見出し画像

次のスポーツマーケを考えるヒント。「日本は何故アクティベーション予算が少ないのか」


大坂なおみ選手の年収が、
女子アスリート史上最高額を更新(40億円超)。
その多くは企業のスポンサードによるもの。

凄まじいなと思いつつ、
ふと先日別のニュースで見た「日本はスポンサーアクティベーション予算が非常に少ない」という事を思い出しました。
(時間があるし)ちょうどいい機会と思い、日本がなぜが少ないのか、
つらつらとnoteすることに。


まず「アクティベーション」とは?

スポーツマーケティングにおける「アクティベーション」の意味ですが、

●スポンサーとしての権利を活用して企業が行う活動全般。

の事を指します。文字にしてもわかりづらい。

実際の使われ方としては、昔からある看板掲出のようなオーセンティックなスポンサーメリットのみならず、権利を活用したプロモーション全般を指す言葉かなと。この活動に使われる費用が「アクティベーション費」と呼ばれ、協賛費とは分けて語られます。

※協賛費はコンテンツホルダーに支払われますが、アクティベーション費は権利活用をしたプロモーション全般なので、必ずしもコンテンツホルダーに支払われるものでは無いです。

ここ数年でスポーツマーケ従事者以外にも一般的に使われる言葉になってきました。

もうちょっとアクティベーションについて噛み砕くと、
協賛費についてくる画一的なスポンサーメリットだけでは、多様なターゲットや複雑化したマーケティング課題を解決する事が出来なくなってきました。
そこで、スポンサーとして得た権利を活用して効果的なプロモーション活動を実施し、商品やサービス、ブランド等をアクティベート(活性化)させるという事だと僕は認識してます。

本タイトルにある「日本は何故アクティベーション予算が少ないのか」という事について、実はGoogleで検索しても大してヒットしません。また広告やイベントを生業にしている人でも、明確な解を持っている人って実はあまり多く無い気がしてます。
その理由の1つは、あまりにもスポーツというコンテンツは範囲が広く、統一的な見解がしづらいという点が挙げられます。
したがって、本noteの内容も、人によっては違う考えがあるという事をご承知置きくださいませ。


日本のアクティベーション費用は?

スポーツへの協賛費は国内でも年間数億円はざらですが、
国内のスポンサー各社は、アクティベーション費用には平均で協賛金の4割しか費消していなかったという調査があります。
(場合によっては予算は協賛費のみで、それ以外は予算組みが一切されていないという事もままあり)
一方で、海外ではアクティベーション費用が協賛金の2.2倍という調査が。かなりの違い。

ちなみに、世界で最もスポーツマーケティングに積極的な企業の一つと言われているCoca-cola社は、協賛金の5倍のアクティベーション費用を常に投資しているそうです。
それだけのアクティベーション費を使わないと、協賛メリットを活用できず意味が無いと。

Coca-cola渡邊さん曰く、スポーツマーケティングは投資。あくまでビジネス。一方で日本企業の多くは協賛費を拠出するという事が目的になっている、と。
これは確かに、私もこれまで広告会社やスポーツコンテンツホルダーに在籍してきて、多く目にしてきました。

日本におけるスポーツへのスポンサードは、「支援」と呼ばれたり「社会貢献の一環」と思われがちです。
もちろん本当にそういうケースもありますが、もし全てがそうだとしたら、もはやマーケティングと呼べないですし、これから先のスポーツマーケティングは伸長しないはず。


では、日本は何故アクティベーション予算が少ない?

やっと本題ですが、では一体なぜ少ないのか?理由をいくつか挙げてみます。(①~⑥)
「昔からそうだから」「お国柄」という事で終わらせてしまうのでは無く、
もっと具体的に問題点を抽出し、把握し、これからのスポーツマーケティングを考えるヒントになればと。

①タニマチ文化
日本は昔からアクティベーション予算という考えがありませんでした。(先に述べたように、この言葉が浸透してきたのは広告業界ですら割と最近)。古くは大相撲のタニマチ文化から日本のスポーツ協賛は今に至っていると僕は思っています。
要は営利目的が好まれ無かった。場合によってはスポーツでお金儲けとはけしからんという人もまだいます。
支援やボランティア的な位置づけだったりして、これを少し前からはCSRや地域貢献と言ったりもしていますが。
そんな文化背景があるので、アクティベーション費用を捻出するという考えが無いんですね。これだと色々よくない。

支援という意味のスポンサーだと、企業の業績が悪くなったり、もしくは他にマーケティング予算を投資したいとなった場合一番に切られる部分になってしまいます。つまりビジネスで無いから、等価交換が成り立っていないから。またその場合スポンサードされる側のコンテンツホルダーも努力を怠りやすいという事もよく起きているように思います。

②バーター
これは例えば、

●競技備品メーカーが100万円でとあるスポーツ大会にスポンサード。

●一方で大会主催者は、大会に必要な競技備品をそのメーカーから購入。

という所謂お金がイッテコイになっているケースです。
これは割とよくあります。
この場合ほとんどアクティべーション実施は無いです。
こういうスポンサードをする企業ほど「費用対効果が無いと追加予算は…」と言う事があるのですが、このイッテコイは費用対効果があるのでしょうか?といつも思います。
スポーツマーケでは無く、例えばシンプルにその協賛費を別のメディア枠へ費用投下したほうが良いのでは?と思う事がよくあります。

③目的外メリットがデフォルトセット

日本のスポーツ大会、もしくはスポーツチームへの協賛は、協賛費の中に実は色々スポンサーメリットが込々になっている事があります。
コンテンツホルダー側は大会装飾物や告知物の費用を捻出する為、
もしくはお得感を演出する為にスポンサーメリットを多く提示するのです。

