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オリジナルカクテル:渾身の力を込めて作られるから感動がある

お盆休み中で、私のライフワークであるバー飲み活動も休止中です。バーの空気に思いを馳せながら、今日のテーマ「オリジナルカクテル」についてです。

渾身の一杯

私は「渾身」という言葉の響きが好きで、日常的にもよく使います。ただ、今回改めて辞書を引いてみて驚きがありました。

渾身(こんしん)
からだ全体。満身。全身。

意外とシンプルな意味であり、これまで誤用していたようです。『渾身の力を込めて』や『渾身の一撃』は、『精魂込めて』というようなニュアンスだと思って使っていましたが、精神的な意味合いはないのですね。

気分が高揚し、最高のカクテルを飲みたい時に『渾身の一杯をお願いします』という言葉を使って、バーテンダーのオリジナルカクテルをオーダーすることがあります。魂が込められた最高に美味しいカクテルを私に作って下さい、とお願いする訳です。プロの熟達したバーテンダーが、手抜きでカクテルを作ることなどありえないので、この言い草はとても失礼です。内心はムッとされているかもしれません。

オリジナルカクテルとは

バーテンダーの技術を競う競技大会に出場されるバーテンダーは、競技用のオリジナルカクテルを創作します。競技会で優勝したり、入賞したりしたオリジナルカクテルは、バー界隈でも話題となり、創作者がカウンターに立つお店の看板メニューになります。バー飲みとしては、オンリーワンのオリジナルカクテルを味わうのもカウンターに座る楽しみの一つです。

私は、バー飲みを始めてしばらく経った頃から興味のある競技大会の観戦に行くようになりました。日本で最も権威がある大会の一つが、日本バーテンダー協会(NBA)が主催する全国バーテンダー技能競技大会です。この大会優勝者が手にする日本チャンピオンという称号は、バーテンダーの最高の栄誉の一つです。

それ以外にも沢山のカクテル競技会があります。(競技会のルールや楽しみ方については、また別の機会に譲ります)毎年新しいお酒も発売されるので、その組み合わせで無数のオリジナルカクテルも産まれる訳です。

オリジナルカクテルの愉しみ方

しかしながら、後世まで残っていくオリジナルカクテルはごくごく僅かで、一時期話題になったものも含めて、殆どのオリジナルカクテルは時の流れとともに忘れ去られていきます。創作者の店では振る舞われ続けますが、クラシックカクテルとして後世に残り続けるのはほんの僅かです。

私の興味本位で、競技会で優秀な成績を収めているバーテンダーの方々から、オリジナルカクテルの創作秘話を伺うこともあります。創作意図を考え、使うお酒を選定し、カクテル名を決定し、味覚をイメージまで到達させる為の練習を繰り返します。通常営業を行いながらオリジナルカクテルを作るのは大変な労力であることがわかります。音楽家が一曲のオリジナルソングを生み出す過程に似ているのかもしれません。

自分では独創性の溢れた野心的なカクテルを狙っても、プロ同士が真剣に頭を使って作るカクテルは、どうしても似通った作品になってしまい、オリジナル性を出すのはなかなか難しいそうです。広く長く飲まれる為には、営業店での再現性も必要になってくるので、あまりにも特殊な材料を使い、コストがかかりすぎるカクテルも駄目なのだそうです。

そのような苦労の結晶が、この世で唯一無比のオリジナルカクテルです。バーテンダーが渾身の力を込めて作る一杯に込められた強い思い、産まれた物語を味わいながら、奇跡の一杯を味わっていきましょう。

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