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通販の人材育成、経験と理論から

通信販売の人材育成について、過去の記事で色々と書いてきました。自分自身でも読み直していると、ふと思ったことがあります。それは果たして自分自身はどのように通信販売を学んできたんだろうか、ということです。
そこで今日は自分自身がどのように通信販売のビジネスを学んできたかについて振り返りながら、通信販売人の育成について考えてみたいと思います。

最初に入った会社が偶々通信販売の会社だった

私が新卒で入社した会社の志望動機は美術館や美術展に関わる仕事に就きたいというものでした。そしてその会社は今で言うミュージアムショップの絵葉書や複製画を作って美術館に卸していました。その会社の人事部長によると、上野の西洋美術館や竹橋の近代美術館の常設や各地を巡回する美術展(ピカソ展とか印象派展みたいなもの)のグッズも扱っているので、美術館には入り放題だし、裏側も見られるよ、なんて話に飛びついて入社したのでした。入社後もその業務を担当して、実際に2年間弱はその仕事を専任で担当することができました。その意味では思惑通りではあったのですが、ひとつイメージと異なることがあったのです。

実はその会社、本業が美術工芸品の通信販売の会社だったのです。

美術館のグッズ販売が祖業だったのですが、途中から通信販売に業態転換をし、私が入社したころにはその売上の99%が通販の売上でした。ミュージアムグッズは祖業としての創業者の思い入れで継続していただけというのが実情だったのです。

その後美術展兼務という形で通販の複製画開発担当など通販関連の仕事も任命されることになるのですが、特別通販の学びをすることもなく、なんとなく有名な絵の複製画を仕入れて来るレベルの仕事をしていました。

若いころの話を長々としたためましたが、何が言いたかったかというと、元々通販の仕事を志望していたわけではないということ、通信販売会社に新卒で入社したものの、通信販売のことをほとんど教わることもなく、また学ぶこともないままに転職してしまったということです。

結局通信販売に関わることになる

その転職先が前職になるわけですが、創業したての会社で通信販売を目的として作った会社という訳ではありませんでした。あれこれと新規事業を行ったのですが中々うまく行きません。
このままではまずいということで、苦肉の策として始めたのが健康雑貨の通信販売でした。その時点では、通信販売で行くと決めたわけではなく、まずはテスト的にやってみようというスタンス。
しかしそこから本当の意味での私の通販屋人生が始まりました。

その商品が折込チラシで成功し、その後も別の商品が週刊誌の広告で大当たりしたこともあって現在に至っているのですが、こんな経緯で始めたのできちんと通信販売を学んだ、教えてもらったという認識はありません。

創業者は美術品通販会社の先輩に当たる人で、別の通販会社を立ち上げ成功をした方です。なので通販に対する経験や見識はたくさんあります。しかしいい意味でいうのですが、創業者はあれこれ細かく指示するというよりも、「まずはやってみろ」というタイプです。自分自身で考えて、上手く行けばそれをブラッシュアップし、上手く行かなければ課題を検討して、また自ら次の一手を考えて実行していかなければなりません。おかげで失敗も含めて本当にたくさんの場数を踏ませてもらうことができました。

言い訳?それとも執念?

当時の自分自身で思い出す事と言えば、テストの後の会議でのことです。新商品だったり、既存商品の原稿テストを行なうわけですが、当然すべてが上手く行くわけではありません。期待通りの結果が出ないこと、時に10万部の折込チラシをまいて1件の注文もない、なんてこともあるわけです。
基本的には自分のアイデアで行なっているので、上手く行かなかった後の会議は非常に憂鬱な気持ちになります。会社のお金を溶かした申し訳なさと、自分のアイデアが当たらなかったという自己嫌悪が理由です。
「このままでは出来ない奴と思われる」という焦りにも似た思いが、会議で「言い訳」として爆発します。

・「ここを見誤ったのは確かだが、ここさえ修正すれば今度は上手く行く」

・「逆にこれをやると上手く行かないことが分かったのだから、ノウハウは積めた(失敗したわけではない)」

・「全体としては失敗だったかもしれないが、この部分に限れば可能性は広がった。だからこれは失敗ではない」

正直に言って「言い訳」のオンパレードです。自分が失敗したと思われたくないので、何かひとつ良いところを探し出して、そこに価値があったと言い張っているだけでもあります。

そして良く言っていたセリフがありました。
「これで光が見えました!!」

次に繋がる可能性が広がったと言いたかったわけです。まさに執念でした。そして本当に有難いことに、こうした「言い訳」を寛大に受け止めてくれていたのです。
「光が見えたなら、次はその光で結果をだせよ」
という言葉だったかはさておき、そういうスタンスで場数を踏ませてもらうことができました。

