【通信販売・私論】通販における人への投資について
近頃、人への投資の重要性が高まってきているようです。
「新しい資本主義」という方針の是非はさておき、企業が人への投資に積極的になるということはポジティブに受け止めています。
とは言っても、実際に何をすれば人への投資となり、人的資本へと繋がり、働く人にとっても、その企業にとっても未来への希望と繋がるのかが見えてこないとリアリティはありません。今回は私がいた通販業界という狭い領域における人への投資について考えてみたいと思います。
人的資本投資について
まずは私自身のためにも言葉の意味のおさらいをしておこうと思います。
従来の人材は「ヒト・モノ・カネ」のひとつとして管理するべき「資源」と考えられてきた。故に人材に投じる教育費はコストとみなされてきた。
しかし現在、人的「資本」として個人がもつ知識、スキル、特性、さらに人が活躍するための従業員エンゲージメントの向上や多彩な人材が活躍できる環境整備、人が働きやすい環境整備に投資することで、組織の持続可能性を高めることで企業価値や競争力を高める取組みが重要と考えられるようになってきている、
というようなことです。
私なりにすごくざっくりというと、企業の人材育成や組織開発、環境整備はコストから、企業の成長や競争力向上のための投資として位置づけましょう。ということだと認識しています。
コストは過去または現在発生している費用ですが、投資は将来利益となって増えていくものです。会社の利益や規模が将来大きくなっていくというのは、社長にとっても会社にとっても、そして(給料や個人スキルとして還元されれば)社員にとっても大いに希望となる話だと思います。
通販会社は何をすればいいのか?
人的投資の具体例として調べてみると、多く見られるのは人材育成・教育訓練や働きやすい環境づくりといった言葉が出てくるのですが、これだけではちょっと抽象的な気がします。
業界知識や業界で必要な専門スキルの研修は既に充分やっている。
働きやすい環境整備やテレワークなどは既に取り組んでいる。
と感じている通販界隈の方も多いと思います。
「もうやっている」のだから「この上何をすればいいのか?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
でもそれでは思考停止で現状維持にしかならないと考える方もいらっしゃると思います。
そこで私なりの、通販人に磨いてほしいスキルとは何か、これを高めれば個人の能力も高まり且つ会社の利益向上にも大きく貢献できる、という事を考えてみたいと思います。
通販会社の種類
一口に通販会社といってもそのビジネススキルは様々です。
その分け方には様々な観点があるかと思いますが、私なりに大きな違いと認識していることがあります。
他社でも買える商品を販売しているか、自社でしか買えない商品を販売しているか。
他社でも買える商品を販売する場合、これは通販に限りませんが価格の安さやサービスの良さで差別化するしかありません。店舗なら地の利という要素がありますが、通販ではそのメリットは意味がありません。ある意味アマゾンや楽天との勝負なので、この領域で成功している中小の通販はないはずです。
基本通販会社は自社オリジナルの商品を開発して販売しています。
もちろんアパレルであればシャツやボトムという大分類であればどこでも販売していますが、こんなデザイン、こんな素材、こんな特徴というところで差別化して他社では買えないオリジナル商品を販売しているという意味です。
そして自社のオリジナリティで競合商品と競争し生き残るかどうか、という商売をしているのが通販会社です。
ひとつ事例を出してみます。
グルコサミンと言えばどの会社をイメージしますか?
おそらく世田谷自然食品をイメージされる方が多いと思います。
細かい年表までは分からないですが、元々グルコサミンは多くの通販会社がそれぞれの特徴を活かしたオリジナル商品を販売していました。
ある頃からサントリーが大々的に広告展開を仕掛けてトップシェアになっていたと思います。
世田谷さんはその意味では後発の位置づけだったと思われます(実際の発売開始はさておき)。しかし商品の独自性、広告手法や細かなサービスで顧客の心をがっちりと掴んで、おそらく今はトップになっているかと思います。
ちなみに世田谷さんはその後も後発ながら青汁や野菜ジュースなど、すでにキューサイやアサヒ緑研、またはカゴメといった有力会社がいるにも関わらず、そのジャンルで売上を伸ばしてきています。
どこでも売っているグルコサミンや青汁、野菜ジュースではなく、
世田谷さんでしか買えない、独自でオリジナルな、そして安売りで勝負するわけでもない、そんな商品開発力と企画力。
そういったスキルの高さが会社の成長に繋がっているのだと思っています。
同業者として、その素晴らしい企画力は大いに尊敬しています。
経営者の才覚もさることながら、社員さんたちがどのような研修を受け、どのように学び、どのようなスキルを磨いているのか?とても気になるところです。
またそうした社員さんたちが、どのような環境で仕事しているのか?その環境づくりはどのような取組みなのか?
