第99回箱根駅伝 〜日本体育大学との217.1キロ〜
総合17位。1年前と同じだ。
それでも確かな歩を進めたはずだと信じたい。いまだに余韻が残っている。それほど、このチームが好きなのだ。
第99回箱根駅伝。日本体育大学の217.1キロのレースを振り返りたいと思います。憶測も多いので間違いもあると思いますが、その点は申し訳ございません。
☆戦略
当初、自分が思い描いてたプランは2区藤本の前後を固めて4区5区を経験者の分須・吉冨が区間12位or4区63:00、5区73:30目標で往路をまとめていくというものだった。
5区は山崎(1年)に任せるのもアリだったが、元々のスピード、予選会で見せた後半の強さ、アップダウンへの適応力を総合的に加味すると前半突っ込み、湘南海岸以降に粘りが求められる3区に置き、藤本が作った流れを加速させる役割を考えていた。ちなみに山崎本人は登り続けるのが苦手のようです。
残りの1区は中距離から転向して予選会チーム2位と好走し、本人も希望していた廣澤優斗(4年)に任せる。強烈なハイペースよりかは六郷橋下ってからのスパートな展開になるだろうと判断してだ。
復路はほぼ全員に変更の可能性がある。名村を7.8区、盛本が6.7区、漆畑7.10区、廣澤1.3区、大森10区をベースに12月29日は考えていた。
☆レース振り返り
ここからは全10区間を振り返る。
◇1区・山崎丞(1年・63:08 区間9位)
昨季1区19位とつまづいたこの区間。藤本に上の位置で確実に繋げる選手として、3区予想の山崎が早くも登場した。日体大の1区1年生は優勝した89回の勝亦祐太以来10年ぶり。
序盤から常に前方センターライン寄りに位置し、無理をせず仕掛けどころを読んでいく。六郷橋の登りも前方で歩を進めていく。低めの重心で膝の柔らかさ、髪型・表情といったビジュアル含めてまるで山中秀仁を彷彿とさせるようだった。
六郷橋下り切ってから明治・富田が仕掛けて駒澤・円がついて動いた中、3位集団をロングスパートで引きちぎりにかかろうとしたが、少しスパートには早く足が残ってなく、後方から力を溜めてた法政・松永、順天堂・野村らに交わされた。そこは経験の差が出たか。
しかしレース運びは巧みで区間1桁で藤本に襷を渡せた。早くも来季の2区候補だ。
◇2区・藤本珠輝(4年・68:11 区間12位)
5月の関東インカレハーフマラソンを制すも、長らく故障に苦しみ箱根予選も欠場した今季。それでも、この男こそ日本体育大学の2区が似合う。
75年の歴史で初めてスパッツを解禁した姿に変わり、最後の箱根路のスタートラインに立った。
前回よりも上の順位で貰った襷。周りの速いランナーと対峙してほしかったが、故障明けもあり前半から慎重な入り。少しいつもより力強さが影を潜め、横浜駅前で前回より1分遅い展開。さすがに故障明けの2区は甘くないが、藤本の力はこんなものではない。
ここから学生トップクラスの実力を見せつける。16.6キロ地点から城西・斎藤を振り切り、追いついてきた東海・石原と前を追う。
置いていかれることなくメンタルから引き出す走りに意地を見た。
ハイレベルな2区で区間1桁は藤本でも至難の業だったが、それでもラストの定点は23:29の7位でカバー。序盤のペースが抑えめだったのは昨年、最後の上りで伸び切らなかった経験を踏まえてということもあったのだろう。昨季同様、ターゲットが見える位置で3区へ繋いだ。
ちなみに68:11 区間12位は順天堂・三浦龍司と同タイム。昨季は箱根2区をランニングデート、今年は同タイム。この2人はカップルなのだろう。
やはり西脇工業のエースは日体大が似合う。4年間ありがとう。次は世界へ。
◇3区・漆畑徳輝(3年・62:36 区間10位)