私は「通販はモノは言いようのビジネス」とよく口にしますが、これは広告表現だけでなく、こうした結果分析からも生まれたセリフだったのです。

こうした場数から創業者の経験や知見を吸収し、まさに現場で試行錯誤しながら、自分自身の経験と感覚、そして結果を通して学んだのでした。


しかし後にひとつ大きな問題が起こりました。
後輩社員に対してこのやり方では人材育成は出来ないという事実です。

会社の規模も少しずつ大きくなり、中途採用で後輩や部下が出来てきます。自分の経験を活かして育成を試みたのですが、ほぼ上手く行きませんでした。

理由は、後輩部下の「失敗」とその「言い訳」に対して、創業者のような寛大な心を持てなかったというのが大きかった。

これは私の器の小ささもありますが、その失敗に寛大な態度を示した時に、上司としての私が社長からどう評価されるか不安だったこともあります。失敗しても寛大な態度で許していいのは、いわば社長だけ。社員がそれを言うのはおこがましいのではないかという心理です。

そんなこともあり、場数で経験を積み、「執念の言い訳力」で通販を学ぶという育成法は再現性がまったくないという自分なりの結論に至ったのであります。

理論を学び始める

そこで理論的なものを模索するようになりました。丁度そのころ外資系通販会社出身のアメリカ型通販を実践してこられた通販コンサルとのご縁をいただき、教えてもらえることになりました。そこでようやく通信販売の理論的な裏付けを目にするようになったのです。

データベース、リスト管理、RFM分析といった用語と分析手法はこの時初めて知りました。クリエイティブやオファーといった広告制作の手法も、感覚でなくメソッドのように体系づけられていたことを知ります。
この当時はまだ社員の時代でしたので、社員みんなで体系的な「通信販売学」を学ぶ機会を得られるようになりました。有難いことにアメリカの「DMA」(アメリカダイレクトマーケティング協会)主催のセミナー受講で訪米する機会もいただきました。そこでは通信販売についての様々な単元別のセミナーがあり、理論、分析手法、クリエイティブなどについて講師が教えてくれるという、当時の日本では考えられないような講座が開催されていたのです。

その後常務に昇格し、組織開発や人材育成で大いに悩むことになるのですが、この時に理論的な通信販売学の存在を知っていたことが解決の光だったことに気付くことになります。

もうひとつはマーケティングの学習です。といっても社会人大学院に通う時間はないので、本やセミナーに積極的に参加するようになりました。あれもこれもと行く時間(と予算)はないので、ダイレクトマーケティングに関するものか、再現性に焦点をあてたものを探すようになりました。再現性という観点は人材育成に使えると思ったからです。

そこであるきっかけからブランドマネージャー講座を受講しました。ブランディングがテーマではありますが、それを学ぶ手法として「型」を作り「ステップ」を明確にし、ひとつひとつの問いや課題をつぶしながらプランを実現する「手順」が示されているものでした。

このステップのある「型」は、後に自社用に開発したものを作成し人材育成で用いることになります。

さらにブランドマネージャー講座ではコトラーのマーケティング理論、STP分析、3C、4P、4Cといった理論も学びました。この段階でいまさらそこかよ、と思う方もいらっしゃるとは思いますが、我流で現場でもがいてきた中小企業の担当者というはそんなものだとも思うのです。

理論、再現性、そして人材育成に

これらの分析論やフレームワークを通して気づいたことは、実践の中で実際にやってきたことが言語化されていたということです。別に教わったわけでも、進んで学んだというわけでもなく、実践で失敗や成功を繰り返し、時にもっともらしい言い回しで強情な言い訳をしてきたことが、結構理論として積み上げられてきたロジックと近しかったと感じることができたのです。

我流でやっていたことが、実は学問領域で理論的に言語化されているということは、言い換えれば再現性があるということにもなります。
それになにより、私の経験として社員に教えるよりも、マーケティング理論においてとか、コトラー教授が、と講義した方が聞く方の信頼度も格段に上がります。

これ以降は自社で築いたノウハウを理論や専門用語に寄せてテキストを作るようになりました。そうすれば社員が独自に学ぼうと思った際に専門書や資料を探しやすくなりますし、読んだ時の理解度、納得度も上がると考えたからです。

マーケティング理論とかコトラー教授を入口にして、その理論をベースに通信販売の考え方を学んでいってもらう方が良いというのが、私なりの人材育成ステップの基本となったのです。

理論と現場の手順

自分が教える方になってこの結論になったのですが、振り返ってみて改めて思ったことがあります。自分自身がもう一度学ぶとしたら理論から学ぶか?という問いです。
理論から学べばもっと分かりやすく、もっとスピーディーに学べたかもしれません。

しかし私自身の経験として思うことは、試行錯誤、四苦八苦、暗中模索をしながら、現場で経験を積んで身に付ける手順を選ぶだろうなあ、ということです。

なんとなくですが、結構楽しかったんですよね、試行錯誤が。
だからこそ、その試行錯誤が、理論的なことに結構適合していたということを知ったときの喜びもひとしおだったのかな、なんて思うわけです。

でも誰かに教える、ということを重視するのであれば、
それはもう絶対に、理論の裏付けをした上で育成するという手順をお奨めしたいと思います。

なぜなら、その方が
教える方がラクだからです!


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