意識低い系経営のススメ 経営の軸はハンドブックづくりで整理した ~意識低い系経営者ができるまで~その7
ハンドブック作りは続く
さて、ハンドブックの制作は前回のような流れで順調に進んでいきました。
当初の見積もりでは50ページくらいのハンドブックだったのですが、段々と内容が増えていき最終的には100ページ以上になってしまいました。
それでも足りなくて後に付属編も50ページほど追加されたほどです。
ハンドブックの写真です。後で差し替えができるようにバインダーにしました。
作っていく過程の話に戻ります。
・自分の考えやメッセージ
・今まで社員から投げかけられてきた質問の数々に対する自分の答え
・自分が考えている課題とそれに対する指針
・会社の未来像
・評価制度の考え方
・キャリアプランについての指針
・会社が歩んできた歴史
これらのことについて、時間の間隔を置きながら文章化して
自らの考えを整理していきます。
先にも書いたように、
結構矛盾していることもあったりして、自分なりに考えをまとめていきます。
一方繰り返し何度も語っていることもあり、
それは自分自身の重要度が非常に高いのだという再認識にもなるわけです。
編集チームの石丸弘さんは、私を焦らせることなくじっくりと丁寧にお付き合い下さり、
私の頭の中を可視化していってくれました。
ライターのSさんの文章は簡潔で分かりやすく、また微妙なニュアンスの言葉選びや言葉遣いを的確に文章に反映させてくれます。
グラフやイラストの使い方についても、かなり注文をお願いしました。
人は文字の羅列よりも、まずはグラフやイラストに目が行きます。
そこで受けた印象によって、
次に文字を読み始めた時、その文章の理解にバイアスがかかるのです。
例えばイラストが明るい印象で、
明るい内容の文章を期待したときに、
実際の文章が厳しい内容になると、
期待が裏切られるので、厳しさをより重く受け止めてしまいます。
厳しい内容にはきちんと厳しさをあらわすイラストやグラフを
明るい内容にそれにふさわしいイラストやグラフを。
これは通販広告の制作と販売で身に染みていたことなので、
こだわりをもって作りました。
これまでの私のスタンスから、
こだわることで、時間がかかり面倒くさくなかったの?
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかしここを適当にすると、
後の運用時の面倒はもっと増えることになります。
紙の印刷なので、パワポのように後から修正というわけには行きません。
この本がある限り、その対応は繰り返されることになりますし、
回収して再印刷の手間とコストは相当です。
編集や文字校正は慎重に丁寧にが必須なのです。
これも紙ベースの通販の経験です。
こうしたやり取りを重ねることで、
ついにハンドブックが完成しました。
ハンドブックの概要
本編は3章構成。
1章 自社のマーケティングの考え方
マーケットの分析
・自社のマーケティング基本方針
・販売実務における考え方
2章 自社の組織について
・組織についての一般論のおさらい
・自社の組織の考え方
3章 社員が求められること
・行動規範
・作りたい社風
・業務方針
付属編は2章構成。
4章 人事評価について
・目的と意義
・内容
・評価する側、される側の心得
・未来の組織図
5章 自社の歴史
・年表
・主な商品や企画の成功例と失敗例
ざっとこんな感じです。
自分が伝えたかったこと、
自分が作りたい会社、
自分が目指す通販の在り方、
そして、私の考え方に行きついた今までの経緯と背景なども記しました。
方針だけを伝えても、
「なぜ、そのなったのか」を伝えておかないと表面的な理解しかできないと考えました。
方針や考え方に疑問が生じる事を避けることはできません。
何人もの社員がいれば、むしろそれが自然です。
なので、このことを前提に
疑問を持つことは否定しないが、「なぜそうなのか」を説明することで、
一定の理だけは受け止めてほしかったのです。
その経緯や背景を知ることで、
生じた疑問のぶつけ方は大きく変わってくることを期待しました。
さらに姑息なことを言うと、
こちらはちゃんとハンドブックで説明していますよね。
そのハンドブックは皆に等しく配布していますよね。
というスタンスでいられます。(実際に口にはしませんが)
だって、その方が経営者の立場で言うと
ラクだから、です。
さらに言うと
「なぜ、そうなったか」に戻って過去を議論するより、
「なら、これからどうするのがよいか」
と未来を議論する方が
私は楽しい!