今回のチームMVPと言っても過言ではない。
前のランナーは前半から突っ込んで見えなくなる、後ろから井川・森下の追撃、抜きつ抜かれつの状況の中、藤沢〜茅ヶ崎を19:58(6位)、茅ヶ崎〜平塚を21:06(9位) 冷静なペースを保つ。この定点間はあの順天堂・伊豫田よりも速かった。
さらに終盤、東京国際・白井を交わして1つ順位を上げたシーンはテレビでも取り上げられたほど。率直に嬉しかった。
日体大にしては珍しい長身のストライダー。前回7区19位で厳しい言葉を玉城監督から受けていたが今回の漆畑は男だった。
11月に5000m13分台マークしたのみで不安だったが、軽やかにいい表情をして走っていた。今回の3区起用は予定通りか否か、定かではないが、こういう嬉しい誤算が近年の日体大は少なかっただけに漆畑の走りは感動した。来季も頼むぞ。
62:36で日体大記録更新。こうした展開であっさり負けるのが日体大3区の伝統だったが、実は至近3年間は97回岩室(11位)98回大畑(9位)今回の漆畑と区間中位でまとめられるようになった。
ここまでは、たしかに駅伝になっていた。
◇4区・分須尊紀(2年・66:06 区間20位)
ここから2区間が大誤算だった…。
前回は他大学との並走でペースを整える展開だったが、今回は最初の数メートルでイェゴン・ヴィンセントに交わされ、終始ペースが上がらず。展開にも恵まれず前から落ちてくるランナーを拾うこともなく終わった。1人で走る力が足らなかった。脚力が弱く見えた。昨年より3分遅いタイムは想定外。
2年世代唯一の出走となった分須。シーズン開始当初は藤本に次ぐセカンドエースとして期待をかけ、3障の脚力も活かして来季2区にもチャレンジ出来たらと考えていたが遠い話になってしまった。
◇5区・吉冨純也(3年・76:32 区間19位)
誤算2区間目。前の区間のブレーキを引きずる格好になってしまった。最初の平地を7位と昨季同様に突っ込んで入り、小涌園前まで区間11位。ここまでは昨季より30秒遅いが展開はほぼ同じ。
しかし小涌園から芦ノ湯までに16:26かかり、芦ノ湯から元箱根に約10分、ラストはガス切れと終わってみれば前回より2分遅い区間19位。
今季は表舞台にはほとんど出ずに箱根の山1本にかけて調整をしていたのだろうが、5区対策は見直しを図らねばならない。
玉城監督になってから5区は区間12位、貯金は作らないが崩れないを目標としているが、その策が3年連続で失敗しているのは考えもの。そのうえ3年連続で小涌園以降にブレーキを起こしてと、毎年同じやられ方をしているのだから…。
適正度外視して無理矢理でも走力でカバー出来る選手を配置する博打などを打たないと、こういうチームはシード権に近づけないとも思う。
そういう意味では今回の展開での5区・山崎丞は見てみたかった。往路あと1枚あれば、というところまでは来ているだけに。
吉冨はこのまま終われないよ。
4年次に兄が味わった悔しさ(98回東海大10区・兄の吉富裕太が走ったのだが、法政大学に残り1キロで交わされてシードを逃した過去がある)
これを晴らせるのは弟しかいない。
◇6区・内山峻一(3年・59:53 区間11位)
復路一斉スタート。前回の繰り上げ二の舞は避けたい状況を冷静に駆け抜けた。
1万m30分台、記録会でも早い組の出走が多く自分も未知な部分が多かった。
しかし高校時代の県駅伝では下り基調のコースで好成績を残し、本人も6区を強く希望していた。カーブでの重心移動、腕の位置も下り向けで、ここは前回の反省から首脳陣・選手ともに準備を進めてきたことが分かった。