この込々によってそもそも協賛金が割高になっていたり、あるいは込々でぱっと見スポンサー側は満足感を得てしまったり、
という事でアクティべーション費にまで予算が回らなくなってしまいます。

よくある込々メリットは、
大会会場に看板設置。ラストマイルにのぼり設置。選手ユニフォームへロゴ掲出。「●社は●大会を応援しています」という文言やロゴなどのプロパティ使用権。など。
※これらのメリットがNGという訳ではありません

④マスメディア露出ありき
日本の野球やサッカー、ゴルフなどスポーツは、マスメディアとくにTVの露出枠がセットになっているケースがあります。
(もちろん別のケースもありますが)

コンテンツホルダーとともにスポンサー枠を販売する広告会社としてはその方が売り易いですし、売上げ金額も大きくなるからです。

そうなると、スポンサーはメディア露出のみで目的達成としてしまったり、そもそもメディアが含まれている分協賛費が高額な為、アクティベーション費まで捻出が不可能となってしまいます。
昨今徐々にですがそのTVの影響力は小さくなってきましたが、無くなったわけではもちろんありません。

アメリカのリサーチ会社であるIEG社の2018年の調査によると、
アメリカのスポンサー企業の98%はアクティベーションでSNSを活用しており、TVなどオーセンティックな広告活用は56%と半数程度にとどまっていました。
現在のコンシューマーをターゲットにするにあたって、果たしてTVがベストの選択肢なのかはもはやわかりません。

⑤企画性が無い
これは自戒の念も込めて書きますが、
広告会社もしくはコンテンツホルダーが企画性や独自性が無く、

数多あるスポンサーらに伝統的な看板などのメニューのみ(※看板が悪いと言っている訳では決して無いです)の提案に留まっているというケースがあります。
そうなるともちろんアクティベーションを考えるに至らず。看板へのロゴ掲出で終わります。

⑥スポンサー側も想像しない。
前項とニアリーですが、
提案されない事にはアクションを起こさないというケースもあるかと思っています。

ニールセンスポーツジャパン本庄さんがある記事の中で「スポンサーをする目的が不明瞭な企業がある」と指摘していました。
つまるところスポンサー企業はビジネス目的が必ずあるわけで、それを達成するために協賛という選択をしたはずです。
スポンサーらはそれを踏まえた上でアクティベーションを検討しないと、安くないお金を有効活用する事ができません。


これからのスポーツコンテンツとの向き合い

ここまでで「日本は何故アクティベーション予算が少ないのか」という点について問題点をつらつら書きました。
それを踏まえて、偉そうにもこれからのスポーツコンテンツとの向き合い方を、下記に2つ記します。

1つ目は、双方がビジネス意識をもって、目的&KPIを持つ。
双方とはコンテンツホルダーならびにスポンサー。マーケティングというか仕事をするに当たって至極当然の事を書いてますが、
ことスポーツマーケティングではこの根本的が事が結構できていない気がします。
先述した問題点に加えて、費用対効果を予測する事、測る事が難しいという事も要因として言えるかと。
というのも、スポーツコンテンツは競技、規模、レベルが様々あり、
またそのアクティベーション方法はおよそ考えられる事は何でも有りだからです。

とはいえ、今後のスポーツマーケ、スポーツ業界が振興していくには、
しっかりとしたビジネス意識を双方が持つべきで、
費用対効果なども、例えば無理くりでもノーム値を溜めるなど基準を作っていくしかない。前述のCoca-cola社などは独自の指標があるようです。

2つ目は、スポーツコンテンツの美化しすぎをやめる。
言葉を選ばず言うと、日本では、スポーツコンテンツを美化し過ぎていると思っています。
教育的位置づけ。真面目なもの。金儲けではない。などなど。
個人的には、もっとビジネスライクに、
そのスポーツや、アスリートを判断してもいいと思ってます。
(当然ですが、雑に扱おう、という事ではありません)
TVCMキャラクターだって、人気が無くなれば降板となる。
メディアだって、当然効果が無ければすぐ他のメディアの利用を検討する。
これくらいシンプルに割り切って考えれば、もっとスポーツコンテンツの利用や提案は増えていくし、
コンテンツホルダーも「“支援”をお願いします」と言うばかりでなく、自分たちのスポーツや大会などのコンテンツはどのようなスポンサーにフィットするのかという事をもっと考えていくのではと思うのです。
(※めちゃくちゃ考えている人もいます)。
でなければ、企業にスポンサードを要求するのは止めて、助成金や寄付金だけを頑張って募るべきかと。


おしまいに

スポーツには他のコンテンツに無い魅力があります。
その魅力は、言葉にするのが少し難しいのですが、あえて言うならば、

常識を超えたフィジカルやテクニックを目の当たりにすると、
人は興奮する、熱中する、感動する。そしてそこにはファンがいる。
それらは人間の本能に訴えかける。そして人は、その域までにどれほどの努力を積み重ねたのかという尊敬と憧憬の念を抱く。

というところだと思います。
通常、広告の企画で感情を動かすって並大抵ではできませんが、
もはやスポーツはそのコンテンツのみで動かせます。
この感情を揺り動かすコンテンツを、
使わない手は無いなと。


今回は以上です!長々となりました。

これからもマーケティング、スポーツ、たまにDIYについて書いていきますので、よければTwitterから色々みなさんのご意見や知見を交換させてください。

Twitterアカウント: https://twitter.com/complanner0619


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?