意識低い系経営のススメ 自分の思いをきちんと伝える ~意識低い系経営者ができるまで~その6
本記事は基本、毎週水曜日に更新の予定で進めております。
どうぞよろしくお願いします。
主語は会社か、それとも私か?
当時社員からたびたび投げかけられていた言葉。
「会社が何を考えるか分からない」
「会社の方向性が分からない」
主語が「私(経営者)」ではなく「会社」になっています。
会社の意思というのが私とは別の何として独立して求められていたのでしょうか。
それとも私に直接問わないという忖度だったのかもしれません。
「個人的な意見としては〇〇だけど、会社としては☆☆となるよね」
的な言い回しも確かにしてました。
しかし「会社が」という言い回しで「分からない」と問われることに、
何か一筋縄でいかないようなものを感じていたのです。
いずれにせよ、社員たちは会社の考えがわからず、その答えを求めていたことは確かです。
当時の私としては、
会社の考えや方向性について話している「つもり」ではありました。
過去の記事にも書きましたが、
今後はひとりひとりと向き合ってきちん話し合って説明しよう試みます。
話し合ってみると、
「そうだったんですね。わかりました!」
となってホッとします。
やっぱ話し合えば分かるんだよな、と実感します。
しかしそうした話し合い(今で言いう1on1かな)をしていると
実際は社員からこんな言葉が聞かれ出しました。
「常務が私に行ったことと違う」
「私にはこう言ってた、そんなことは言わなかった」
「えっー????」となる私。
そう聞こえたのなら、きっとそうだったのでしょうが、
私の本心は違います。
伝えたいことは同じことなんです。
ただ相手の理解や興味に合わせて
説明の順番や話し方、たとえ話を変えていました。
もちろん説明の仕方が悪い、私の表現力が乏しかったのは事実でしょう。
その時の社員を責めるつもりはなく、
ただただ、己のリーダーシップの無さを嘆きました。
拙い表現で、
相手に合わせて言い回しを変えたり、たとえ話を入れ替えたりしていたので、
その辺が上手く伝えられていなかったところはあったと思います。
そもそも自分は、
会社の意思をどのように考えているのか?
どんな会社にしたいのか?どこに向かうのか?
そのあたりを主体的に発信してなかったのも大きい。
「会社は何を考えているのか?」
と聞かれることは、間違ってはいないのでしょうが、
「私は」との間に何か余計な壁があるような違和感、いや怖さを感じていました。
私が目指していたもの
私は、社員から何か聞かれたらそれについて答えるということが多かったので、
聞かれ方で答え方も変わるという側面もあったかもしれません。
どうも相手に合わせてしまうのですね。
別に方向性やビジョン的なものを考えてなかった訳ではないんです。
自分なりには明確にありました。
それを一言で言うと、
「通販という仕事の楽しさを皆にも味わってもらいたい!」
でした。
私にとって通販の仕事は天職だと思っていました。
楽しくて仕方なかった。
仕事という感覚はあまりなく、最高のゲームを遊んでいると言った方がいいくらい。
当時、通販業は今と違ってマイナーな業種でした。
だから通販の仕事の面白さをもっと多くの人に感じてもらいたかったのです。
やってみれば、皆が楽しいと思うはずとすら考えていました。
でも、実際はそんなことはなかったです。
楽しいところもあるけど、楽しくないこともあって、仕事だからちゃんとやりますという
至極当たり前の反応が多かった。
通販の楽しさをもっと分かりやすく伝えなきゃ、
その中で自社がどんな通販をして、どんなお客様を対象に、自社の何を特徴にするのか?
