『スキーマ療法実践ガイド スキーマモード・アプローチ入門』
想定読者層
・かなりまとまった固い文章を読むことのできる人。
・自分の興味のあるところだけセレクトして読める人。
・スキーマ療法のセラピストを目指す人。
・セルフスキーマ療法やピアスキーマ療法をしている人。
・自分のモードサイクルの把握ができている人。
・自分や他者の問題となるモードへの具体的な対処を知りたい人。
・とにかくたくさんの事例に触れたい人。
書籍情報
スキーマ療法実践ガイド―スキーマモード・アプローチ入門 https://www.amazon.co.jp/dp/4772414479/ref=cm_sw_r_cp_api_i_tg0cEbJN2YX9E
アーノウド・アーンツ,ジッタ・ヤコブ 2015,『スキーマ療法実践ガイド スキーマモード・アプローチ入門』伊藤絵美 監訳,吉村由未 訳,金剛出版,360ページ
4,400円+税
全体評価
オススメ度 ★★★★☆
読みやすさ ★★★★☆
専門性 ★★★★★
スキーマ療法がどのようなものかある程度把握できている人にオススメする本です。スキーマ療法はヤング『スキーマ療法』や伊藤絵美『スキーマ療法入門』で紹介されるオリジナルアプローチの他にも、モードアプローチと呼ばれるものがあり、『スキーマ療法実践ガイド』ではモードアプローチに焦点があてられる。
オリジナルアプローチでは、生育歴のヒヤリングを始まりとして早期不適応スキーマを同定し、スキーマの修正を行う。一方、モードアプローチでは、生育歴のヒヤリングやスキーマの同定と修正は行われないか、行ってもごく一部である。モードアプローチでは、今現在のクライアントが抱えている問題がどのようなモードによるものなのか、モードサイクルやパターンをつきとめ、その問題となるモードに直接的に対処していくことがメインで行われる。
この本では、あらゆるモードへの対処の仕方が紹介されている。目次を見るとわかるように、あるモードに対する対処の方法はパターン化されている。そのため、一度、どのような技法で対処をするのかのパターンを把握してしまえば、自分の関心のあるモードの章だけ選んで読むことができる。章末の「よくある質問」は初歩的な疑問からかなり専門的な疑問まであり、充実している。
冒頭から最後まで、一貫してすべてのスキーマ、モード、技法に事例がついている。そのため、抽象的な話にとどまらず、具体的に理解することができる。
本の目次と読書ガイド
第1部ーケースの概念化
第1章 スキーマ療法とは何か?
1.1 早期不適応的スキーマ
1.2 欲求に焦点を当てる
1.3 スキーマへのコーピング
1.4「スキーマモード」モデル
1.5 よくある質問
スキーマ療法とは何かについて一般的な認知行動療法との違いに注目しながら簡単に説明されます。その後、それぞれの早期不適応スキーマの説明と事例が紹介されます。スキーマ療法についてそれなりに知識のある人は読み飛ばしても大丈夫です。
第2章 モードの概念
2.1 スキーマモードの概要
2.2 モードモデルによるケースの概念化
2.3 各パーソナリティ障害に特有のモードモデル
2.4 よくある質間
この章の冒頭にある25のモードの説明の一覧表は必読です。2019年12月31日現在、日本語で読める最も細かく分類されたモードの説明です。一覧表以外はモードを大きく分類して説明し、それぞれの事例を紹介しています。ここはある程度モードの知識がある人は軽く読み流す程度でも大丈夫です。『スキーマ療法入門』には登場しないモードの識別方法が書いてあるので、興味のある人はセレクトして読むのもありです。パーソナリティ障害特有のモードの説明があるので、パーソナリティ障害に興味のある人はセレクトして読むといいと思います。
第3章 モードの概念について当事者と話し合う
3.1 モードモデルに基づく治療計画
3.2 よくある質問
セラピストとクライアントが問題となるモードを同定して名前を付ける作業を事例を使って紹介しています。短いのでさくっと読める人は読んでもいいともいます。基本的には読んでも読まなくてもいいと思います。
第2部ー治療
第4章 治療の全体像
4.1 それぞれのモードに対する治療目標
4.2 治療のための諸技法
4.3 治療関係
4.4 よくある質問
全員必読です。すみずみまでしっかりと読み込んでください。特に、「治療のための技法」「治療関係」はこの先の具体的なモードの治療の章で何度も出てくるので、しっかり理解しましょう。ただ、この先の章で何度も事例とともに説明しなおされるので、完璧に理解できなくても大丈夫です。
第5章 コーピングモードを克服する
5.1 治療関係
5.2 認知的技法
5.3 感情的技法
5.4 行動的技法
5.5よくある質問
ここから先の章では、第4章で説明された「治療関係」や「技法」を使ってモードへの対応を具体的に説明されます。基本的にはここから先の章は自分の気になるモードだけをセレクトして読んでいくことができます。
この章では、スキーマ療法のモードアプローチの代表的な技法である「椅子による対話のワーク」というワークが登場します。この先も「感情的技法」で中心となるワークです。
第6章 脆弱なチャイルドモードに対応する
6.1治療関係における「治療的再養育法」とその特別なバージョン
6.2 認知的技法
6.3 感情焦点化技法
6.4 行動的技法
6.5 よくある質問
脆弱なチャイルドモードへの対処で用いられる技法は「イメージの書き換えワーク」と「椅子による対話のワーク」です。椅子による対話のワークは8章でより詳しく説明されます。ここでは、「イメージの書き換えワーク」というスキーマ療法独特のワークについていろいろなパターンの書き換えを紹介しています。「イメージの書き換えワーク」に興味のある人は必見です。
第7章 怒れるチャイルドモードと衝動的チャイルドモードに対応する
7.1 治療関係
7.2 認知的技法
7.3 感情的技法
7.4 行動的技法
7.5 よくある質問
この章の冒頭には「怒り」に関連するモードを細分化して説明したモード一覧があり、第2章のモードの一覧よりも細かく分類されているので、この表だけは全員読んでおきましょう。怒りに関するモードへの対処で特筆すべき技法は特にないので、怒りに関心のある人以外は読み飛ばしても問題ありません。
第8章 非機能的ペアレントモードに対応する
8.1 治療関係
8.2 認知的技法
8.3 感情焦点化技法
8.4 行動的技法
8.5 よくある質問
この章で特徴的なのは、治療関係における「限界設定」という概念の理解です。ペアレントモードに限らず、あらゆる場面で「限界設定」は必要になります。セラピストとしても、セルフスキーマ療法としても、ピアスキーマ療法としても、かならず「限界設定」は意識的にそして最初に行うべきことなので、しっかりと理解しましょう。
また、この章では「椅子による対話のワーク」がさまざまなバリエーションで紹介されます。椅子による対話のワークは個人スキーマ療法でもグループスキーマ療法でも重要な役割をしめます。特にピアグループでスキーマ療法をしている場合は、常に「椅子による対話のワーク」をしている状態だと思ってもいいほどです。スキーマ療法を実践するあらゆる人にとって「椅子による対話のワーク」についての部分は必読です。
第9章 ヘルシーアダルトモードを強化する
9.1 治療関係
9.2 認知的技法
9.3 感情焦点化技法
9.4 行動的技法
9.5 治療の終結
9.6 よくある質問
スキーマ療法の最終目標である「ヘルシーアダルトモードを身に着ける」ためのさまざまな方法が紹介されます。必読ですが、目新しい技法はありません。
次回は『グループスキーマ療法』を紹介します。
この本はスキーマ療法に限らず、ピアサポートグループの運営や参加をしている人は読んでおいて損がないと思います。