見出し画像

【ソロス物語 第8章】世界的な混乱と変革の渦中で

2019年、世界は未知の危機に直面していた。新型コロナウイルスの流行により、国境を越えてパンデミックが広がり、経済、社会、そして政治が激変する時代が訪れた。ソロスは、この混乱の中で「開かれた社会」を守るべく行動を開始し、またしてもドナルド・トランプと激しく対立する運命にあった。

新型コロナの蔓延

2020年初頭、世界はこれまで経験したことのない危機に直面していた。未知の新型コロナウイルスが拡大し始めると、街は静まり返り、国境は閉ざされ、人々は自宅に閉じこもり、社会全体が凍りついたかのようだった。いつもなら賑わうニューヨークのタイムズスクエアも、シドニーのオペラハウスも、あるいはロンドンのピカデリー・サーカスも、見渡す限り人影が消え、世界中の都市がゴーストタウンと化していった。

政府は次々と非常事態宣言を発令し、国民の行動を制限する厳しい措置が講じられた。飲食店や小売店、娯楽施設は軒並み閉鎖され、職場が消え、失業率は急増。経済活動が急停止し、グローバル経済は一瞬で瓦解し始めた。医療現場は感染者で溢れ、医師や看護師が防護服に身を包みながら必死に対応にあたる姿がニュースに映し出され、人々はテレビ越しに混乱と恐怖を見守るしかなかった。

ソロスの懸念と警鐘

ジョージ・ソロスは、この混乱の中で危機感を募らせていた。彼はこのパンデミックを、単なる感染症の蔓延ではなく、民主主義そのものを脅かす試練と見なしていた。各国政府が国民の移動や集会を制限し、時には言論の自由までも制限する措置を取る中、ソロスは「人権と自由」がパンデミックの影に隠されて奪われるのではないかという懸念を抱いた。

特に、アメリカでトランプ政権が感染対策を軽視し、情報の不透明性や分断を助長する姿勢を見せたことで、アメリカ社会には激しい不安と混乱が広がっていった。トランプはウイルスの脅威を矮小化し、マスクの着用やソーシャルディスタンスの重要性を軽視する発言を繰り返した。情報は断片的で混乱を招き、国民はますます政府への信頼を失っていった。

ソロスはアメリカだけでなく世界中の国々に対して、民主主義を守るための支援を急ぐ必要を感じていた。彼はオープン・ソサエティ財団を通じて、国内外で情報の透明性を高め、人権と自由を擁護するための活動資金を提供し始めた。この未曾有の危機にあって、ソロスは今こそ「開かれた社会」の価値を守るべきだと確信していた。

2020年大統領選とバイデン擁立

2020年、大統領選が近づく中、ソロスは「開かれた社会」を推進する次のリーダーとして、ジョー・バイデンを支持する決意を固めた。バイデンは、ソロスの目指す多様性や平等の理念を掲げ、アメリカを再び安定と連帯の方向へ導く候補者と見なされていた。ソロスはバイデン陣営に多額の資金を提供し、選挙運動を通じてトランプの再選阻止に全力を注いだ。

バイデン陣営の支援者たちは、ソロスからの影響を受けて全国で選挙活動を展開し、アメリカ全土で広がる社会運動の一環としてトランプ批判を強めていった。ソロスは、トランプがパンデミックを軽視し、社会を分断し続ける存在であると強調し、バイデンこそがアメリカを再建するための希望だと国民に訴えた。

BLM運動と社会的変革の波

また、2020年には「Black Lives Matter(BLM)」運動が、警察の暴力や人種差別に対する抗議としてアメリカ中で広がり、アメリカ社会の変革の波となっていた。ソロスはBLM運動を支援するために多額の資金を提供し、抗議活動やコミュニティ支援に対する支援を行った。彼は、アメリカに根強く残る人種差別問題を解決するためには、法的・社会的改革が不可欠だと考えていた。

一方で、トランプはBLM運動に対して強硬な姿勢を取り、警察や治安部隊を動員して抗議活動の鎮圧に当たった。ソロスにとってトランプの行動は、「開かれた社会」、に逆行するものであり、ますますトランプとの対立が深まる結果となった。

2020年選挙結果、ソロスの勝利

2020年11月、大統領選の結果、ジョー・バイデンがトランプを破り、第46代アメリカ大統領に選出された。ソロスにとって、バイデンの勝利は「開かれた社会」の理念を再び前進させる大きな一歩だった。彼は自分の影響力が再びアメリカを正しい方向へ導いたことを確信し、トランプの再選阻止に成功したことを密かに安堵していた。

選挙結果への反発と新たな対立の種

しかし、トランプは敗北を認めず、「選挙は不正に操作された」と主張し、多くの支持者がその言葉に同調した。共和党側からは、次のような不正の疑惑が挙げられ、結果に対する抗議活動が全土で巻き起こった。

共和党が指摘した不正には、まず郵便投票に関する問題があった。コロナ禍により大幅に増加した郵便投票は、投票用紙の管理が行き届かず、複数回の投票や不正な投票が行われた可能性があるとされていた。郵便投票の集計が遅れ、開票作業に疑惑を抱かせる形でバイデンが勝利する州が増えたことも、不正を疑わせる要因となった。

また、一部の州では、共和党の立会人が開票作業を監視することが許されなかったり、十分な距離を置かれたりしたとされ、開票プロセスが透明性を欠いていたと指摘された。さらに、集計機器を製造した企業に対する不信感も浮上し、特に投票集計ソフトウェアが不正操作された可能性があるとトランプ陣営は主張した。

加えて、選挙当日に未成年者や死者の名前を使用した不正な投票があったという疑惑も浮上し、特定の州における集計結果に不審を抱かせた。トランプ陣営はこれらの問題を根拠に、選挙結果を覆すべく法廷闘争を繰り広げたが、大半の訴訟は証拠不十分として却下された。

このように不正の疑惑が取り沙汰される中、トランプ支持者の中には選挙結果を受け入れられない者も多く、こうして2021年1月6日、ワシントンD.C.の連邦議会議事堂がトランプ支持者によって襲撃される事態が発生。アメリカの社会分断はさらに深まり、トランプとその支持層は次の機会を伺うようになった。

ソロスはこの動きを危険視していた。バイデン政権の下でアメリカを安定させるには、根深い分断をどう解決するかが不可欠だった。彼は次の戦いに備えるべく、さらなる支援活動を準備しつつ、トランプの復権を阻止するための戦略を考え始めた。


いいなと思ったら応援しよう!