会社の部門間格差の解消がもたらす組織開発の妙について
以前こんな記事を書きました。
花形部署と地味部署があると組織マネジメントが複雑になって面倒だという話しです。
組織というのは人の集合体です。そして人というのはどんな理性的に、合理的にと意識してもやはり感情が入り混じるものです。つまり組織というのは人の感情に左右されてしまうものです。となると組織のメンバーが多くなればなるほど、組織の感情もより複雑になってしまうと思われます。
このあたりについてもう少し掘り下げてみようと思います。
部門間格差とは
簡単におさらいします。
会社や業種によって違いはあると思いますが、業務の性質上傍目からみて派手な仕事をする部署もあれば、どうしても地味な仕事をする部署と言うのが存在してしまいます。
傍目にと書いたように、実際にはどんな部署内でも地味な仕事や日の当たりにくい業務があるものですが、対外的にそう見えてしまうということです。
また人気のある職種というのはどうしてもあるもので、その時代のトレンドになるような職種は人気があり希望者も多くなります。一方でトレンドや人気とは無縁でありながら、しかし絶対になくてはならない部署も確実に存在します。
そしてそんなイメージが配属に影響をもたらし、人気部署に配属異動すれば「抜擢」「栄転」と扱われ、逆の場合には「格下げ」「左遷」と見做されることが起こります。
会社によっては敢えてそのような人事をすることもあるとは思いますが、私の場合はそんなことは一切なく、単にその業務に適しているとか、その人のスキルが必要だとか、成長のプロセスとして考えて行います。
なので私の考えからすると、各々の勝手なイメージで配属にとやかく言うのは止めて欲しいなあ、と思っているわけです。
すべての部署が利益につながる
会社での評価というのは、基本的には会社の利益にどれだけ貢献したかという観点で行われるものだと私は考えています。そして会社のあらゆる業務は利益に繋がることで存在しています。
しかし難しくしているのは、利益に直結しているような業務と、様々なプロセスを通してようなく利益に繋がる業務があるということです。これはプロセスというか距離的な意味合いもありますし、時間軸というか直ぐに利益になるものと長期的に繋がるものもあります。
今ある商品を販売して今期の売上や利益をあげる部署は短期的に直結していますが、例えば総務の労務管理や人的サポート、会社の環境整備などは距離的にも時間的にも様々に巡って利益へとたどりつきます。そうするとどうしても縁の下の力持ち的な地味なイメージに見えてしまうというようなことです。
しかし改めて申し上げますが、距離的に時間的に差があるだけですべての業務は利益へと繋がりますし、その価値には差がないということを理解する必要があると思うのです。
この距離感と時間軸についてを可視化する手段として、私はバランススコアカード(BSC)を作成し活用しました。前々回の記事でも触れました。
異なる部署からは見えにくい他部署の業務の利益への繋がりを可視化することで、その業務の意義をしっかりと認識してもらいたいという思いです。また自分がしている業務が実は裏では地味な他部署のサポートによって回っていたり、他部署のお膳立ての上で成り立っていることなどが理解できるように工夫しました。
そうして可視化されて初めて地味な他部署への理解というか有難みを知るきっかけに繋がることもありました。
しかしこれは戦略的な組織変革とか、ティール組織を作るといった高い意識によって行ったわけでは全くありません。
単に部署間の格差、派手部署と地味部署が(知らぬ間に勝手に)生まれてしまい、その扱いの面倒に苦労し困っていた私が、何とか少しでもラクになりたいという思いから取り組んだ成果でした。
この試みによって全てが解消したわけではないですが、一定の効果はあったと感じています。
不本意な異動に対して
私なりには会社にとってだけでなく本人にとっても「良かれ」と思った異動であっても、当事者からすれば不本意だというケースは儘あります。
その業務が好きな場合もあればやり残したことがあるということもあるでしょう。逆に異動先の仕事に魅力を感じないということもあったと思います。
そういう場合はきちんと向き合って話し合い納得してもらうしかないわけです。元の部署への思いのひとつひとつは確かだと思うのですが、異動先の他部署への印象というのは実は結構偏っている場合もあります。今までの自分が直接関与することがなかったとか、その部署の人と話す機会がなかったとか、単によく知らないというケースもあると思います。
そうです。不本意な理由は「よく知らない」というのが大きい場合もあると思うのです。大企業で全国の支社に異動ということであれば自身や家族の生活に影響が大きい。それ故に不本意なのは充分に理解できるので、この論点からは外します。あくまでも中小企業で勤務地も変わらず部署だけが変わるといったケースに限定した話しです。
そんな限定した話では参考にならないと思う方もいらっしゃるとは思うのですが、ここはあくまでも中小企業の雇われ社長だった私が意識低い系の経営を綴る場所なのでご容赦ください。
話を戻しますが、知らないことが理由としてあるのであれば、これはきちんと説明するしかありません。そしてその説明においてBSCの存在はとても有意なツールとなります。言葉ではなく図表なので分かりやすいし部署ごとに細かく業務のフローが示されているので、俯瞰的に捉えられるところが大きいのです。
この存在によって異動に対する心理的な抵抗感をある程度減らすことはできたと思いますし、異動後の業務の理解や習得にも効果的だったのではと思っています。
異動は経験値を増やしたり、新たなスキルや人脈を得られる絶好の機会でもあります。異動したことで改めて自分が元にいた部署の役割や仕事の流れを客観的に観察できる機会にもなります。他部署を経験したことで元の部署に戻った場合、よりその仕事のスキルが上がり、本人にとっても会社にとってもよかったということは多々あります。
そしてその時には、部署間の格差を考えない人が増えてくることによる、格差問題の解決にも繋がっていくことになります。
専門化と複合化
最近では「ジョブ型雇用」といった言葉も一般的になりつつあります。従来のようなゼネラリスト志向よりもスペシャリスト志向が強まっている時代のようです。
すると前述のような異動を繰り返して複合的に仕事を身に付けていくプロセスは好まれなくなるかもしれません。希望する職種に配属されて、その職種の専門性を高めてスペシャリストとして全うしていくことを望む人が増えれば、会社もそうしたニーズに併せていくことも必要なのだと思います。
そのこと自体に反論するとか抵抗するつもりは全くないのですが、そこに偏り過ぎるのも行き過ぎでは、と思っています。
専門性に特化していくことで部署間の格差が広がる懸念もなくはありません。応募が殺到する職種というのは概して花形部署である確率も高いわけで、人気の低い部署というのは地味になりがちです。専門化というのは言い換えれば全体を捉えることよりも、自分の専門に集中することになりますから、異なる職種、部署への関心も薄まり理解が足らなくなることも考えられます。専門化に特化し過ぎた組織の全体マネジメントというのは経営者にとって難易度が高まりそうだなあという怖さを感じてしまいます。
様々な部署や業務を経験することで、複合的に或いは俯瞰的に会社を捉える視点というのはとても大事だと思います。その経験を積み重ねることで、観点も増えますし、情報量もそれをもたらす人脈も増えます。
経験が自分でも想像もしてなかった自らの才能に気付くこともありますし、人との出会いによって見出してもらえるというケースもあります。
複合的にキャリアを重ねる良さというものもあると私は思います。
話が少々広がってしまいました。
部門間格差を失くそうという試み、それは社長である私が自分の感じる面倒くさいを少しでも減らし、少しでもラクできるようにという理由から取り組んだものでした。
しかし結果的に会社の仕組の可視化に繋がり、部署間の相互理解を高めただけでなく、社員のスキルや経験値アップにも繋げることができました。
これはこれで取組みの「妙」だったかなと思っています。