さて、ハンドブックを作って配布すれば終わりではありません。
配布しただけでは、
多分みんな読まない。。。
なので、ハンドブック研修の時間を作ることにしました。
まずはみんなに一読してもらい、
大事な箇所を私が講師となって座学で講義することにしました。
講義の話し方を練習する
ここで難題がひとつ。
私は人前で話すのが苦手だということ。
話すこと自体はいいですけどね。
話が長くなってしまうのです。
なぜ長くなるかというと、
皆に伝えたいので、同じ内容を言い方を変えて、
たとえ話を変えて何度も繰り返してしまう癖があるのです。
次に、話していてふと思いついたことがあると、直ぐに脱線してしまう。
余計な話をおり交ぜてしまうので、時間は長くなり、大事な論点がボケてしまう。
そんなことがあって、苦手意識があるのですが、
この講義だけはさすがに誰かに任せるわけには行きません。
そこで、講義シナリオを自分用に作成しました。
講義シナリオの中身は秘密です。
マニュアルには時間の目安をきちんと書いて、長くならないようにしました。
さらにホワイトボードにかく図解も、事前にアンチョコを用意しました。
ちなみにこの図解は、
以前の記事でふれたセミナーで講師の先生が使っていたものをアレンジしたもので、
借り物を応用した形になります。(許可を取りました)
そして
手元のマニュアルを読み上げる講義ほどつまらないものはないことは分かっていますので、
はい、何度も練習しました。
もちろん自分で思いが詰まったハンドブックの講義ですから内容は分かっています。
ただ、複数回に分けてすることを想定して、
講義の内容やポイントが変わらないように、大事なところは忘れずにするために
講義の流れを体で覚えることにしたのです。
何度か練習した後で、管理職ひとりにお願いして、ゲネプロもしました。
講義の内容、時間配分など気にしてもらって、感想を聞いたところ上々の評価。
「普段もこれくらい考えて話をしたらいいですよ!」
なんて、余計な、じゃなくて有用な助言もいただきました(笑)。
そして後日、いよいよ研修を実施することができました。
一度の研修で直ぐに会社が変わるわけではありませんが、
それでもひとつ山を超えた実感は持つことができました。
後に社員に聞いたところ、
皆が真っ先に読んだのは第3章の社員が求めらること、だったそうです。
そりゃそうですよね。
このハンドブックを配布して、その後付属編は評価制度の変更に伴い1度修正して差し替えをしています。
その後、そして今はどうなったか?
自分の実感としては、当初の目論見どおり、
「まずはハンドブックを読んでみて」と答えるカードを手にしたことで
精神的にとてもラクになりました。
これが一番大事!
その後新入社員が入社するたびに、
新入社員研修でこの講義をプログラムに入れることで、
社員全員の共通体験とすることができました。
数年たってからのことですが、
社員から自発的に話してくれたことがありました。
「時間が経つにつれて、ハンドブックの内容が段々と理解できるようになりました」
「どうしようかな?と迷うと、まずはハンドブックを目を通す癖がついてますよ」
「自分の部署の方針を決めたりマニュアルを改定するときに、ハンドブックを参照してます」
なんて言葉を聞かせてくれるようになりました。
作った冥利に尽きます!
そして一番嬉しかった言葉。
「大事なことは全部ハンドブックに書いてありますね。配布された時よりも、むしろ今読み返すが増えてます。」
この言葉は有難いことに複数の、しかも各年代の社員たちから聞くことができました。
実際のところ、ハンドブックを作った後は、
かつての経営者としての苦悩に悩まされることは格段に減ったのは確かです。
これを作ったことで、
自分自身が自分の考えについて自信を持てた、
というのも大きかったと思います。
自分の理想や考えと社員の考えのギャップに悩まされた日々から
ようやく抜け出すことができてきました。
その自信が功を奏したのか、ハンドブックを配布した翌年、
創業者にして当時の社長から、私の社長昇格の辞令が発せられることになります。
常務取締役から代表取締役社長として
本当の意味での経営者としての道のりがスタートしました。
この昇格をきっかけに
私はいい意味で
「高い意識」よりも「意識低い系」のラクする経営を実践していくことになります。
次回からは、
ラクして経営がうまくいったポイントなどを記事にまとめていきたいと思います。
まずは、
与太話的なかつ実践的な「高速PDCA学習法」の記事を考えています。
引き続きよろしくお願いいたします。
本記事は基本、毎週水曜日に更新の予定で進めております。
どうぞよろしくお願いします