5区は登りと基礎走力(主に1万m)の高さに一定の相関性があるが、山下り6区は1万mのタイムに目を張るものがなくとも、5区よりもメンバーの豪華さ(?)や注目度は劣るので、今回の内山のように秘密兵器を仕込むことは十分可能だと考える。
今回は一斉スタート組で他大学の選手の力も借りての走りだったと思うが、時差スタートで1人でも同じように区間10位前後で走っていけるか。
いい意味で持ちタイムに比例しない走りを久しぶりに日体大で見た。来年度はシードライン戦線での切り札になって欲しい。
◇7区・名村樹哉(4年・64:03 区間11位)
復路はどこでもいける名村を重要度の高い7区に置けたのはグッドだった。
前の走者にすぐ追いつき大東文化、山梨学院と並走を重ねる。中継所〜二宮を定点間13位タイ→二宮以降は定点間8位のタイム。
ダイナミックなフォームで果敢に攻める彼の持ち味は定点カメラの映像だけでもしっかり伝わってきた。ラストの全力疾走は忘れることがない。
この代の持ちタイム上から2番目で入学して都道府県駅伝でも3人抜き。2年生で今の1万m自己ベストを記録と、ロードでは藤本のセカンドエースとして期待を寄せていた。
大学卒業後は一般企業に就職するため競技人生ラストラン。7区日体大記録を更新(64:03)、持ち味の笑顔で襷リレー。華やかに陸上人生に別れを告げた。
◇8区・廣澤優斗(4年・65:29 区間12位)
今大会、まさかのオーダーだった。予選会2位の廣澤をこの区間は予定通りだったのだろうか…。
最初の定点は18位の入り。やはりよーいどんの展開の方が似合っていたのでは、本調子ではないからこの区間だったのか…。
しかし徐々に区間順位を上げていき、一時は山梨学院を交わすなど順位を1つ上げての襷リレー。遊行寺から戸塚の5.8キロは定点6位のタイム。1500mで培われたラストの切れ味に加えて登りにも強かったのか。往路でどこまで戦えてたのか見てみたかった気持ちもある。
実は過去3年間、区間17位(96回嶋野・97回大内宏)区間19位(98回九嶋)と鬼門になっていた日体大の8区だが、なんと日体大記録を更新。
一度は長距離ブロックを諦めて中距離ブロックを主戦場とした男は大学3年12月の1万mで28分50秒を切るタイムをマーク。玉城監督からの誘いで今年の夏合宿からチームに参加。藤本不在の予選会を難なく突破出来たのは彼のおかげ。
卒業後もコニカミノルタで競技継続。日体大同様に低迷する名門の起爆剤となれるか。
「やっぱりお前は長距離の適性がある!」
異色の経歴から掴み取ったシンデレラストーリーは序章にすぎない。玉城監督の運営管理者からの声を宝にもっと羽ばたく。
◇9区・盛本聖也(4年・69:50 区間14位)
なんと予選会1.2位の盛本、廣澤を8区9区に起用。これは想像出来なかった。
横浜駅の定点で並走してた山梨学院を抜くとそれ以降は定点9位。戸塚〜横浜までは定点15位前後だったため、ここもビルドアップに成功だ。
この盛本の走りで復路の見た目13番フィニッシュを可能にしたと思う。
主将として前回、自らの6区失速を引き金に襷を途切らせてしまったリベンジは果たせた。
日体大の主将が箱根路を走るのは3年ぶり。3年前も9区(95回林田)だった。
都大路2区4位の実績を掲げて1年次の箱根予選会66位と将来を嘱望されたが、紆余曲折があった4年間。それでも、しなやかでシャープなフォームと推進力が一致した姿を最後の箱根路で観ることが出来てよかった。この走りを求めていた。
やっぱり主将が箱根を走らないとチームは引き締まらないよ。名門校だけに重圧もあった中で、責務を全うしてくれて本当にありがとう。
◇10区・大森椋太(3年・70:44 区間14位)
昨年度、全日本大学駅伝に出走し、その後1万m29:01をマークした。
