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ショート・ショート集

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約400〜2000字ぐらいの短編たち
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#ショートショートnote杯

未来図書館*ショートストーリー

23XX年。300年ほど前に紙の本をすべてデジタル化し、またすべてを音声として保存する図書バブルがあったという。紙をデジタル化する業界が経済を動かした。 紙を貴重品とし、国は図書税という税金を徴収し、すべての情報をダウンロードできるようにした。 人々は本を紙で読みたければ、デジタルの10倍の値段で買うか、複雑な手続きをして図書館から借りるか、自分でダウンロードしたものをプリントアウトしなければならない。 本は他国の言語でも、音声も文字も自国の言葉で認識できた。 AIによって

アナログバイリンガル#ショートショートnote杯

スマートイヤホン、スマートグラスが当たり前の今、耳や眼から自国語で言葉が入ってくるようになり、通訳・翻訳の必要がなくなった。 そんな世の中に氾濫を起こしたい秘密結社が誤作動を偽り、誤った言葉に訳してしまうウィルスをばらまいた。 その後、ネット上でのやり取りはもちろん、政治、経済あらゆる面で混乱を招いた。 世界中で昔からの通訳者…自国語と相手国の言葉を話せる人が必要となった。ところがAIに頼り切っていた世界に、多国言語を話せる人がほとんどいない。 やっとみつかった老人通訳

1億円の低カロリー#ショートショートnote杯

我社の大ヒット商品を紹介しよう。 制作費1億円をかけた”低カロリー”サプリメント。 このサプリはサプリ自体が低カロリーなわけじゃない。 人間の感情を低カロリーに調整するサプリだ。 イライラや怒りがこみ上げた時、緊張している時、熱くなってしまう場面でこれを1粒飲めば、冷静になり物事の判断が的確になる。 ところがある国がこれを戦争の武器として使用しだした。 侵略しようとする国の食料に低カロリーサプリを混ぜ、相手の戦闘能力を下げる。無気力になり戦争が起こらないのはいいのだが、低

空飛ぶストレート#ショートショートnote杯

彼はいつも直球でしか勝負しない。 いや、できないと言ったほうが正解だろう。 思ったことはまっすぐ言う。行動する。 まっすぐすぎて、失敗も数知れず。 仕事も続かず、恋愛もまっすぐなのでうまくいかない。 正直すぎるのだ。 嫌なことは嫌だと言う。 好きなものは好きだと言う。 嘘をつけず、空気も読まず、いつもまっすぐ。 彼は素直なので友だちも多いが、なぜか深く付き合えない。ストレートな行動は逆に相手を不安にさせる。 彼は考えた。 自分のまっすぐさを活かせる仕事をやる。 まっす

数学ギョウザ#ショートショートnote杯

行列のできるギョウザの店がある。 店主が豚ひき肉、きゃべつ、にら、長ネギの材料の質と配合にこだわり、にんにく、しょうが、酒、ごま油、醤油、砂糖、塩とこしょうの調味料の絶妙なバランスがひとつのギョウザの中でハーモニーとなっている。 皮も手作り。粉の配合や厚さ、焼いた時の見た目まで計算されている。 焼き加減、温度も細かく設定して焼く。 秘伝の絶品タレと鉄板に盛られたギョウザは、一度食べたら誰もが忘れられなくなるという。 持ち帰り用に家で温めてもパリッとなる工夫もある。 旨い

しゃべるピアノ#ショートショートnote杯

私はピアノ。 動けない私が初めて旅をした。 どこかの駅。 それから毎日、誰かが私をなでる。たたく。 指が飛び跳ねる。 小さな男の子。 おウチにピアノがないんだね。 おじいさん。 病気が治って指が動くようになったのね。 恋人たち。 仲良く連弾、楽しそう。 帰る家のない男の人。 若い時はミュージシャンだったんだね。 私は歌う。 ときどきおしゃべりをする。 へたじゃないよ。 悲しい音は似合わないよと 音をはずしてみせたりして。 ほら笑った。 悲しみはもう終わり。 語りかけ

株式会社リストラ#ショートショートnote杯

(株)リストラに入社した。業務内容は企業の再建を考えリストラ業務を担う。あちこちの会社に行って肩たたきをしている。 業務のアウトソーシングが当たり前の今、余計な仕事は全くなく総務の仕事も(株)ジェネラルビジネスがやっている。 僕も就活には(株)リクルートにお世話になったし、社内のイベントや会議は(株)コンベンションが企画運営する。転職したかったりウチがリストラした人も(株)ジョブチェンジに行けばいいし、忘年会や歓迎会などの幹事は(株)プランニングがやってくれる。 今、勢

君に贈る火星の#ショートショートnote杯

火星に来て地球時間の5年。 片道しかない切符と夢を持ってこの地に降り立った。 火星には地下帝国があり、我らは異星の生物。迫害されながらも必死で現地の人々と交流を図ってきた。 僕はHSP(Highly Sensitive Person)…繊細な人と呼ばれている人種だ。現地の人の言葉はわからないが雰囲気で言いたいことがわかってしまう。 なんとか交流ができてきた今、社会適応する責任がある。 僕のその適応能力が尽き果てようとしている。 君は純粋なエネルギーを持って維持し、食料や水

金持ちジュリエット#ショートショートnote杯

我が愛しのジュリエット。 つぶらな瞳。可憐なしぐさ。甘い声。 愛しい可愛いジュリエット。 ときに冷たくそっぽを向くジュリエット。 気に入らないとこちらを振り向いてもくれない。 僕はかしずいてジュリエットの下僕となり ひたすら彼女の願いを叶える。 ああ恋しいジュリエット。 ジュリエットの愛らしさを撮影した動画は 何百万回も再生され たちまちジュリエットはセレブ猫。

違法の冷蔵庫#ショートショートnote杯

太陽光発電の冷蔵庫が売り出され、世界中に広まった。 コインロッカーのように駅や街中、キャンプ場に設置され、アプリで冷蔵庫の貸し借りが行われた。 人々は個人所有の冷蔵庫に入りきれないものを保管した。 ある屋敷の庭にあった太陽光冷蔵庫が発見された。 中にはその屋敷の主であった老人の孫娘の遺体が冷凍保存されていた。 病気で美しいまま亡くなった孫娘をそのまま保存しようと、老人は太陽光冷蔵庫を墓代わりに使っていた。 老人が亡くなり屋敷が売りに出されて発見された冷蔵庫の中の少女は、

コロコロ変わる名探偵# ショートショートnote杯

謎の伝染病が蔓延。パンデミックの中、密室殺人が発生した。 誰もが家にいたと証言し目撃者もいない。 そんな中、一人の容疑者が浮かび上がった。 容疑者の男にはアリバイがあり容疑を否認している。 容疑者の男のところに探偵と名乗る人物が現れた。 シャーロック・ホームズ「鍵の謎はワインにある」 次に現れたのはブラウン神父「神が見ている」 次は古畑任三郎「え〜あなたが犯人です」 次は家政婦「私は見た」 次は明智小五郎「賭けに負けたのはあなたです」 次はコロンボ「ウチのかみさんがね…」