あの人が教えてくれるもの⑧:堺屋太一
『あの人が教えてくれるもの』の第八回は、元通産官僚で、小説家、評論家として活躍された堺屋太一氏(1935/7/13-2019/2/8)です。経済企画庁長官、内閣特別顧問、内閣官房参与なども歴任した才人でした。
親しみやすかった大御所
私が読書をする生活をするようになった大学時代以来、最も作品を読んでいる作家の双璧は、小説ならば、村上春樹氏と五木寛之氏、ノンフィクション/ビジネス書系では、堺屋太一氏と大前研一氏です。
初期の頃から、堺屋氏の書籍での解説や切り口は、私には理解し易く、その頃人気のあった評論家の中で断トツに取っつき易い印象がありました。それは、堺屋氏(本名:池口小太郎)が役人出身で、経済の実務的知見を有しておられること、小説家でもあり、相手に読ませる文章コントロールに長けておられたことも影響しているのでしょう、日本屈指の著述家だと思います。
私は、難解そうな理論や思想をたびたび引用しながら、上から目線で畳み掛けるように提言してくる文章作法に苦手意識がありました。堺屋氏の、混沌とした事象を俯瞰分析してポイントを絞り込み、印象的な『キーワード』に落とし込んで、読み手の理解を促進する手法は見事でした。
キーワード作りの名人
堺屋氏によってキーワード化されたことばから、生み出された議論や時代の潮流は幾つもあります。
今では誰もが知る用語として定着している『団塊世代』ということばは、堺屋太一氏が1976年から連載していた近未来小説の題名『団塊の世代』に由来しています。
4つの物語から構成されている。それぞれの物語は時代も登場人物や事件も全く関連性がない。共通点は各々の物語の主人公が1947年(昭和22年度)から1949年(昭和24年度)に生まれた団塊の世代の大卒ホワイトカラーであるということ。他の世代と比較して膨れ上がった人口の塊がテーマとなっている。ー Wikipedia 『団塊の世代』概要より引用
1947-1949年生まれの、いわゆる第一次ベビーブーマー世代を、文化的・思想的に共通した価値観を共有する『団塊世代』、それ以降を『●●世代』『△△世代』として一括りにする世代論は、今でもポピュラーな手法です。数の多さで日本のマジョリティを構成している『団塊世代』は、国家政策、社会施策を論ずる際に今も影響力があります。
また、1980年代の『知価革命』という本で、19世紀後半以降隆盛してきた国家主導の近代工業社会は終わりを迎え、知価が成長と蓄積の源泉となる時代が到来していることを指摘するなど、先見性も鋭かったと思います。
『日本の盛衰』より
つい最近も堺屋氏の『日本の盛衰』(PHP新書2002)という本を読み直しました。約20年前に発刊された本ですが、日本の近代史を経済史的観点から手っ取り早くさらうには最適な内容になっていると思います。
最近の社会構造改革議論や新たなビジネスモデルをさも目新しい視点のように紹介するものの中には、実はかなり以前から構想されていたものが少なくないと感じます。本書を読むことでからくりが再認識・再確認できました。
過去の政策実行者や事業家が、愚かで、怠慢で、今直面している課題や問題の到来に気付いていなかったわけでも、無視した訳ではありません。少なくとも、堺屋氏の未来予測や課題認識や指摘は、今の時代にも参考にすべき、と思うところが幾つもありました。
日本を取り巻く社会環境、社会の風潮、テクノロジーが大きく変化したことで、かつては構想されながら採用されずにお蔵入りとなった施策が幾つもあります。20~30年前のビジネス書で、歴史を学び直す、歴史的事件の意味を捉え直す、のは結構いい経験になっています。