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続ベストの尽くし方を考える ~自分なりのベストを少し引き上げてみるために~
以前に以下のような記事をしたためたことがあります。
しかし、ここでひとつ疑問が湧くかもしれません。
「今のベストを尽くすだけだと、自分の成長や成果の質はいつまで経っても変わらないのでは?」
そこで、今の自分なりに改めて「ベストを尽くす」ことについて探求してみました。
ぜひご参考にいただければと思います。
まず根本を分解し整理してみると、こんなところになりました。
知識と経験の量を増やし、選択肢を広げながら判断の質を上げていくプロセスです。私はこれにより、私たちの「ベスト」の水準そのものを高めることができるのではと考えてみました。
意図的な練習(Deliberate Practice)が示す学習の本質
この「ベストの水準を高める」方法を、学術的・理論的に裏づけてくれるのが、フロリダ州立大学の心理学者・故アンダース・エリクソンの提唱した「意図的な練習(Deliberate Practice)」です。
エリクソンは、音楽、スポーツ、学問など幅広い分野で卓越したパフォーマンスを発揮する人々を研究し、彼らがどのようにして高い能力を身につけたのかを探究しました。その結果導かれた結論は、特別な才能よりも「正しい方法での、意図的かつ継続的な練習」が重要というものです。
意図的な練習には、以下のようなポイントが含まれていそうです。
適切な目標設定
現在の自分の限界をわずかに超える難易度を設定し、少しずつ難度を上げていく。
フィードバックと修正
練習の中で常にフィードバックを受け取り、自分の弱点を把握して修正していく。
反復と検証
ただ回数をこなすのではなく、毎回の練習で「何がうまくいき、何がうまくいかなかったか」を検証し、次につなげる。
集中した取り組み
漫然と練習するのではなく、集中力を保ち短時間でも質を重視した練習を行う。
このアプローチを踏まえてみると、
「今の自分にとってぎりぎり実現可能な挑戦目標」を設定し、
そこへ向かって反復しながら学び続けることで、
私たちのパフォーマンスは徐々に引き上げられます。
結果的に、単に「今のベスト」を出すだけではなく、
「ベストの水準」そのものを高めることができる気がしてきました。
知識量と経験数がもたらすもの
一般的に、知識とは書籍やインターネットから得られる情報、過去の事例、他者からの学びなど、主に「頭に蓄積されるもの」を指します。
一方、経験とは、実際に自ら行動を起こし、成功や失敗を含む具体的なプロセスを経て得られる「体感的・感覚的」な蓄積です。
意図的な練習理論においても、知識と経験は相互に補完し合う重要な要素とされています。
知識
物事を体系的・論理的に理解するための土台。知識があればあるほど、目の前の課題を多面的に捉えることが可能になる。
経験
自分がどのように行動し、どんな結果が生じたかを通して得られる学び。失敗から得たインサイト(洞察)は、次の行動への大きなヒントになる。
知識と経験の両面が充実すると、私たちが取れる選択肢の数は飛躍的に増えます。選択肢が増えるほど、状況に応じて最適解を引き出せる確率は格段に高くなり、結果としてアウトプットのクオリティも向上しやすくなると思われます。
選択肢の増加と判断STOCK
ここで、「判断STOCK」という言葉を使ってみたいと思います。
これはあまり聞き慣れない表現かもしれません。
というか仮に私なりに作ってみた言葉です。
要するに「どれだけ多くの引き出しを持っているか」を表す概念です。
知識や経験が増えるほど、その引き出しにはさまざまな「成功事例」や「失敗事例」、「理論」や「思考方法」のSTOCK、つまりは在庫が増えていくというイメージです。
多くの判断STOCKを持つ人ほど
状況に合わせて素早く最適な選択を見出せる。
判断STOCKが少ない人は
時間的余裕があっても、「どうすればうまくいくか」の確信が持てず迷いや手戻りが増えやすい。
つまり、知識と経験を積み重ねることで判断STOCKが増え、短い時間でも質の高いベストが出せるようになると言えそうです。
これは「限られた時間の中でも最高のアウトプットを目指す」という前回の記事の主張を、さらに後押ししてくれる要素と考えてもよいのではないでしょうか。
