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左翼思想を学ぶ意義

偏見や先入観をもって捉えてしまいがちな左翼思想について、真っ当に学んでおきたいと思っています。本日の記事では、池上彰・佐藤優『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』(講談社現代新書2021)『序章『左翼史』を学ぶ意義』からの学びをまとめます。


今こそ、左翼思想を学んでおくべき

数年前から、私は『今こそ、左翼思想を学んでおくべき』という問題意識を持っています。過去にも、関連した記事を何度も書いてきました。右翼と左翼の違い、社会主義と共産主義の違いすら理解できていないのは問題であると思い、硬軟取り混ぜ、機を見て勉強を重ねてきました。

本書の序章で、今、左翼思想を学ぶ意義として、佐藤優氏は、

① 「左翼の時代」がまもなく到来し、その際には「左派から見た歴史観」が激動の時代を生き抜くための道標の役割を果たすはず(P14)
② 左翼というものを理解していないと、今の日本共産党の思想や動向を正しく解釈できず、彼らの思想に取り込まれる危険がある(P19)

と述べています。私の問題意識も、出発点は同じです。

佐藤氏も、池上氏も、左翼系言論人に位置付けられ、ご本人たちもそのことに特段の異論を申し立てている様子はありません。若い頃に真剣に左翼思想を齧り、その実情や歴史を知る人々の語る内容だからこそ価値があるだろうと考えました。

薄っぺらな知識と偏見から「左翼なんて所詮こんなもんでしょ……」と遠ざけてしまったり、侮ってしまったりするのは、思考停止だと思います。多くの人が毛嫌いせず、本書の序章の内容だけでも目を通しておくのが有益だと感じています。

右翼/左翼

右翼/左翼の語源が、フランス革命時の議会で、議長席から見て右側に保守派、左側に急進派が座っていたことに由来することはよく知られています。一般的な理解としては、右翼=保守、左翼=革新 となります。

ただ現代で、右翼とはこう、左翼とはこう、と単純化した図式で理解しようとする姿勢こそが危険だとされます。本来は左翼的な思想を右翼が支持していたり、典型的な右翼的政策を左翼が声高に主張したり、といった捻じれ現象も起こっています。

たとえば、個人の自由の尊重を重視するリベラル(自由主義者)は、本来左翼とは対立的な概念ながら、何となく左翼思想的に受け取られていたり、右翼が国民に愛国教育を施すべきと主張するのは、左翼の構造主義的な考えに近い、といったケースです。

佐藤氏の発言の項に書かれている、以下の点に深く同意します。

右翼にしても左翼にしても、思想や政治運動というものは、その時代時代に特有の社会構造に対する反作用として出てくるものです。政治の腐敗や社会に対する不満が高まると、急進的で改革を叫ぶ左翼が活発になりますし、改革が行き詰まると漸進主義的で歴史に回帰する保守的な主張が増えてくることは、フランス革命をはじめとした歴史を見れば明らかです。
現在の世界で顕になっている社会の機能不全に対して、人々が左翼的な思想に再び注目し、左翼勢力が台頭する可能性は非常に高い。

P16‐17

安易な理解は危険だということを承知で、ざっくり言うと、理性重視で、急進的に理想の社会を目指すのが”左翼的”、人間の理性を絶対視せず、漸進的に社会変革を目指すのが”右翼的” というのが本来の定義になりそうです。

ところが、日本の左翼の歴史を見ると、理論的には暴力を肯定する立場の左翼が、終始一貫して「反戦平和」「非武装中立」を主張しているので、ややこしくなってしまっているきらいがあります。

社会主義/共産主義

戦後の日本の左翼運動の二大拠点は、社会党と共産党です。ただ、社会主義=社会党、共産主義=共産党、と単純に理解してはいけないようです。

私は、社会主義=穏健・改革、共産主義=急進・反体制という印象をぼんやりと抱いていて、そのイメージがそのまま社会党、共産党のイメージに被さっていました。ただ、本書の第一章以降を読んだ結果、どうやらその理解は誤りで、長らく誤解を続けていたことに気付きました。社会党内の抗争や分派同士の争いの方が、遥かに血なまぐさく、陰湿で暴力的です。

「自民党一強+お粗末な野党」という現在の政局の中では、共産党が、唯一独特の存在感を保ち、異彩を放っているような印象は、確かにあります。与党のやることなすことを、何でも批判する姿勢はいかがなものかとはいえ、その首尾一貫した姿勢を評価する人も一定数はいます。

共産党には、全国に約27万人(2019年時点)の党員がいて、党機関誌の「赤旗」の発行部数は20万部を超えており、無視できない政治勢力です。佐藤氏は、共産党が革命政党であることを忘れてはいけない、と書いています。反体制、既存の社会秩序や体制の転覆を画策している極めて独特の政党である、という事実は、深く刻んでおく必要がありそうです。

社会主義は、振れ幅の広い主義であり、社会民主主義的な右派は、むしろ反共主義的で、人民民主主義的な左派や共産主義とは、実は仲が悪いのだ、ということも知りました。

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