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あの頃好きだった曲⓳:CROSS ROAD
あの頃好きだった曲シリーズの第19弾は、今夜どうしても語っておきたい衝動に駆られた、Mr.Children『CROSS ROAD』(1993)です。
30年も経ったのか…
1993年11月にリリースされた『CROSS ROAD』は、日本テレビ系列のドラマ『同窓会』の主題歌として制作され、Mr.Children最初の大ヒット曲を記録した記念碑的な作品です。その後は数々の名曲をリリースし、一時期は無双状態の快進撃を続けて押しも押されぬ超ビッグバンドになったMr.Childrenですが、私はこの曲こそ彼らの代表曲だと信じています。
今回この記事を書くために、歌詞を確認している時、この曲のリリースから、もう30年も経ったのか…… と感慨に浸りました。今でも全く古さを感じないし、この曲の存在を知らないティーンエイジャーが聴いても、古臭さは感じないのではないでしょうか。長い年月の風雪を経ても色褪せないだけの十分なクオリティを保っているように思います。
聴衆を魅了し続ける桜井和寿のワーディングセンス
多くのファンが主張するように、Mr.Childrenの最大の魅力は、殆どの楽曲を生み出す桜井和寿さんのソングライティング能力でしょう。とりわけワーディングセンスは天才的です。楽曲の世界観を的確に表現するため、「それしかないよな……」と思わず唸ってしまう正確無比なことばを置いていく能力がずば抜けている、と感じます。完成品として世に送り出すまで、ことばを磨き上げ、寸分単位で狂いなく調整を繰り返しているのでしょう。
桜井作品には、大袈裟で流麗な表現は抑え、シンプルなことばを絶妙に組み合わせ、メロディーと一体化して自然に聴かせてしまう、という特徴があるように思います。遊び心を発揮したユニークな言い回しや、ベタな語呂合わせや、皮肉をこめたインパクトのきつい一発や、謎解きのようなキーワードがちりばめられているのも魅力の一つです。まさに変幻自在、どこまでも尽きないアイデアに驚かされます。
勿論、この『CROSS ROAD』でも、その才能は遺憾なく発揮されています。冒頭の "lookin' for love(ルッキン・フォー・ラブ)"と、次の”今建ち並ぶ(ならぶ)”とは、語呂合わせだという説があります。また、次の”ticket to ride"と、サビ部分で曲タイトルの”cross road"との並置で置かれた”winding road"からは、ビートルズへのオマージュを感じます。
そして、私が聴くたびに毎回痺れるくらい好きなのが以下のくだりです。
抱き合う度にいつも 二人歩んだ日々の 答えを探してきたけど
崩れてく 音も立てずに
果たせぬままの夢(dream)
マテリアル・ワールド
1980-90年代には、盛んに使われていたものの、今ではあまり耳にすることがなくなったのが、二番のサビで使われている”マテリアル・ワールド (Material World)”ということばです。
直訳すれば”物質世界、物質社会”にあたる、このことばから連想する私のイメージと、私よりも若い世代の人たちが思い描くそれとは、微妙に違うような気がしています。私の(そしてMr.Childrenメンバーの)育った頃、マテリアル・ワールドは、既に受け容れざるを得ない現実ではあるものの、微かな違和感・侮蔑を含むネガティブ・イメージが込められたことばだったように思います。
しかしながら、2020年代の今となっては、マテリアル・ワールドという状態に誰も違和感を抱くことなく、社会基盤になってしまっています。最早マテリアル・ワールド化の是非が論争の対象ですらありません。議論の対象は、AIが跋扈するようになる時代への賛否へと移り変わっています。時計の針は後戻しできないものの、昨今のテクノロジーに対する警戒感の薄さ、信頼感の厚さには、時折恐怖を感じます。
30年という月日は確実に、世相を変化させてしまったなあ…… 心地良く、名曲に気持ちを委ねながら、そんな年寄りじみたことを思いました。
Mr.Childrenは、この曲の10年後(2003年)に、名曲『くるみ』をリリースします。偶然なのかもしれませんが、”十字路(Cross Road)”という歌詞が出てきます。そして、昨年2023年には、『くるみ』のオマージュとも言える『Fifty's Map ~おとなの地図』を発表しています。マテリアル・ワールドに身を委ねる私には、どれも沁みる歌詞であり、応援歌に聴こえています。
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