今季は全日本大学駅伝予選会では2組31位と撃沈も、箱根予選会5番手(73位)とロードで結果を残してアンカーを掴み取った。
最初の蒲田を区間18位の入り。前半は伸びないが、蒲田〜新八ツ山橋を定点間12位→ゴールまでを定点間10位。特に御成門以降からの粘りは光り、一時は5秒差に迫られた大東文化大学を振り切って見た目13番手でのfinishを決めてくれた。
ここでも予選会で見せたビルドアップ走は活かされた。そして、ここで抜かされることなく振り切ったというのがポイント。競り合いに弱い日体大にとって、小さな成功体験かもしれないが大きな糧になる。これが来季に繋がるのだ。
高校時代のベストは15分台、公立高校出身、3年次に初箱根は10区。共通点がある。
これは今、日体大でコーチをしている小野木俊さんと全く同じだ。自身の経験値に被せたアプローチをしているからこそなのか、こうしたランナーが1人でも台頭して走ってくれると嬉しいよね。日体大の育成力を示す根拠にもなってくる。
来季は笑顔で、歓喜の輪でフィニッシュだ。
☆総括・来年度に向けて
第99回箱根駅伝の成績は以下の通り。
往路5:36:33(18位)復路5:29:59(11位)
総合11:06:32(17位)
往路終了時こそ絶望だったが、復路は見た目13番目でゴールの11位。終わってみれば4.5区除く8区間を区間9位から14位にまとめた。シード逃して以降では最多だ。前回よりは内容のある17位。
4区5区が前回並みのタイムだったら…
前回の神奈川大学のようなレースになっていたと思う。結果的にシード権は取れなかったかもしれないが、そうした崩れないレースを進めていくのは小粒戦力で波状攻撃を仕掛けていくうえで理想であった。ただただ、もったいないというのが正直な感想だ。
それでも3区間で日体大記録更新。予選会で見せた15キロ以降のビルドアップは箱根本戦でも復路の7区以降で活きていた。序盤の戦い方、乗り切るノウハウは積み重なってきた。
3区10位漆畑、6区11位内山と谷間の3年世代が日体の苦手区間で未来を繋いだのが収穫。藤本卒業の穴は大きいが来季の2区候補も既にいる。
課題は新3年生の底上げ。
特に山口廉には期待度が高い。10月の1万mでは山崎、平島、田島らと同じ水準で走れるなど少しずつレース感は戻ってきていると思う。
都大路6区5位で走った実力者。ロードの力は目を張り往路を走れる火力は備わっている。
あとは山登り候補の選定、スローペースの展開に限ってセカンドエースを1区に配置して弾を切ってしまったりといった戦略面。突っ込んで耐える力。特に4区がシード逃している過去5年
95回廻谷18位、96回太田18位、97回福住17位、98回分須15位、99回分須20位
という状況。最もそのスキルが求められる区間で、この結果なのが課題を露呈している証拠。1つ解消したらまた次の課題というのは悩ましいが中盤の手薄さを解消していきたい。
今の4年生は箱根4位の年にスカウトしてきた選手たち。1年生からハーフ64分台を記録するなど早くから台頭してきた。3.4年になったとき、もう1度勝負…と思っていた。
しかし現実は甘くなく、この2年間17位。繰り上げスタートの悔しさも2度味わった。
思い描いた4年間ではなかったかもしれないけど、皆が繋げてくれた襷、途切れることなく伝統は受け継がれている。
予選会から総合優勝して10年。あの当時、ここまで苦戦する伝統校の姿を誰が想像したことか。箱根に出るだけの大学ではない。5年連続シード落ち、立川を走ってる姿なんて似合わない。
第100回箱根駅伝に向けての戦いは始まった。4分の3世紀(75年連続)繋ぎ続けた白襷。
1月2日・3日。来年こそはチームカラーの青空、雄大な富士が輝き笑うと信じている。