これもまた非常に興味深いところです。
独自の社員研修や環境整備などに取り組んでいて、その成果がこうした成果に結びついているのだとすれば、その取組みはまさに人的投資と言えるのだと思います。
私なりに取り組んだこと
私も中小通販会社の社長として、私なりに人的投資を行ってきました。
特に力をいれたのはふたつです。
ひとつ目は文章力の向上です。
通販会社は文字で書かれた言葉でお客様に訴求します。
これは私がいた従来の新聞やDMの紙の通販はもちろん、ネット通販でも変わりません。
参考までにTV通販は人が動いて説明しますので、ちょっと違うところもありますが、話していることを文字起こしした場合は、かなりの確率で文字の通販でも通用することを話しています。その意味ではベースの思考は紙通販に近しいものがあると思っています。
書かれた文章でお客様に訴求するわけですから、当然文章力が必要です。
文章の構成力、語彙力、表現力や読み手のニーズや心理に共感できる想像力などが大事になってきます。
私が特に大事だと思っているのは語彙力です。
同じ意味を伝えるにしても、日本語にはそれを示す単語が複数あります。
何かの商品の仕上がりの良さを表現するときに
「美しい」か「素晴らしい」か「目も覚めるような」か「目が離せない」か「いつまでも触っていたい」か。
他にも無数にあるなかで、この商品をこの文脈でどの表現を使うことが、読み手に一番響くのか?
この選択をする上で基本となるのが語彙力です。どれだけの単語を知っているか、どの単語が最適かを選択する力は充分に文章力のスキルとなります。
通販会社によっては広告制作は制作会社に発注している会社が多いです。自社もそうです。
しかし、それであっても自社の社員が自ら広告の文章を書ける、時には自分で書くという作り方に拘っていました。そして社員にもその文章力を求めてきました。
社員の誰かが書いた原稿の確認をすることは自社のルーティンでしたが、そこで使われている単語でよいと思っても「他の表現はないか?」とか「この単語を使った場合とではどんなニュアンスの違いがありそう?」といったチェックをできるだけいれることで、語彙力を意識してもらう機会にしてきました。
また文章力は広告に関する部門だけでなく、すべての部門、すべての社員にも求めました。社内外、どんな部門でもコミュニケーションは大事です。そしてコミュニケーションを高めるには話力だけでなく、文章でのコミュニケーションも欠かせません。その時に通販で鍛えた文章力はどんな領域でも活用できるスキルになると、私は考えています。
ふたつ目は試算力です。
文章力とは打って変わって計算です。
通販とは商売のジャンルですから、売上、原価、経費からどう利益を出すかを考えなければなりません。
特に新規顧客獲得や定期購入顧客の獲得においては、だいたいが初回は赤字です。その後リピートしてもらったり、違う商品を購入していただくことで利益を作っていくのが一般的です。
となると初回赤字でも、その後どういう購入履歴を作ってくださるかを分析して予測して、1年後にこれだけの利益に繋がります、という計算をします。
この計算力がないと商売は持続しませんから、これらの計算の中から業界的に、或いは自社的に特に大事な計算式の理解とその活用の訓練を重ねていました。
計算式ですからエクセルを使ってフォーマット化すれば誰でも出来るのでは?と思う方もいるかもしれません。
計算という作業だけなら確かにそうなのですが、根本の計算式の意味が分かっていないと、数字の解しか出せないのです。
そこで求めた数字をどのように解釈して、時に数字を入れ替えて何パターンも計算して、その分析を重ねた結果、この試算が一番有効だと提案します、とならなければなりません。
その意味でいえば、計算力というよりも計算で求めた解の分析力と言った方がいいかもしれませんが、やはり元の計算式の意味が分からなければ分析も出来ませんから、そのスキルを高めることを求めました。
ここで出した数字を基に仮説を立て、その仮説が効果的となる広告を先の文章力を使って書き上げる。
その広告でどれだけの人の心が動き、購入したいと思っていただけたかで、それらのスキルの高さが測られる。
そして、自信や反省を通して自らのスキルをさらに高めて次なる企画開発へと向かっていく。
同時にこのサイクルができる環境や風土を社長は作っていく。
これが通販会社の人への投資ではないかと、私は思っています。
そのために具体的にどんな研修をしたのですか?という質問があれば、
それはぜひ個別にご相談ください(笑)