ドライフラワー (II)
彼は優しかった。
『ひとりになりたいんだ』
でも私は信じなかった。わかっていたから。
彼はそのあと、
すごく躊躇いながら、自分を責めながら、
『...冷めちゃったんだ』 と言った。
やっぱり。
私が可愛くないから?背が小さいから?
どうしたら引き止められるんだろう。今までは筋道立てた私の主張を彼は受け入れてくれたのに、「冷めた」という気持ちはなんて残酷なのだろう。その感情の壁を論理は越えられない。
「別れたくない」と泣く自分は今までで1番素直で滑稽だった。もっと前から素直になればよかったと今更ながらに思う。
でも結局、彼の気持ちを変えることはできなかった。
今思えば彼に対する私の態度は反省するべき点だらけで、反対に私も彼の言葉で何度も傷つき、泣いた。だけど好きだった。
恋は盲目なんて言葉は馬鹿馬鹿しくて嫌いだったけれど、本当は私も盲目的だった。何よりも、自分に対して。
私が好きだったのは彼であると同時に、彼のことを好いている自分だった。彼がいたおかげで自分に自信が持てた気がしていたけれど、本当は彼を好いているという事実に自信を持っていただけだった。
つまり今、私は空っぽで、実はずっと前から、私は空っぽだった。
一緒に見た海も花火も、一緒に泣いた映画も本も、記憶は色褪せてしまうだろう。でも、褪せた後の淡い色で、私を色付けてくれると思う。空っぽの自分に意味を与えてくれると思う。
だから、別れにも意味があると、思うことにした。
だけど今はもう少しだけ、片思いさせてほしい。