フリーランス3年目、初めてつくった夏休み
空が広い。風が透き通っている。
息を吸い込むと、身体の奥にまで澄んだ空気が行き渡る。
北海道も今夏は暑いと聞いていたけれど、関西に比べると蒸し暑さはかなりましだし、朝晩はどこか秋っぽさすら感じる。
ああ、こうやって心の底から自然を味わったのっていつぶりだっけ。
◇ ◇ ◇
フリーランスになって初めて1週間の長期休みをつくった。仕事から離れ、純粋に旅行だけを楽しむ1週間。
久しぶりの長い国内旅行にワクワクが止まらなくて、前日はなかなか眠りにつけなかった。まるで遠足前の子どもみたいに。
そして旅が始まった。
定番の観光地をめぐり、カフェに立ち寄っておいしいスイーツを頬張り、大自然を身近に感じ、すべての時間が楽しくてしょうがない。
言葉では聞いていたとおり、北海道の自然は壮大で、どこに目を向けても絵本に出てくるような幻想的な光景が広がっている。
でも、ふとしたときに仕事のことが頭をよぎる。スマホの通知を確認してはメッセージを開いて、閉じてを繰り返してしまう。
「人といるのに……」と感じる自分にまた嫌気が差す。
完全に休み切れていないような自分の行動に落ち込んだ。初日から「休むって何だっけ?」と考えた。
それでも、山の上から見た海みたいに広がる雲に心が落ち着き、差し込んだ光に山が照らされて、きらきらと輝く緑に背中を押される。
同じ景色を眺める人の目に映った雲はまぶしかったし、一所懸命にその瞬間を捉えようとカメラを向ける友人の姿はかっこよかった。
私は間違いなく、今ここにある時間と場所、今横にいてくれる人を感じている。
オンオフを切り替えることが、境界線がないことが、悪いわけではない。
フリーランスという働き方、私の性格上、1日完全に仕事のことから離れるのはどうやっても難しい。
でも、だから、オンオフを切り替える時間軸は1日よりも短くなっていて、同じ1日のなかでも、仕事のことを考えるときもあれば、自然に没頭するときもある。
それでいいんだ、きっと。
オンオフがくっきりしていなくても、曖昧でグラデーションみたいになっていても、今、この瞬間を感じれた時間があるだけで、それはとても素敵なことで。今横にいてくれる人との時間に幸せを感じられただけで、それはもうとてつもなく愛おしいこと。
仕事だけにのめり込んできたこの3年間。理想に向かって着実に歩みを進められたし、今の自分をかたちづくってくれた大切な時間だった。
得たものがたくさんあった。意図して捨てたものも、無意識のうちに失ってしまったものも、たくさんあった。
誰かとしっかり向き合うこと、自分の心を開いて胸のうちを明かすこと、今の気持ちにただただ正直にいること、愛情をまっすぐに届けたり受けとめたりすること。
きっと私は夏がやってくるたびに、またこの旅行を思い出して、とても繊細で当たり前の尊さを再認識し、背筋を伸ばすのだろう。