豆知識「スキーマ療法の種類①」

スキーマ療法には、スキーマ療法の中に登場する重要なポイントにあわせて3種類のやり方があります。

①オリジナル・アプローチ
②モード・アプローチ
③中核的感情欲求アプローチ

これらはそれぞれ①スキーマ ②モード ③中核的感情欲求 に注目したやり方になります。
今日はスキーマ療法を開発したヤングが一番最初に考えたスキーマに注目した「オリジナル・アプローチ」について説明します。

スキーマって何ですかっていう人は、この記事を見てください。


オリジナル・アプローチ

オリジナル・アプローチはクライアントの持っているスキーマに注目して、スキーマを改善させることで治療を目指す方法です。

大きく分けると「スキーマについて教育する段階」と「スキーマを変える段階」に分けられます。

スキーマを教育する段階では、6個の目標があります。

①問題となっている人生や生活のパターンを発見する。
②早期不適応的スキーマがどのようにして生まれたかを理解するために、非常に細かく生育歴の聞き取りをする。
③クライアントが自分の持っているスキーマについてどのように対処(コーピング)してきたかを発見する。
④生まれ持った性質について調査と聞き取りをし、説明する。
⑤クライアントの持っている早期不適応的スキーマを(わざと)刺激する。
⑥①‐⑤のすべてをあわせた概念図をつくる。

①問題となっている人生や生活のパターンを発見する

これは、要は「主訴」と呼ばれるものです。
主訴は「抑うつ」「過剰飲酒」「対人問題」「仕事が達成できない」などよくあるものです。

ポイントは、スキーマと関連付けて理解できるように主訴を理解すること。
だから「対人問題」という主訴はこれだけでは、どんなスキーマのせいなのか判断できません。対人問題の中にはいろんなパターンがあるからです。

1)人と親密になりたいのに、怖くて避けてしまう
2)自分にとってよくないと思われる相手とばかり交際してしまうし、別れられない
3)人に対して暴力をふるってしまう
4)相手を見下してしまうせいで、人に好かれない

このように、具体的にどんな対人問題なのかを把握する必要があります。
(これらの問題がどのようなスキーマにかかわっているかの説明は長くなるので省略)


②早期不適応的スキーマがどのようにして生まれたかを理解するために、非常に細かく生育歴の聞き取りをする。

これは、①の主訴がスキーマによるものなのか現在の環境によるものなのかを見極めるために行います。
聞き取りの結果、スキーマに関連しそうだと判断できたとき、③に進みます。

聞き取りのポイントは以下のような感じです。

1)可能な限り人生全体について、特に幼少期の体験について聞き取る。
2)幼少期にトラウマになるような体験があるかを聞き取る。
3)トラウマ的な体験があったとき、クライアントがそのときにどのように感じていたのか、どんな行動をしたのか、詳細に聞き取る。
4)3)で得られたトラウマへの感情や行動は成長過程の中の他の人間関係でも生じていたものなのかを聞き取る。

大体こんな感じです。
ざっくりと言えば、幼少期から現在までのトラウマの掘り起こし作業です。

この聞き取りで、2)の段階でトラウマがあるとき、①の主訴にスキーマが関連していると判断して(つまり、トラウマ体験によってスキーマが生まれたと判断して)、③のための準備として3)と4)の聞き取りをします。

また、聞き取り以外にも「質問紙」を使って、どんな体験をしてきたのかアンケート形式で答えてもらうという方法もあります。


③クライアントが自分の持っているスキーマについてどのように対処(コーピング)してきたかを発見する。

②の聞き取りで3)と4)を行うことで、クライアントが自分の持っているスキーマに対してどのような対処(コーピング)をして、これまで生きてきたかがわかります。

具体例3)について
・母親は母親自身が愛情に飢えていて、そのせいで子どもであるクライアントに愛情を向けることができていなかった。
・父親は母親に対して殴るなどの身体的な暴力を頻繁に行っていて、クライアントはいつも父親の某量から母親を守る役割になっていた。
・父親はいつも怒っていて、母親はいつもそれに怯えている。母親は子どもであるクライアントにいつも精神的に依存していて、話を聞いてもらいたがっていたし、クライアントはいつもそれに応じていた。

具体例4)について
・今交際している男性は、身体的な暴力はないが、クライアントに対して見下すような態度をしてくるけれど、それは当然のことだと思っている。
・いつか今交際している男性も父親のように暴力をふるうようになるだろうと思ってしまう。
・そうなったら、母親が父親に愛されていなかったように、自分も交際相手に愛されていないのだと感じると思う。
・だけど、私はどうしたらいいかわからないから、別れることができなくなると思う。

