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鑑賞・読書ログ「鍵のない夢を見る」
読書の秋を謳歌しております。
わたしが本屋で女性作家を選ぶのは、やっぱり女だからなのか。
一時期、東野圭吾さん伊坂幸太郎さん道尾秀介さんあたりを読んでいたんだけど、最近はめっきりだなぁ。
辻村深月さん
辻村さんというと「ツナグ」「ハケンアニメ!」「かがみの孤城」など映画化された作品でも有名。ただ、それらの作品には全く触れていないけれど。
私的なイメージは「青春」「ファンタジー」あたり。
わたしが初めて触れた辻村作品は『神様の罠』というタイトルの短編ミステリー小説集の中にあった『2020年のロマンス詐欺』。
緊急事態宣言下、上京したばかりの大学生がワケありのバイトに手を出してしまい、追い込まれていく。それはロマンス詐欺で、メールで相手を騙し金を巻き上げるというものだった。ある女性とのやり取りの中で、また新たなトラブルに巻き込まれ…というストーリー。
ハラハラしながらも、最後はホッコリ温かくなる展開だった(はず)。
その話が好きだったので、次は『盲目的な恋と友情』を読んだ。
これがまた非常にねっとりとした、崩壊していく男女関係と、女同士の歪んだ友情を、如実に描いている作品でして。
どこか自分とリンクする感情もたくさん出てきて、それがとても悪いことのようで居心地が悪くなる。だけど、人ってそうだよな、って思わせてもくれる。
どういうわけか、爽やかな辻村作品よりも、ねっとり系の辻村作品に触れてきたという経緯もあって、やっぱり次に手に取ったのも、ねっとり系だったようで。
本屋でチョイスする理由
本屋さんの想いと推しがこもったレイアウトに流されるように、でも抗うように、いつも本を選ぶ。
手前に置かれた平積みはもちろん”推し”、そして”話題”。
作者ごとに分けられた棚にも面出しされた”おすすめ”がアピールしてくる。
自分の意志で選んでやる。
大きめのポップが揺れる大量の平積み本は基本手に取らない。
さっとあらすじや帯だけ目を通して「あぁ今はこの著者が人気なのね」とかいう風情で通り過ぎる。
お気に入りの著者の棚に行き、既に読んだ本を見つけては「あれ?これってどんな内容だっけ」と復習したり、次に読みたい本をチェックしたり、「でも今日じゃないの」と本棚に戻したりして、時が流れる。
そうしているうちに、これだという本が見つかるのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1699506035545-2e7KniK8Wz.jpg?width=1200)
この作品は2012年の直木賞受賞作品。
10年以上前の作品だけど、本屋に並んだその姿はとても光っていた。
そもそも文庫本化を待ち望んでいる辻村さんの『闇祓』を探してはいたのだけどあいにくまだ出ていなくて、その流れで辻村さんコーナーに出向いたというのはあるけれど。
ピンと来なくて買わないことだってたくさんある。
だからわたしはネットよりも本屋で買うのが好き。
そして、大型チェーン系よりも、町の本屋って感じの書店のほうが、買うことが多い。
「鍵のない夢を見る」
直木賞受賞! 私たちの心の奥底を静かに覗く傑作集
どこにでもある町に住む、盗癖のあるよそ者の女、婚期を逃した女の焦り、育児に悩む若い母親……彼女たちの疲れた心を待つ落とし穴。
全5編からなる短編集。
その全ての主人公は女性。
しかもどことなく歪んだ(歪んでいく)女性。
「仁志野町の泥棒」誰も家に鍵をかけないような平和で閉鎖的な町にやって来た転校生の母親には千円、二千円をかすめる盗癖があり……。
「石蕗南地区の放火」田舎で婚期を逃した女の焦りと、いい年をして青年団のやり甲斐にしがみ付く男の見栄が交錯する。
「美弥谷団地の逃亡者」ご近所出会い系サイトで出会った彼氏とのリゾート地への逃避行の末に待つ、取り返しのつかないある事実。
「芹葉大学の夢と殺人」【推理作家協会賞短編部門候補作】大学で出会い、霞のような夢ばかり語る男。でも別れる決定的な理由もないから一緒にいる。そんな関係を成就するために彼女が選んだ唯一の手段とは。
「君本家の誘拐」念願の赤ちゃんだけど、どうして私ばかり大変なの? 一瞬の心の隙をついてベビーカーは消えた。
全て読者の思い通りに進んでくれない。
全て裏切られる。
全て後味が悪い。
と、書くと読む気が起こらないかもしれないけれど(笑)、その全てを凌駕して、面白い。唸る。読みながら「えっ」「まじか」みたいな感嘆詞がポロリと零れ落ちるほど、である。
それが読者置いてけぼりのどんでん返しではなく、緻密に伏線が張られ、回収される。だから気持ちがいい。途中までの気持ち悪さをすうっと流してくれる胃薬のように。
個人的には「石蕗南地区の放火」は身に染みた。
主人公の女性が36歳で、自尊心が高く、思い込みが激しめで、共感できる点が多かったからだ。自分はそうならないようにしようと戒めのようにも感じたくらいだ。
展開が好きだったのは「美弥谷団地の逃亡者」「芹葉大学の夢と殺人」。殺人が起こるという点においても、ミステリー色が強く、好みのタイプ。
女性なら特に、男性でももちろん、共感できたり、戒めにしたりできる作品が必ずあると思う。
タイトルの謎
「鍵のない夢を見る」
このタイトルのついた作品はなく、それと近いものもない。
もしわたしが「鍵のない夢」を寝ている間に見たとしたら、汗をかいて起きると思う。不安な気持ちで。
実際、この閉塞感に満ちた生活が夢なら覚めて欲しいのに、出ていけるものならこの世界から出て行きたいのに、出ていく扉を開ける鍵が無い、という意味でついた題とのこと。
やはり認識は合っていたよう。
でも「鍵」にしろ「夢」にしろ、捉え方は色々あるよなぁと思いつつ。
内容を考えると、納得ではあるけれど。
いろんな方の考察などを読んで、タイトルに思いを馳せるのも楽しかった。
林真理子×辻村深月
小説の「あとがき」が好きである。
著者にゆかりの深い方、批評家、タレントなど色んな人が書くけれど、この作品は、林真理子さんと辻村さんの対談だった。
ふたりとも山梨の出身で、”地方”を書くことを重要視しており、共通点が多いという。
林真理子さんの作品はちゃんと読んだことがないのだが、辻村さんが影響を受けたという『葡萄が目にしみる』は読んでみたい。
トップを走り続ける女流作家の対談はとても読みごたえがあった。
短編が好き
前回読んだ『常設展示室』もそうだけど、最近短編にハマっている。
というか、短編が気軽に読めるのである。
なかなかじっくりと読書ができる時間がない、けれど、集中して読みたい。
長編だと根詰めて読まないと感情移入しにくかったり、内容を把握できなかったりする。
その点で短編はいい。
もちろん物足りなさを感じることもあるけれど、しばらくは短編を積み重ねて読書力を強化し、ここぞという時に、これだという著者の作品に没入するのもいいと思う。
そう、読書力が今は無い。
文章を読んで、脳内でイマジネーションを広げる作業も、日常で使わない単語の解釈も、登場人物の関係性を把握する能力も、足りない。
そして、その感想を表現する力も。
だから、読書筋トレ中。
読筋中。
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