そうしたことをきちんと伝えてないのがいけないのかな、なんて感じ始めていました。
(数年後にこの考えは大きく変わっていくのですが、それ別の機会に)
ハンドブックを作る
そんな時にグループ会社が新入社員向けのマニュアルをパワポで作成し研修で見せているという話を聞きました。
うちにも同様のマニュアルはあるにはあったのですが、参考になるかと見せてもらったのです。
すると、最初に通販の解説と自社の通販が目指すマーケットなどが分かりやすく図解入りで示されていたのです。
「ああ、分かりやすいな!」
というのが率直な感想でした。
通販ではお客様に向けて分かりやすく伝えることにすごく心を割いていたのに、
社員に対しては肝心なことしてないな、と反省しました。
どうやって作ったの?と聞くと
とある専門家に依頼して作ったとのことでした
こちらの伝えたいことを伝えて、パワポで図解やイラスト入りで作成してもらたのだと。
ありゃ、広告の作り方と同じだな、なんてことも思いました。
その人、直ぐに紹介して!とお願いして、早速その専門家の方とお会いすることになりました。
(この方との出会いも、私の経営者人生に大きな影響を与えることになっていきます)
グループ会社のマニュアルはパワポ20pくらいだったと思いますが、
私は本にしようと思いました。
私は活字人間だったので、ハンドブックみたいして、会社のデスクや引き出しにおいてもらって、必要に応じて都度目を通してもらう使われ方をイメージしていました。
(というより、当時の私はパワポなんて使ってなかったし、ITリテラシーの欠片もなく、本以外になんのリアリティも感じられなかったのが真相です)
また、モデルとしたマニュアルにはないことも盛り込みたいと思っていました。
社員から問いかけられる度に悩まされていたこととかを丁寧に説明したい。
言い回しを変えることでブレている思われていたようなことを、
きちんと文章化することで、皆に公平に伝わるようにしたい。
何か聞かれても
「まずはこれを読んでね」
「読んで分からなかったことやはっきりしないところを質問してね」
と答えられるようになれば、
「ラクだ!」
これは私自身がラクになることももちろんですが、
社員にとってもラクになることだと思いました。
社員だって分からないこと、疑問に思うことをイチイチ時間をかけて私に聞くのは面倒なはずです。聞けずにいる人からすれば、そのモヤモヤは本当面倒なことになります。
それが、まずはそのハンドブックを読めば、こちらのメッセージが伝わるとなれば、その方が断然手っ取り早いと思ったのです。
ハンドブックづくりはめちゃくちゃ楽しい
ハンドブック作りは結構時間が掛かりました。
なんだかんだと1年近くかかったと思います。
これだけ時間を掛けたとなると、
やっぱり「大変だったでしょう?」と聞かれることが多いのですが、
私の率直な気持ちは「楽しすぎて、時間が掛かった!」というのが正解です。
ハンドブック作りはこんな風に進められました。
先方の編集チームはその筋の専門家の石丸弘さんと、ライターのSさんのペア。(石丸さんはご本人の承諾を得て実名を記してます)
石丸さんが私に質問して、私がそれに答えていくという、ヒアリングというかインタビューのような感じです。
それを録音しておいて、後日ライターのSさんが文字起こしして文章化してくれます。
文章化されたものを私が確認します。
そしてまた石丸さんから別の質問を受けて私は答えていく。
その録音をSさんが文字起こしして文章化する。
それを半年以上にわたって、だいたい月1くらいのペースで進めて行きました。
予想外のメリット
第3者による文書化には大きなメリットがありました。
ひとつめのメリット、
編集チームのお二人はもともと、うちの会社について詳しいわけでなく、
また通販についての専門家ではないので、こちらの回答も自然と丁寧になります。
その結果大雑把さがなくなり、詳細な説明が文章化されます。
ふたつめのメリット、
いわゆる口述筆記の進め方なのですが、文字起こしと文章化すると編集チームにある気づきが生まれます。
それは、私の言っていることが結構矛盾してるということです。
「今回文字起こししたら、こうなったのですが、前回はこのことについて、このように話されていますね。これって実際はどっちですか?」なんて具合に石丸さんが確認してくれます。
すると私は自ずと考えを深掘りします。で、
私「あれ?おかしいな、どっちだろう?う~ん、これについてはやっぱりこっちですね」
なんて答えることで考えを整理できます。
またこんな回答をする場合もありました。
私「いやいや、これとこれはこういう事なんで、矛盾してないんですよ」
石丸さん「なるほど、だとしたらそう書いた方が分かりやすく読み手も混乱しませんね、直しましょう!」
なんてやり取りが起こって、整理された分かりやすい言葉で新たに文章化されます。
思い返してみれば、こういう深掘りをせずに、思い付きのような言葉で表現するから社員は混乱していたんだなあ、と反省することしきりです。
編集チームは第三者なので、質問や確認するときにも、シンプルに内容について尋ねてくれます。そこにはいい意味で感情はありません。
だから質問されたり矛盾を指摘されても、私は腹が立たないんですね。
これが社員と私だと、何かしらの感情、特にネガティブな感情がくっつくので、話がややこしくなってしまうのですが、この作り方にはそれがない。
むしろ、石丸さんは「それは大変ですね!」とか「すごいですね!」といったポジティブなリアクションをしてくれます。
いわば私の愚痴めいた話に共感してくれたり、逆に感心してくれたりなので、私としては話しているのが楽しくて仕方ない!
クライアントである私に対して「それは社員が怒るのは当然です。あなた間違ってます」なんて言い方は決してしません。
今でいうところの「心理的安全性」に満たされた場となっていったので、ヒアリングは毎回数時間に及びました。私としては「話し足りない!」という気持ちになるのですが、編集チームは「今日の話は次回までに文字にしてきますので、続きはまた来月に聞かせてください」と返してくれるので、来月が待ち遠しい、なんて思いになります。
その間に何かトラブルがあっても、「来月石丸さんに聞いてもらおう」なんて思うと穏やかでいられるので、精神衛生上もとてもよい。
石丸さんとSさんは、さながらカウンセラーのような役割も担ってくれました。
これは当初には全く予想していなかった、だけどすごく意義の高いメリットでした!
ハンドブックづくりが大変ではなく、私にとってはとても楽しく進んでいったというのが、お分かりいただけたのではないかと思います。
その分編集チームのお二人にはご苦労も多かったとは思いますが、そこはプロフェッショナルとしてしっかりと対応いただけたと感謝しています。
長くなったので、今日はこの辺まで。
次回につづきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?