集団知と集団経験の活用
さらに、個人が持つ知識と経験だけでなく、組織やコミュニティが持つ「集団知」や「集団経験」を活用できれば、ベストの水準は一層高まります。意図的な練習理論が個人のスキル成長を促す理論だとすれば、集団知や集団経験はそれを一斉に底上げするプラットフォームと考えられます。
集団知:
多くの人が持っている知恵や情報を統合したもの。個人では到底習得しきれない幅の広さと深みを備えていることが多い。
集団経験:
チームや組織として実際に取り組んだ事例やプロセス。個人の体験では得られないスケールや多角的な視点が含まれる。
こうした集団の知見を活用できると、より短い期間で多くのパターンをシミュレーションでき、失敗のリスクを減らしながら新たなアイデアを実行に移すことが可能になりそうです。
結果として、アウトプットのクオリティが高まり、個人だけでなく組織全体のベスト水準をも引き上げられそうです。
ベストを引き上げる学習プロセス
では、具体的にどのように知識量や経験数を増やし、判断STOCKを拡張していけば良いのでしょうか。ここでは、意図的な練習理論の考え方も踏まえながら、いくつかのポイントを挙げてみたいと思います。
学びのインプットを計画的に増やす
書籍を読む、研修やセミナーに参加するなど、知識を体系的に習得できる機会を定期的に設ける。
仕事とは直接関係ないように思える分野の知識が、新たな視点をもたらすことは少なくありません。
実践を通じて経験を積む(意図的に目標設定する)
小さな挑戦でも良いので、実際に行動を起こす機会を増やす。
ここで重要なのは、自分の限界を少し超える目標を設定し、達成過程を丁寧にフィードバック・修正するという「意図的な練習」の要素を取り入れることが大切です。
行動→失敗→検証→改善のサイクルを回すことで、実践的な経験値が蓄積されていきます。
学びを共有して集団知へ
個人で得た知識・経験を、チームや組織内で共有する。社内SNSや定例会、振り返りミーティングなどの場で、自分が得たインサイトを発信する習慣を持つと効果的。外部のコミュニティや勉強会での発信も視野に入れるとさらに広がりが増します。
他者の成功・失敗事例を積極的に取り入れる
自分だけの経験では限界がある。他者が経験した事例を知識として取り込み、必要に応じて「追体験」できれば、学習効率は格段に上がります。自分の得意ではない分野こそ、他者の成功例や失敗例が大いに参考になるでしょう。
こうしたプロセスを回し続ければ、知識量と経験数が徐々に増え、判断STOCKも豊かになります。
さらに個人で完結させずに組織全体から見ても、限られた時間の中であってもより高いレベルのベストを発揮できるようになるはずだと思うのです。
まとめ ~より高いベストを目指して~
「時間の制約がある中で、今の自分が出せる最高のパフォーマンスを出す」
この考え方は、前回の記事でお伝えしたように非常に重要です。
ですが、そのうえで私たちは、現在の自分が持つ知識や経験をアップデートし続け、判断STOCKを豊かにすることで、ベストの水準そのものを高めることができそうです。
個人の知識量と経験数を増やし、選択肢を広げる。
組織やコミュニティの集団知・集団経験を活用する。
インプットとアウトプットのサイクルを回しながら、失敗も含めた学びを共有する。
そして、意図的な練習理論のエッセンスを取り入れ、「今の自分の限界を少し超える目標」を継続的に設定・達成する。
これらの要素を意識的に積み重ねることで、同じ「ベストを尽くす」という言葉でも、その質とレベルをぐっと引き上げることが可能になると考えられます。
大切なのは、
「まあ、これくらいでいいんじゃないの」
と思い込まず、人が本来持っている「欲」を出し、学びや経験を通じて自分のレベルを更新し続けること。
たとえ短期間では劇的な変化が起きなくても、小さな積み重ねがいつしか大きな進化につながっていくと思うのです。
今はこの瞬間でのベストを尽くす。
そして明日は、今日より少しだけ高いレベルのベストを目指す。
この繰り返しを通じて、私たちは自分の可能性を広げ、より大きな成果を創り出していけるはずです。
そして、その過程をしっかりと振り返り・検証することで、何気ない一歩が意図的な練習につながり、結果として私たち一人ひとりの「ベスト」が更新され続けるのではと、私は思うのです。