このような具体例から、このクライアントが「暴力には従う」「愛されていなくても別れない」はなどの対処法を身に着けていることがわかります。

こういう聞き取りによって、クライアントがスキーマを形成するようなトラウマ体験とそれに似た体験に対してどのように対処(コーピング)してきたのかがわかります。


④生まれ持った性質について調査と聞き取りをし、説明する。

スキーマはトラウマ体験によって作られることもあるけれど、生まれ持った性質によって作られることもあります。
生まれ持った性質のせいで、普通のことがトラウマ体験になってしまうこともあります。

発達障害や身体的欠損などがその例です。

たとえば、破滅的な家庭でなかったとしても、こどもが発達障害であることを知らないまま子育てをしていたら、普通の子育てをしていたつもりが、子どもにとっては苦痛の連続になっていた、ということがあります。

また、発達障害の特性のせいで忘れ物やミスが多く、「失敗体験」が多いとそのことを周囲の大人から注意されて落ち込む体験が多くなります。

身体的欠損があれば、他の友達が普通にできていることが自分にはできないものであるという体験を繰り返すことになります。

そういう生まれ持った性質のせいで、「ダメ人間スキーマ」や「孤独な私スキーマ」みたいなものが作られることがある、という説明をクライアントにするというのが④ですることです。

⑤クライアントの持っている早期不適応的スキーマを(わざと)刺激する。

この作業は、これまでの聞き取りと説明によって「頭で理解したスキーマ」について「体でも理解する」ことを目的としています。

スキーマは頭ではわかっていても、心の奥底にあるものなので日常生活で感じることが難しい。
そこで、クライアントのもっているスキーマをわざと刺激して、そのときに起こった感情や身体的な反応を体で理解してもらいます。

そして、体で理解した感覚を覚えてもらって、日常生活の中で同じ感覚があったときに「あ、いま、スキーマが刺激されているんだな」とセルフモニタリングできるようになってもらいます。

スキーマを刺激する方法はいろいろな技法がありますが、説明すると長くなるので別の記事で紹介することにします。


⑥①‐⑤のすべてをあわせた概念図をつくる。

作り方はいろいろありますが、一例として、私が作った概念図を紹介します。

スキーマを変える段階

スキーマを変える方法は3種類あります。
①認知的技法(頭で理解する方法)
②体験的技法(体で理解する方法)
③行動パターンの変容(行動を変える方法)

①認知的技法

認知的技法は、要約すると、いろいろな方法を使って「自分の持っているスキーマは要らないものだ」と理解することです。

具体的には6つの方法がります。

1)そのスキーマが妥当なものかどうか検証する。
2)そのスキーマを支持する根拠を検討する。
3)スキーマに対する対処方法のメリットとデメリットを分析する。
4)「スキーマを刺激された状態のクライアント」と「ヘルシーなクライアント/セラピスト」によるイメージ内または実際に声に出して、ディベートをする。
5)スキーマフラッシュカードを作る。
6)スキーマ日記を毎日つける(セルフモニタリング)。

これらの方法をすべて説明すると長くなりすぎるので、説明が必要そうなものだけ選んで説明しようと思います。


4)「スキーマを刺激された状態のクライアント」と「ヘルシーなクライアント/セラピスト」によるイメージ内または実際に声に出して、ディベートをする。

これは、イメージワークといわれるワークのひとつで、「エンプティ・チェア」「椅子のワーク」などと呼ばれます。

ふたつの椅子を用意して、スキーマが刺激された状態のクライアントが座る「スキーマの椅子」と健全でヘルシーな状態のクライアントが座る「ヘルシーな椅子」を用意します。

そして、問題となっているスキーマを刺激されたクライアントになりきってもらって、スキーマが刺激されている状態のクライアントの言い分を言ってもらいます。

そのあと、クライアントはヘルシーな椅子に座りなおして、スキーマの椅子に座っていた自分の言っていたことに対して、応答します。

これを繰り返す作業です。
クライアントのヘルシーな側面が足りないときは、ヘルシーな椅子にセラピストが座ることもあります。


5)スキーマフラッシュカードを作る。

スキーマフラッシュカードとは、日常生活でスキーマが刺激されたときに確認して自分を落ち着かせるためのカードです。

スキーマフラッシュカードには、そのスキーマのデメリットや妥当性のなさや、そのスキーマがなぜ作られたのか、などが書かれています。

②体験的技法
③行動パターンの変容

これらに関しては、次回説明する「モード・アプローチ」で詳しく説明する(と思う)ので、ここでは省略します。

「オリジナル・アプローチ」「モード・アプローチ」「中核的感情欲求アプローチ」のすべての説明が終わったら、それぞれのメリットデメリット分析をしたいと思っています。

サポートありがとうございます。みなさんのサポートは、スキーマ療法や発達障害、当事者研究に関する書籍の購入やスキーマ療法の地方勉強会、ワークショップ開催などの費用に充てたいと思います。