には、日本に定住し日本で子育てをする家庭、ブラジルと日本とを行き来する家庭、一定期間だけ日本で過ごし、ブラジルに戻って生活を整える家庭がありました。そのいずれの家庭も、言語習得には本当に苦労していましたし、セミリンガル(両言語とも中途半端)に終わってしまう子も多く見てきました。
日本に定住している外国人子弟の課題については昨今様々な議論がなされています。日本語の習得は簡単にはいかないのが現状で、中にはドロップアウトしてしまう児童も少なくありません。未知の言語環境はストレスがかかるもので、外国人児童は少しずつ時間をかけて日本語を習得していきます。
これと同じことが日本の英語教育でも起こっています。結局、何歳から始めるべきということは様々な説がある中ではっきりしていません。逆に、バイリンガル教育を失敗したときのリスクの方が大きいと考えています。
幼少期は言語が非常に発達する時期です。なれない英語を頑張るのもいいですが、それよりたくさん話すことの方が、言語力の向上につながることが言われています2)。
2)母国語で作文が書けない人は外国語でも書けない。
日本語学校では様々な国から、様々な学生が学んでいます。お国柄や個性が混ざり合って日本語の習得にそれぞれ色をつけているのですが、共通して言えるのが「母語でうまく話せない、書けない学生は、日本語でもうまく話せない、書けない」ということです。同時に「母語でしっかりと言語運用できる学生は、日本語の習得も速い」ということが言えます。
いろんな国の言語の先生とお話しすると、これは日本語に限らず、どの国の言葉にも共通していることだとわかります。まずは、どの言語でもいいから母語をしっかり身につけることだと思います。
3)大人からでも十分外国語は習得できる。
子供のうちに英語を習得しないと身につかないのではないか。と不安に思われる方もいらっしゃると思います。そこで「発音」「習得(話す力)」の2点についてお話しします。
発音について
今や英語は世界言語です。外国人が話す英語は世界中に溢れており、それぞれの国の訛りのある英語が当たり前になっています。当然、発音がいいに越したことはありませんが、日本人発音でも通じればいいので、ネイティブのようである必要は全くありません。
話す力について
これも、大人になってからでも問題ありません。中学から勉強して話せるようにならないのは、学習方法が間違っているからであって、適切な方法と時間をしっかりかければ話せるようになります。
事実、僕らのアリ窓(オンライン教室)の生徒には英語大嫌いの状態から1年で英検2級レベルまで上達した生徒も普通にいますし、日本語学校では、学生は基本的に18歳以上です。「こんにちは」も分からない学生もいます。それでも、しっかり勉強すれば日本語でアルバイトをしたり、友達を作ったり、2年後には日本の大学や専門学校に進学していきます。成人してからでも全く問題ありません。単に「大人になると、そこまで言語に時間がかけられなくなる」という意味くらいだと捉えるといいと思います。
流暢じゃなくていい
日本のAmazonでは、すでにオペレーターの多くが外国の方です。流暢じゃなくてもしっかり対応してくれれば問題ありません。外国語でコミュニケーションを取るのにネイティブになる必要はありません。
5) やっていて楽しいなら、英語をやるべし!
結論、一日本語教師として、焦って英語教育を始める必要はないと思います。子供がその英語教室が楽しいとか、やりたいというなら、ぜひやったらいいでしょう。週に一回程度であれば、英語教室に通っても通わなくても、そんなに影響はしません。
家庭の事情があってバイリンガル教育が必要な場合は、その子をしっかり見てあげてください。どうしても、モノリンガル(1言語話者)の子供と比べると言語能力は下がりますが、ポジティブに両言語話せることに注目し、子供のペースで伸ばしてあげることで、環境と相まって自然と育っていきます。
最後に、僕が出会ったある子供の話です。彼は日本語と両親の母語のバイリンガルでした。ふと、日本語が同年代に比べ少し苦手なように感じたので、どちらが思いっきり自分の感情を話せるか聞いたところ、「それは、どちらも話せない」と苦笑いしていました。僕は彼の表情が忘れられません。思いっきり喧嘩できる言語を持たないことを意味しています。
国際社会になればこそ、言語力を丁寧につけていくべきだと思っています。
<参考文献>
1) 神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会 編, The Effects of Learning a Foreign Language on Cognitive Development : a Preliminary Study on Children in a Japanese-English Kindergarten, 1998
2)田浦 秀幸,公益財団法人私立大学退職金財団, 避けるべきは「セミリンガル」。間違いだらけの語学教育, https://www.shidai-tai.or.jp/topics_detail8/id=1117
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?