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金曜日の随筆:ラムを美味しいと感じられなかった夜

また運命を動かしていく金曜日が廻ってきました。2021年のWK13、弥生の肆になります。もう3月も最終盤。1月=いく、2月=にげる、3月=さる、とはよく言ったものです。本日は、大好きだったラムを美味しいと感じられなかった… という悲しみを自由に綴ります。

今週の格言・名言《2021/3/22-28》

Don't forget to show thanks to your mentors.
メンターに恩返しすることを忘れない
It does not matter how slowly you go as long as you don't stop.
- Confucius, thinker/China
止まりさえしなければ、どんなにゆっくりでも進めばよい。
ー孔子 思想家/古代中国

ある夜に感じた違和感

先日、銀座のバーで久しぶりにダイキリを飲んだ時に「ラム、好きじゃなくなったのかも…」と呟いてしまいました。口にした瞬間にえぐ味を感じ、喉越しに違和感が残った気がしたのです。アルコール感も強く感じました。

これを聞いたバーテンダーからは、「ちょっと特徴あるラムを使ってまして… お好みに合わず申し訳ありませんでした。」と謝罪のことばをいただきました。いえいえ、バーテンダーの方に責任やミスはありません。誤解をさせてしまい、申し訳なく思いました。

飲んだカクテルの出来を批判するつもりは微塵もなく、自分の好きなカクテルの嗜好が変わってしまったのかなあ?という驚きを呟いただけでした。年齢を重ねたからなのか… 体質の変化なのか… ちょっと悲しくて、寂しくなりました。

ラムへの思い

ダイキリは、ラムにライム果汁(あるいはライムジュース)と甘味を加え、シェイクして作るショートカクテルです。キューバのダイキリ鉱山で働いていたアメリカ人技師が、キューバ産のラムにライム、砂糖、氷を入れて作ったのが由来とされ、今ではスタンダードカクテルとなって、世界中で飲まれています。

文豪アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway、1899/7/21-1961/7/2)が、ハバナ旧市街のレストランバー「フロリディータ」で愛飲していたというシャーベット状のフローズン・ダイキリも有名です。

今の私は「ジンベースのカクテルが好き」と公言しています。しかし、もともとはラムとラムのカクテルこそが、私のバーでの出発点でした。ある時期の私はラムが本当に好きだったし、自由奔放なイメージが広がるラムに片想いしていたように思います。ほんの一時期だけですが、ラム熱が高じて、有名なラム酒場を訪ね歩くことをしたことさえありました。

私の場合、ラムを飲むと酔いが深まるというよりは、逆に酔いから醒めてしゃんとするような感覚になります。さんざん痛飲して酩酊気味の夜の最後の一杯に、ラムのロックを飲んで帰る時もありました。今の私は独り飲み専門ですが、友と語らい存分に楽しんでいい気分になった後に、「さあ」と正気に戻るための酒でした。

ダイキリは勿論、スカイダイビング、ソルクバーノ、XYZ、マリエル(オリジナルカクテル)… ラムを使ったカクテルにはそれぞれに特別な思い出があり、飲んでいた時の場面が鮮明に甦ってきます。

ラムの思い出

私とラムを繋ぐきっかけとなった人物は、ジャマイカ出身のシンガー・ソングライター、ボブ・マーリー(Bob Marley 1945/2/6-1981/5/11)です。

ジャマイカの英雄であり、レゲエの先駆者とも言われる彼の名を知ったのは山川健一『星とレゲエの島』という本でした。ボブ・マーリーは、私が音楽に興味を持つようになった頃には、既に病気で他界していました。音楽界のスーパースターであるのみならず、カリスマ性があり、世界中に熱狂的なファンがいて、世の中に強い影響力を与えた人だと知りました。

Bob Marley & The Wailersとして遺されている『No Woman, No Cry』の 歌声には今も痺れます。

『星とレゲエの島』では、山川氏がジャマイカの首都、キングストンの危険で猥雑な空気感を描く章が好きでした。そこに登場する小道具がジャマイカ産のラム、マイヤーズでした。

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この本を読んだ時、私はまだ法的に酒を飲める年齢ではありませんでした。私の音楽好きの友人もこの本の同じ部分が好きで、「いつか酒場でマイヤーズを酌み交わそう」と言っていたことを思い出します。

山川氏が、本書でボブ・マーリーとマイヤーズについて書いていたことは間違いないと思いますが、ボブ・マーリーがマイヤーズを愛飲していたという話だったか、別々に扱った話を私が勝手に混同しているのか、本書が手許にないので確認できません。しかし、私の中では、ボブ・マーリー=ラム(マイヤーズ)=かっこいい、という方程式で結び付いているのです。

後に、とあるバーテンダーの方に教えてもらった所によると、マイヤーズはクセが強く、必ずしも美味いラムという評価ではないようです。「美味しい酒を提供するプロとして、私はマイヤーズを自信を持ってお客様に出せません」とおっしゃられていました。それを聞いても、私はラムと言われて、忘れられない銘柄はマイヤーズですが…。

ラムとの訣別の時なのか…

ラムから連想されるのは、「自由」と「友」です。私のラムやラムベースのカクテルの思い出は、一緒に同じ時間を過ごした大切な人たちの思い出と密接に繋がっています。

ラムは、LEDライトの明るく均一な光ではなく、古めかしく頼りないオレンジ色のランプの下で飲むのが似合う酒です…
ラムは、磨き抜かれた美しい大理石のカウンターではなく、ごつごつした傷だらけの木のカウンターの上で飲みたい酒です…
ラムは、都会の高層ビルの上層階から夜景を眺めながらよりも、港町の薄暗いバーで波音を聞きながら味わう方が悦に入れる酒です…

甘くもあり、ほろ苦くもあり、色んな顔を見せてくれるラムは、私にこれまで随分と優しくしてくれて、幸せな時間を与えてくれてきました。

その長年親しんできたラムに、私の味覚が拒否反応を示しているというのはどういうことなのでしょう… ラムは私に好意を与えることを止めてしまったのでしょうか… 何かを暗示しているのでしょうか…

何か大切なものを捨てないと、新しいものは手に入らない、次のステージには進めない、とよく言われます。私はこの感覚を受け容れて、私にこれまでやさしく寄り添ってくれていたラムの庇護から卒業すべきなのでしょうか… 悩ましい所です。

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