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挫折を語る

本日は、青山学院大学長距離監督を務める原晋氏が、最新刊の『「挫折」というチカラ 人は折れたら折れただけ強くなる』(マガジンハウス新書2022)で語っている「挫折」について、私も考察してみたいと思います。

挫折をバネにして結果を出してきた名将

原晋氏は、長らく低迷していた古豪・青山学院大学の駅伝チームを、学生長距離界屈指の強豪にまで育て上げた名将です。現役時代に箱根駅伝を走った経験もなく(中京大学出身)、競技引退後は、中国電力で営業マンをやっていたという異色の経歴ながら、選手の育成能力と人心掌握術に長け、組織作りにも非凡な才能を発揮しており、スポーツ界以外からも注目されている指導者の一人です。

原氏は本書の中で、青山学院大学で指導している選手たちのみならず、日本社会全体に挫折の経験が不足しているのではないか、という見解を披露しています。原氏は、挫折を、自分で目標を立て、そこに向けて必死に努力したけれども「外的要因」に打ちのめされて、その目標を達成できなかった経験、と定義します。「相当の努力」「自分ではコントロールしえない外圧」「未達成」の3つの要素が揃っていることが挫折の条件とし、同じ結果が出なかった経験であっても、何の行動も起こさず、努力や工夫もせずに漫然と取り組んだ結果招いた未達成については、「失敗」と区別しています。

原氏自身が、多くの挫折をバネにし、反骨心を喚起し、自分の輝けそうな場所を嗅ぎ取って結果を出してきた経験を踏まえ、挫折を経験し、乗り越えることの重要性を強調しています。

私にもある挫折経験

長距離・駅伝好きの私は、各駅伝での原監督の采配には常に注目をしてきました。指導者として常に向上心を惜しまない姿勢、勝負師としての才覚を感じさせる区間配置、選手の育成能力、冷徹なリアリストでありながら楽天的な明るさを感じさせる雰囲気を尊敬しています。預かっている選手に対しては、競技能力向上以上に自身の豊かな人間性・個性を磨くように、導いているように感じます。

社会に出た時、挫折というネガティブな経験をしたことが支えになるという考えには、私も同意見です。精一杯努力したのに思い通りにいかなかった、狙った結果が得られなかった、という事実が、自分の傲慢さ、驕りへの戒めとなり、謙虚な気持ちへと繋がるように思います。狙い通りの結果が出せなかったことを卑屈に考えず、事実に真摯に向き合って自分なりに昇華し、乗り越える経験が大切です。そこでの痛みや悔しさを自分の糧にすることでしか、人間的にブレークスルーしていけない気がします。

私は、自分が逆境に弱いタイプという自覚があるので、挑んでも挫折しそうなこと=勝てる自信がないこと、からは、周到に逃げることが多かった人間です。なので勝負した機会は少ないのですが、それでも勝てると踏んで挑んだ勝負や競争で、狙った結果が出せず、挫折を味わった経験は何度かあります。真剣に挑んだことで負けを自覚させられるのは、大変悔しい経験です。しばらくは屈辱感と恥辱感に支配されます。努力を重ねているのに、周囲から評価されないのは、辛いものです。納得のいかない理由で成果が認められないと不条理を感じます。捨て鉢になることもあります。

恵まれている若い人たち

原監督は、「今の若い人たちは恵まれ過ぎている」という趣旨のことを書いています。同年代である私も、そう思うことは少なくありません。自分の若い頃、社会はこんなに若い人たちに寛容で、親切で、期待をかけてくれていたのだろうか…… 納得できる説明もなしに頭を抑えられ、雑に扱われていたよなあ…… と恨み節で思い返す部分もあります。 

ただ、今の若い人たちが、どう考えているかは別問題です。実際問題、論理的な正しさやクリーンさを求める世間の圧力はかなり強く、閉塞感を感じている若い人は多いだろうと思います。これから、何者かになろうと前向きに野望を駆り立てられる人はいいですが、かつての私がそうだったように、そこまで自分の人生に積極的、肯定的になれていない人にとっては、成長する機会どころか、挫折する機会にすら出会うのが難しいかもしれません。

大人 ー特に成功者と言われる人ー は、自分の挫折体験や成功体験を踏まえて、若者に対して「挑戦しろ」ということばをかける傾向があります。ただ、挑戦して失敗した時の責任は、誰も取ってくれません。挑戦の場が競争の激しい場所であれば、輝かしいポジションを得られる可能性があるのは、ほんの一握りの選ばれし人だけです。挑戦したい場所を探すことがまず一苦労です。たとえ、狙ったように報われず、屍となって無残な姿を晒すことになっても構わない、と覚悟を決められるくらいに夢中になれるものを見つけられたら、それだけで幸せでしょう。

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